【第230話】ゴルベルの決断① フランクルトの手紙
呼び出されてすぐに謁見の間に向かうと、「随分と早かったな」とゼウラシア王が目を丸くした。
それもそのはず。王が呼んだのは僕以外にラピリア、ウィックハルトの僕の側近2人。それと、僕とは別にザックハート様、ゼランド王子、ネルフィアとサザビーも呼び寄せていた。
全員僕の執務室にたむろしていたので、呼び出しを命じられた兵士も随分と効率が良かったことと思う。
王以外で既に謁見の場にいたのは、フランクルトとサイファ様だけ。フランクルトはなんとも言えない困惑の表情で僕らを出迎える。
亡命のために単身、敵国の船に上がってきた時さえ泰然としていたフランクルト。このような表情は少し珍しい気がする。
「もうすぐ他の者たちも来よう。それからリヴォーテ殿とエンダランド公の両名もな」
「帝国の? 今回はゴルベルの使者では?」
僕が首を傾げると「帝国に隠すような内容では無いと判じた。むしろ立ち会ったほうが都合が良い」と言う。
「詳しくは全員揃ってからだ」と勿体ぶられ、昨日の報告で王が疑問に思った点などを問答していると、呼び出された人達が次々やってきた。
最後にリヴォーテとエンダランド翁が訝しげに入室すると、王は改めて「では始める」と皆に宣言。
「リヴォーテ殿とエンダランド公も疲れの取れぬ中、急な呼び出しで申し訳ないな」
最初に帝国の使者に配慮する王。
「いえ、しかしゴルベルの使者が来た、と聞きましたが、なぜ我々が?」リヴォーテも僕と同じ問いを投げかける。
「理由はいくつかあるが、本件は最初から帝国の者達にも立ち会ってもらったほうが良い内容であったのだ。貴国との同盟に後ろ暗いことがないという信頼の証と捉えてもらえれば良い」
「、、、なるほど。畏まりました」リヴォーテも深くは追及しない。とりあえず、ゴルベルの使者の話を聞いてから、そのように考えたのだろう。
「それで、その使者というのは、、、」文官の一人が王に聞くと「使者は今、控えの間でお待ちいただいている。全員揃ったので、これからお越しいただこう」との返事。
んん? なんか今、変な言い回しだったな? 使者相手に王が随分と丁寧な言葉遣いだったような。。。
「フランクルト、頼む」
「はっ」
王の命を受けて退出したフランクルトは、すぐに戻ってくる。
連れてきたのは、鋭い視線と鷲鼻が特徴的な武官に守られた青年と、ルファよりも年下に見える少年。
「そのお方はゴルベル王のシーベルト殿、その子息のシャンダル王子、そしてファイス将軍だ」
ゼウラシア王の言葉にその場の全員が息を呑む。聞き間違いかと目を瞬く者もいる。
「僭越ながら、発言を宜しいか?」最初に言葉を発したのはエンダランド翁。
「構わぬ」
「儂の知る限り、ゴルベル王はもっとご年配であったと記憶しておりますが、、、」
それに答えたのはゼウラシア王ではなく、シーベルト。
「父は私が隠居させました。現在の王は私です。貴殿は帝国の方とのことですね、皇帝陛下にもよろしくお伝えいただきたい」
「これはこれは、、、、いやはや、、、、」歴戦のエンダランド翁でさえ言葉に詰まるのだ。僕らに至っては状況を理解ができていない。
そんな中で、シーベルトはフランクルトに小声で何か問い、フランクルトが答えながら僕を指差した。なんで指差したの?
「貴殿がロア殿ですか?」
爽やかな表情で僕へと声をかけてくるシーベルト。
「はい」僕がとりあえず答えると、「貴殿のおかげです」と本当に意味のわからない言葉が続く。
「えっと、、、なんの事でしょう?」
「貴殿がフランクルトに命じて、手紙を認めさせたと聞きました。帝国とルデクは同盟する、と」
「あ、はい」
「そのお陰で私が王になれたという事です」
うん。やっぱり意味がわからない。
困惑する僕に、若き王は「失礼、少々気がせいてしまいました。追ってご説明いたします」と笑う。
「順を追って話したいところですが、まずは私がこの場に訪れた用件を先にお話ししても宜しいですか?」
異論がないことを確認すると、シーベルトは隣にいる少年の肩に手を置いた。
「この度はルデクと当国の終戦を願い入れ、その証として私の息子を貴国で学ばせたく連れてきた次第です」
とんでもないことを言い始めたな。この人。
ルデクで学ばせる、そのように言えば聞こえはいいけれど、それは実質ルデクに人質を差し出して終戦を願い出たということだ。つまり、事実上の従属を伴う降伏宣言である。
王自ら降伏を覚悟して切り込んで来たのか。暴挙か、それとも計算あってのことか。
「突然王都まで押し掛けて直談判なんて、なかなか一筋縄じゃ行かないお方みたいだなぁ」
僕が小声で呟くと
「ロアも似たようなことやったわよ? つい最近」
とラピリアが小さく突っ込んだ。