【第213話】皇帝とロア15 ロアと真実(上)
スキットさんとの話し合いを終えた。「あとは任せろ」との頼もしい返事をもらって帰路に就く。
そして今、僕はみんなに取り囲まれるようにして座っているところだ。
用件は分かっている。今回の一件、皆から見れば全く訳がわからないだろうな。
本来であればここで話すつもりはなかった。ラピリアやウィックハルトにはいつか、とは思っていたけれど、それは今ではないと思っていた。
正直、話すことに少し躊躇していた部分もある。
けれど、流石にもう誤魔化しは利かない。腹を決める時だ。
「全て話すよ。でも、時間がかかる。それに信じてもらえないかもしれないような、荒唐無稽な話だ。それでも良ければ、話す」
「、、、、構わないわ。けれど、それなりに内密にした方が良いことなの?」
ラピリアが聞いてくる。
「できれば、その方がありがたいかもしれない。どんな影響があるのか分からないから」
僕の言葉に反応したのはツェツィー。
「それなら、部下は外しましょう。ガフォル、、、君はどうする?」
「、、、、そうですな。私も席を外します。皇子が伝える必要があると思えば、後から教えてください」
「私は同席しても宜しいのですか?」ゾディアは判断に迷っているようだ。
「構わないよ。どの道ゾディアにも話す必要がある話ではあったんだ」約束したからね。全て話すって。
残ったのは、ツェツィーとルルリア、ラピリア、ウィックハルト、双子、ネルフィア、サザビー、そして、ゾディア。
さてと、、、どこから話そうかな。レイズ様の時と違って、時間はたっぷりある。
「もしも僕が、40年もあとの時代から、ルデク滅亡を防ぐためにやって来たって言ったら、信じる?」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
僕はゆっくりと、ルデクが滅んだ未来。放浪していた時期に出会った旅一座のこと、帝都で暮らしていた時のこと、そして、王都炎上から40年後に小さな町で息を引き取ったこと。それから、気がついたら42年前に戻っていたことを、淡々と話す。
何せ一通り話すのは初めての事。途中でつっかえたり、話が前後したりと分かりにくかったとは思うけれど、それでも誰も何も言わずに聞いてくれた。
一通り話し終えて気がつけば、僕の喉はカラカラ。どれだけ喋っていたのだろう。
お茶を一口含んでも、なお、誰も言葉を発しようとしない。
もしかして長時間ホラ話を聞かされたと怒っているかな? それなら困るけど、どうしようもないしなぁ。
「、、、、だから帝都のこともよく知っていたんだ。ま、こんな話、信じられないとは思うんだけど、、」
最初に「いえ、私は信じます。これでようやく納得がいきました」と言ったのはゾディアだ。
「逆転する星の巡り、それに影響を受けた星。なるほど、、、あり得ないと片付けるのは簡単ですが、、、私の星読みとあまりにも一致します」
実に、ゾディアらしい意見だ。
「私たちも信じざるを得ないわね、、、その話の通りなら、ツェツィーは死んでいたことになるし、今振り返ってみれば、その可能性は十分にあったわ。あの、ロアの手紙がなかったら、”そう”なっていた可能性が高い」
ルルリアの言葉にツェツィーも頷く。
「よく分からないが」
「とりあえずお前についていけば退屈しないってことは分かった」
双子は分かったのか分かってないのか、よく分からないことを言う。
残るは4人。
僕がそちらに視線を向けると、ネルフィアは手を額に当てて首を振っていた。
「、、、私はあまり、神とか奇跡とか信じないのですが、、、でも、、、」
「ネルフィアは嘘を見抜くのもうまいんですよ」とサザビーが茶化す。
ネルフィアは手のひらの間からサザビーを睨むと、一度大きくため息を吐いた。
「信じられませんが、ロア様は嘘を言っていません」
「ネルフィアがそう言うなら、俺も信用するしかないですね。ま、俺もこれで合点がいったところも多いですし」
残るは2人。
「ロア殿、聞いても良いですか? ロア殿にはこの後の歴史も分かっているのでしょうか?」
ウィックハルトの言葉に僕は「残念ながら」と返す。
「ハクシャの戦いのあたりから、歴史はだんだんと変わっている。まぁ、僕が変えていると言った方が正しいのだけど、、、説明した通り、僕が知っている歴史では、王都をルシファルとリフレアに急襲されて炎上したのは遠征より少し後の話だよ。でも今回、ルシファルとリフレアは歴史より早く動いたし、王都に辿り着くこともなかった。ゴルベル遠征の出発まではどうにか近い歴史を歩んでいたけれど、もう完全に別物だと思う。はっきり言ってこの先は全く予想がつかない」
「なるほど、では、帝都にいるのはロア殿の知っている歴史では存在しない話だった?」
「そうだね。そもそも帝国と交渉する暇もなく滅んだからね」
「それなら、ここまで私が信じてきたロア殿に、なんら疑問はありません。貴方が考えてここまでたどり着いたのですから。私は貴方の弓として共に歩むのみです」
「ウィックハルト、、、、、、」
最後に彼女が残った。
僕が未来の話をするのを躊躇したのには理由がある。
彼女の口が、小さく開く。
「レイズ様が助かる選択肢は、なかったの?」
僕の心臓がわずかに跳ねた。




