【第222話】皇帝とロア24 危険な男
僕らが連れていかれたのは、豪奢な8つの椅子がぐるりと並べられた部屋。
椅子の後ろにも一目で高価とわかるソファが並べられている。
椅子に座るように指示された僕。8つ椅子には皇帝ドラク、その子息であるロカビルとツェツィー、それからルルリアにリヴォーテ様。さらにエンダランド翁と、「なんで俺まで」と不満を漏らすスキットさんが着いた。
他の人たちは皆ソファへ。
「おい、ドラク。エンダランドはともかく、俺を巻き込むんじゃねえ!」
開口一番不満を漏らしたのはスキットさん。
「貴様! 陛下に向かってその口の利き方はなんだ!」と憤るリヴォーテ様をスキットさんは完全無視。あの鋭見のリヴォーテを以て、格下に見えるスキットさんは多分、凄い。
「うるせえな。お前のところの阿呆がうちの娘を攫ったんだろ? その分仕事しろや」
先ほどとは打って変わって乱暴な口調の皇帝。こっちが素か。
「陛下! ルデクの者がいるのに、そのような、、」即苦言を呈するリヴォーテ様だったけれど、鼻であしらわれる。
「あのなぁ、リヴォーテ。俺が盟友と認めたってことは、それなりに対応をするってことだ。俺がどれだけ口説いてもなびかなかったゾディアや、俺から見ても異質な義娘に気に入られている男だぞ。俺の“内”に入れた以上は、お前同様に身内みたいなもんだ」
お前みたいにと言われたリヴォーテ様は「ぐぬぬ」と言いながらも引き下がる。同時に僕はドラクの求心力の一端を垣間見た気がした。迅速な決断力と、利をかぎ取る嗅覚、そしてこの人たらしぶり。本物の英雄とは、こんなに人間臭いのか。
「仕事? おいおい、俺はお前の部下には、、、」なおも異議を唱えるスキットさんの言葉に被せるように皇帝は続ける。
「別に部下になる必要はねえ。お前の人脈を使わせろって言ってんだ。何、お前にとっても悪い話じゃねえよ」
「、、、どう言うことだ?」
「おい、ロア、港を造るのにお前らは金を出すんだよな? 人は出すのか?」
それは僕の提案の泣きどころ。
「、、、技術者はもちろん出しますが、人足までは、、、正直難しいです」
人足を移動させるだけでも莫大な費用がかかる。人手に関してはツェツィーを頼るつもりだった。
「だろうな。で、スキット、お前の出番だ」
「、、、言いたいことは分かった。新港建設はあぶれ者どもの大きな仕事の口になる。それを俺に取り纏めろってか」
「お前が俺に仕えなかった一番の理由は、「帝国で行き場のなくなった奴らを助けてやりたい」だったな。それと今回の失態。帳尻合わせるには丁度良いだろう?」
スキットさんは渋面を作りながら舌打ちをする。
「、、、俺はお前のそういうところが嫌いなんだ。なんでも分かったように差配しやがって。。。だが、確かに今回の件は俺の落ち度だ。ちっ。今回ばかりは乗ってやるよ」
「よし。決まりだ。あとはツェツェドラとルルリアと詰めろ。それからリヴォーテ」
「はっ」皇帝に指名されたリヴォーテ様は嬉しそうに返事をする。本当に皇帝大好きだな、この人。
「お前、こいつらと一緒にルデクに行け」
一転、この世の終わりのような表情をするリヴォーテ。
「何故です!? 私は何か陛下の不興を買いましたか!?」
僕らがびっくりするくらい取り乱したリヴォーテに、皇帝は「ちげえよ馬鹿」と笑う。
「お前、この会談前に「ルデクの使者と会うのは反対です」って言ってたろ?」
「言いましたが?」
、、、何を言ってくれているんだ、この長髪メガネ。
「だからよ、お前だったら絶対にルデクに忖度しねえだろうなと思うんだわ」
「何に対してですか?」
「そりゃあ、決まっているだろ? ルデクが負けたら、俺たちがリフレア、ルデクを両方喰らうためだ。そのためにお前には、ルデクに行ってもらう。ルデクが負けたらすぐに知らせろ」
「なるほど、そう言うことでしたら、この私にお任せください」
急に冷静になる長髪メガネ。いや、今更冷静そうな雰囲気を醸し出されても、、、今回の来訪で一番びっくりしたの、この人のキャラクターかもしれない。想像と違いすぎる。
「良いな、ロア」
皇帝に聞かれ、僕は「問題ありません」と返す。
「それともう一人、エンダランド。お前も一緒にルデクへゆけ」
「ほ? ワシは引退した身ですぞ?」
「十分に元気そうだろうが。口を挟んだ以上は働いてもらう。リヴォーテ一人だと話が拗れる。現地での窓口はお前がやれ」
「陛下!? お言葉ですが私一人でも大丈夫ですが?」
「リヴォーテ、お前、ルデクで俺が馬鹿にされたらどうする?」
「それは、もちろん八つ裂きにします」
もちろん八つ裂きにします、ではない。とんでもない危険人物だった。
「それやったら、解雇にするからな」
「何故ですか!?」
本気で分かっていないのが恐ろしい。
「ロア、エンダランドの件も、問題ねえな?」
「もちろんです」
むしろ、危険人物を一人で送り出さないでほしい。
「よし、じゃあ、次の話だ」
こうして皇帝を中心とした同盟に関する話し合いは、深夜まで続くのであった。




