【第211話】皇帝とロア13 ルルリアの危機(3)
「ルルリア! 心配したんだよ!」
僕らが無事にルルリアを連れ戻ると、早々にツェツィーがルルリアの元へと駆けてくる。
「ごめんなさい! ツェツィー! 失敗しちゃった!」
「本当に君は、、、今回ばかりは少し怒っているよ」
「うん。私も流石に反省してる」
夫婦の会話は放っておいて、僕は双子に声をかける。
「出番だよ。でも暴れるわけじゃないからね。それからウィックハルトやラピリアも一緒に来るかい?」
「行くって、何処へですか?」
「帝都の裏町の元締めのところ」
僕の返答にびっくりするかなと思ったけれど、みんなの反応が薄い。
「アンタねぇ、、、なんでびっくりしてないんだろう? みたいな顔しているけれど、もう色々通り越して呆れるだけよ。ちゃんと説明してくれるんでしょうね?」
そんなラピリアの言葉に皆が頷く。少々釈然としない。
「おい、焦らすな」
「出かけるなら行くぞ」
双子に至っては最早疑問など気にもしていない。ま、早めに決着をつけた方がいいから急ぐけどさ。
「待ってください、どこに行くのか分かりませんが、僕も同行します」
「あ、もちろん私も行くわ!」
「申し訳ないけれど、ツェツィーは待っててくれるかな。ちょっと皇子が行くような場所じゃないから。それからルルリアは今回は自重しようよ」
裏町の元締めの場所に皇子が出入りするなんて、後から何を言われるかわかったものじゃない。流石に連れてはいけない。
「、、、、そうですか、、、分かりました。ですが、戻ってきたら説明してもらえるんですよね?」
なんか色んな人から説明を求められているなぁ。仕方がないけれど。
「あの、、、でしたら私たちだけでも、、、」
そのように手を挙げたのはカクックさんとウルサムさん。責任を感じているのだろうけれど、結局皇子に近しい関係者の出入りは、同じ理由で芳しくないのでご遠慮いただく。
ルデクの人間は帝都で後から何を言われようと関係ないので、気軽にウィックハルトやラピリアは誘えるのである。
「あ。そうだ、ツェツィー。できれば皇子の関係者だって、誰でも分かる物があれば借りたいんだけど、何かあるかな? それからポンモールさんにもお願いが」
「なんでしょうか?」
「ポンモールさんの商会でお酒は扱っていますか?」
「もちろんです」
「ディサークの25年物、あります? 買いたいのですけど」
「多分あると思いますが、何本入り用ですか?」
さすが大きな商会だな、ディサークの25年はなかなか出回っていないはずだ。スキットさんはこのディサークというお酒が好きで、特に25年物は宝物のように大切にして、特別な時だけ開けていた。これ以上の手土産はないだろう。
「そうですね、、、あるなら、2本。1本でも十分です」
「畏まりました、では早速見繕って参ります」
ポンモールさんが退出しようとした所をツェツィーが引き止める。そして「料金は私につけるように」と命じる。僕が口を挟む前にこちらを向いて、「ロア殿には、こちらを」と、凝った装飾の短剣を手渡してきた。
「当家の家紋入りの短剣です。第四皇子の私しか使用できない紋様も含まれています。これを見せて尚、私との関係を訝しがる者はそういないかと」
「そう、じゃあちょっと借りるね。それじゃあポンモールさんを待って出かけよう」
ポンモールさんはさして時をおかずに戻ってきた。手には3本のディサーク。しかも25年物以外に、40年物の超ヴィンテージも。
「いや、これは流石に買えないです」と答える僕に「会計は皇子より頂きますので」と押し付けてくる。
さらにはツェツィーも「どうせ渡すなら最上の物の方が効果的でしょう」と意地でも持たせようとする。
それなら25年物は1本残して後でみんなで楽しもう。そんな落とし所に落ち着いて、僕らは再び裏町に向かうのだった。
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スキットさんのねぐらは、二階建てのボロい宿屋。
建物の見た目は、金を惜しむ旅人でも二の足を踏むような荒れ模様だ。
何も知らなければ廃墟に見えるかもしれない。
ただしこれは表向きだけだ。
入り口には飲み屋の店主、クルサドが周辺を睨みつけるように立っていた。
こちらに気づくと凄い勢いでやってきて、そのままの勢いで僕の胸ぐらを掴もうと腕を伸ばす。
が、僕の周りに強者の雰囲気を漂わせる人間が多数いるのに気づいて、寸前で思い止まった。いい判断だと思う。
「、、、やっぱりここを知っていやがったのか、、、本当に、お前、何者だよ」
目の奥に少し怯えが見えた。別に怖がらせるつもりはないのだけど。少し申し訳ない。
「その様子だとスキットの爺さんに話を伝えてくれたみたいだね。助かるよ。ありがとう」
「ちっ。うるせえよ」
「まあまあ、ほら、こうして手土産も持ってきたし、友好的に話がしたいんだ。連れていってくれる?」
クルサドは僕の持つ土産と僕を何度も見比べて、いよいよ恐怖に近い表情を隠そうともしなくなってきた。
それでも必死に虚勢をはると「、、、、黙って付いてこい。舐めた真似をすれば、生きて帰れねえぞ」と言って、僕らを先導してくれる。なんだかんだ言って律儀な男なのである。
こうして僕は、実に久しぶりにスキットさんとの再会を果たすことになるのだった。