【第239話】ホッケハルンの決戦① 出陣!
ーー第一騎士団がオークルの砦を発ち、南下を開始ーー
ネルフィアの巡らせた第八騎士団の情報網によって、その一報は最短で王都へともたらされた。
「ようやく来たな」
握った右拳を左手に叩きつけるリュゼル。
僕らは準備万端でこの時を待っていた。ようやく、本当にようやく、ルシファルと決着をつける時が来たのだ。
初めて王と謁見したその日、ただその背中を睨むことしかできなかった相手。ついに手が届くところまで来た。ここで必ず、決める。
王都を出た場所に勢揃いした第10騎士団。それを見送るのは、王と、ゼランド王子、そしてザックハート様。
監視役として同席するエンダランド翁と、勉強のため出陣式に立ち会うシャンダルの姿も見えた。
ザックハート様が率いる第三騎士団は王都の最後の守り。万が一ホッケハルンが抜かれたり、別動隊に王都を急襲された時のために、この場に留まる。
用意された壇上に立つゼウラシア王。
1万を超える第10騎士団の視線が、一斉に壇上へと注がれる。
「時は、満ちた」
ゼウラシア王が語り始める。これだけの人がいるのに、城壁の向こうの街の声が聞こえるくらい静かだ。
「ルデクは未曾有の危機にあった。だが、それは今日まで。第10騎士団の活躍によって、新たな時代を切り開く時が来たのだ」
王は一度言葉を切って、第10騎士団全てを見渡して、息を吸う。
「第10騎士団よ! わが誇るべき騎士団よ! 賊にまで成り下がった愚か者どもを悉く打ち破って参れ!」
「「「「うおおおおおおおおおお!!!!!」」」
「副騎士団長、ロア=シュタイン! 前へ!」
「はい!」
「我が剣を預ける! 第10騎士団の指揮を取れ!」
「はい!」
「戦巫女、ルファ=ローデル、前へ!」
「はいっ!」
僕も壇上に残り視線を走らせれば、ルファがちょこちょこと王の元へ駆けてくる。
今回、ルファには王都で待った方が良いのではないかと提案した。ザックハート様の意向もあるし、今の王都が戦場よりも危険だとは思えなかったからだ。
けれどルファは拒否。
「私は第10騎士団だから、一緒に行く!」と。
「今の発言はロアが悪いわよ。ルファだってジュドさんの手伝いも頑張って覚えているし、中途半端な覚悟でこの場所にいるわけではないわ」
ラピリアに怒られ、僕も反省。
そうだ。ルファは自分で決めて第10騎士団に身を投じたのだ。軍医ジュドさんの助手としても活躍できる。彼女も大切な戦力だ。
僕がそんなやりとりを思い出している間に、ルファは王の立つ壇上へ登る。
「ルファ=ローデル。お前が女神ワルドワートに祈った戦いは負けなしである! 今再び、その奇跡を見せよ!」
王に促されたルファは兵らの方に向き直ると、これだけの人数相手ににこりと微笑んでみせる。彼女も本当に強くなった。
「運命の女神ワルドワート様は、正しき者を見守っておられます! 逆賊、ルシファル=ベラスは自ら加護を失いました! 私たちが負ける理由は何もありません! 正義は、我らに!」
「「「「「「正義は、我らに!!!!」」」」」
存分に上がり切った士気を見て、王は満足そうに僕を見た。
「ロア、出陣の声を」
「王でなくて良いのですか?」
「既に剣は預けた。ここからはお前が指揮をせよ」
「分かりました」
僕が預かった剣を抜いて掲げると、再びその場が静まった。
「この剣に誓い、全てを討ち果たす!! 、、、、、出陣するっ!!!!!」
兵が爆発させた歓声は、王都ルデクトラド全てに響き渡るほどであった。
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「ところで、リヴォーテさんは本当に同行するんですか?」
すでに行軍の最中。今更だけど、最後の確認をする僕。帝国からの使者であるにも関わらず、リヴォーテは今回の戦いに同行を願い出た。
「無論だ。私の仕事はルデクが負けるかどうかを確認することだからな」
ふんっとばかりに答えるリヴォーテ。
「おいリヴォ太郎。足は引っ張るなよ?」
「ルデクが負けたらお前のせいだからな」
「なんだと!」
双子の挑発に簡単に乗るリヴォーテ。仲がいいんだか悪いんだか、とにかく賑やかなことだ。
「どこで兵を分けるんですか?」
僕とリヴォーテの会話の終わりを見計らって、声をかけてきたのはサザビーだ。サザビーとネルフィアも当然のように同行している。
「これでも一応ロア殿の部下ですので」などと言いながら。
そんな初期の頃の話を、、、と思いながらも、2人がいるのは心強い。
「もう少し先だね」
僕は今回の戦いで、第10騎士団を2分割する策をたてた。
「しかし、思い切った策ですよね。そう思いませんか、ネルフィア?」
サザビーに話を振られたネルフィアは
「私は策そのものよりも、、、、」
「よりも、なんです?」
「私の準備が無駄にならなかったことの方に、少し驚いています。。。。まあ、いつものことですが」
そんな風にネルフィアが微笑むと「ネルフィアの言葉通り、ロアのことで驚いたりするのは労力の無駄よね」と返すラピリア。
ラピリアの褒め言葉なのかなんなのか分からない言葉を聞きながら、僕らは先を急ぐのだった。