【第217話】皇帝とロア19 謁見(1)皇帝の問い
「明日の昼すぎに参内するようにとの仰せでございます」
皇帝の本当の使者はそのように言い残し、なんだか悔しげなリヴォーテを連れて帰って行った。
「ロア殿、申し訳ありません」使者が帰った後でツェツィーが謝罪してくるけれど、逆にこちらが申し訳なく思うくらいに気にしていない。
むしろ、かの高名な鋭見のリヴォーテを間近で見ることができて、お礼を言いたいくらいである。
「しかし、、、リヴォーテのことを知りながらなお、初対面のあの男に一歩も引かぬとは、、、貴公の評価を改めねばならん」
そのように口を挟んだのはガフォル将軍だ。そちらへ視線を移せば、カクックさんやウルサムさんも、感心したような視線を僕へ向けていた。
対照的なのは身内の方。双子は面白そうに眺めていたけれど、ラピリアの言葉が全てを物語っている。
「ロア、、、、趣味も大概にしないと身を滅ぼすわよ?」
はい。すみません。
ともかく、ようやく皇帝との謁見となる。
少なくともリフレアの話は、まだ伝えてもいない僕たちの提案と天秤に乗せても良い程度の内容だったようだ。
こうしてこの日は明日の謁見のための打ち合わせに時間を費やし、瞬く間に過ぎ去ってゆく。
翌日の午前中も似たようなものだ。
やるべき事はやったと思う。あとは当たって砕けろと言う心境だけど、時間が足りなかった部分もない訳ではない。
結局、スキットさんからの連絡は届かないままだ。スキットさん達を騙し、ルルリアを拐かした依頼主は、未だ見つかっていないと言うことだろう。
謁見の最中に万が一リフレアから横槍が入ったら、ルルリアの件を利用しようかと思ったのだけれど、そう上手くはいかないか。
まあ、間に合わないのなら仕方ない。そちらは後できっちり方をつけることにする。
ここまで色々、、、、本当に色々あったけれど、ようやく僕らは皇帝との対面が叶ったのである。
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「来たか」
居並ぶ諸将の中央、玉座に座る男が重々しく口を開く。少し痩身で、神経質そうに見える目つきの鋭い男だ。
あれがグランスウェウルの再来と呼ばれた傑物、グリードル帝国初代皇帝、ドラク=デラッサか。
「ルデク第10騎士団、中隊長のロアと申します。お目通りが叶いありがたく存じます」
「ドラク=デラッサだ。ロア、早速だがお前に聞きたいことがある」
「なんでしょう?」
「レイズ=シュタインは死んだのか?」
躊躇なく切り込んで来たな。
「それを聞いて、何とされます?」
僕の言葉に不敵に笑う皇帝。
「無論、レイズが死んでいるならルデクは攻め取る。重傷でも同じこと。嘘をつけば、この交渉は終わりだ。いずれにおいても、貴殿らの首を並べて、ルデクに攻め入ろう」
「陛下! それでは、最初から交渉をするおつもりではないのではございませんか!」
意外なことに、異議を唱えたのはゾディアだった。
「ゾディアよ。お前は随分とその男を買っているようだが、お前ほどの女が公平性を持たぬなど、愚の骨頂よ。俺はそのロアという男を信用しておらん」
「ではなぜ!?」
「さて、なぜかな?」
ゾディアの言葉を皇帝ははぐらかす。
なるほど、なるほど、これが皇帝か。
「皇帝、発言を宜しいですか」
僕が割って入ると「当然構わぬ、さあ、答えを聞こう」と畳み掛ける皇帝。
なら僕の答えはただひとつ。
「皇帝ドラクは愚帝でいらっしゃるのですか?」
場が一瞬で凍りつくのが分かった。
そちらを見る余裕はないけれど、リヴォーテあたりは剣に手をかけているかも知れないな。
だけど僕はひたすら、必死に、皇帝の目を睨み返す。
わずかな時間を置いて、皇帝がふっと唇を緩めた。
「ルデクのゼウラシアは、我が義娘のその言葉を笑って許容したとのことだったな」
そこでルルリアが一歩前に出る。
「その通りです。お義父様」
しおらしいルルリアの言葉を受け、皇帝は一度僕らを睥睨する。
「くくく、、、このような形で意趣返しを喰らうとは思っておらなんだ。面白い。話くらいは聞いてやろう」
僕がほんの少しだけ息を吐いたのを見越したように、皇帝は続ける。
「だが、それとこれとは話は別だ。レイズ=シュタインは死んだのか? 答えよ」
そうだよね。そう簡単に行かないのは分かっていたさ。
僕は一度、ラピリアとウィックハルトへ目配せをする。
2人は穏やかに頷きを返してくれる、僕は良い部下を、そして仲間を持った。
「、、、、レイズ=シュタイン様は逝去されました」
はっきりと宣言した僕に、皇帝よりもその周辺がざわつく。
皇帝は満足げ。
その物言いだと、こちらも必要以上にへりくだる必要はないな。
言っておくけれど、このままそちらのペースで話すつもりはないよ?
さあ、皇帝ドラク、僕と腹を割って話そうじゃないか。