【第200話】皇帝とロア② ルルリアの返事
いつもブクマ、評価、いいね、感想、レビュー、誤字報告ともにありがとうございます!!
本当に励みになっています!
皆様の温かいご支援をモチベーションとして200話まで書き続けることができました。
物語としては半ばは過ぎたと感じています。多分。
必ず完結まで書くつもりでおりますので、願わくば、最後まで楽しんでもらえますように。
「実は、ルデクと帝国を同盟させたいんだけど、味方してくれない?」
「ん? 良いわよ」
「ちゃんとこれから説明は、、、、え? いいの?」
テーブルでポージュを囲みながら、ルルリアは至極あっさりと言った。
「もちろん事情は聞かせてもらうけれど、断る理由はないでしょ?」
「そうかな? 帝国にとってはルデクと組まない方がいいかもしれないけど」
「帝国は帝国、私は私。ルデクは気に入っているし、友人もいる。グリードルとルデクが仲良くしてくれた方が私としては嬉しい。それにルデクは祖国の上客だもの」
実にルルリアらしい考え方だ。
「ツェツェドラ皇子の説得も協力してくれるのかしら?」ラピリアが聞くと「別に説得の必要はないと思うわ」との返答。
「ロアに借りがあるから?」
「違うわよ。ロアへの借りは私が絶品のポージュをご馳走するって言ったでしょ? でもこのポージュも美味しいわね。ロア、貴方腕をあげた?」
「材料はこの街の市場のものだから、市場にあった素材がいいんじゃないの?」僕の答えにむむむと腕を組む。
「まだ私のポージュにも改良の余地がありそうね」
結構大事なお願いをしたつもりだけど、ルルリアにとってはポージュの改良の方が重要と見える。
「なんか変な姫だな」
「面白いやつだ」
双子もルルリアを気に入ったらしい。ポージュをがっつきながら、好奇の目を逸らそうとしない。
「あら、貴方たちも面白そうね。私と気が合いそう」
「奇遇だな」
「私たちもそう思う」
瞬く間に意気投合したルルリアと双子。まぁ、この組み合わせは仲良くなりそうな気がしていた。どちらも破天荒さが頭ひとつ抜けた存在だ。
ルルリアはノースヴェル様とも仲良しだし、こういうざっくばらんな性格の相手と相性が良いのだろう。
しばし談笑し、お腹がいっぱいになったところでルルリアが「さて」と口を拭う。
「事情を聞かせてもらおうかしら、、、と言いたいところだけど、ツェツィーも一緒に聞いた方が話が早いでしょ? 早速私たちの館に、、と、流石にこの時間からはないか。朝一番で出発するわ」
と、早々に付き従っていた兵士にテキパキと指示を出し始めた。
「そうだロア、船と乗組員はどうするの? ここで宿を用意する? それとも一緒に連れて行くのかしら?」
「あ、大丈夫。僕らがルルリアと合流したのを確認したら、船はルデクに帰る予定だったんだ」
これは最初から決めていたことだ。帝国領にいつまでもルデクの軍船が停泊していると言うのはあまり好ましくない。
それに、交渉が成功して同盟が成立すれば、帰りは陸路のほうが早い。さらに言えば失敗した場合はこの港まで帰ってこれる可能性の方が低いから、待っている意味はあまりないのだ。
そのように説明すると「あら、そう」と言ってから、ルルリアは少し考える仕草。
「それならウチの領地の特産品を積んで帰ってもらえる? それで、ゲードランドで宣伝するようにお願いしてよ」
「多分問題ないけど、売れたところで売上金を持ってこられないよ?」
「良いのよ。今回は宣伝用。ロアが同盟を成功させたらグリードルとルデクの間で物の動きが活発になるでしょ? そのための先行投資よ」
、、、、相変わらずちゃっかりしているなぁ。
苦笑する僕を見返してくるルルリアの瞳の奥から、「そりゃあ、私はルルリアだもの」という心の声が聞こえてきそうだった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
第四皇子夫妻が治める領地は、草原の多い穏やかな土地だ。
そこここで放牧された家畜がのんびりと草を食んでいる。
「のんびりした良いところね」ラピリアが感想を伝えると、「そうね。雰囲気が祖国に近いから、結構気に入っているわ」とルルリア。
「うまそうな牛だな」
「ルルリア、お前の家で肉は出るのか」
朝も存分にポージュを腹に収めたばかりの双子は、すでに夕飯の心配。
「ええ。任せておいて。確か、ルデクにはハローデル牛って美味しい肉があるのよね。食べ比べたことがないから分からないけれど、ウチのファニーノ牛も美味しいわよ。あっさりしていてついつい量を食べちゃうのよね」
太っちゃって困るわ、と笑うルルリアの牛たちを見る視線は柔らかい。
「なんというか、、、良くも悪くも緊張感がないっすね」というサザビーが一番脱力した顔をしており、本当にちょっとした遠足気分だ。
「こう、薄々思っておりましたが、ロア様に気負いがないのが良いのでしょうね」と、ネルフィアに褒め言葉なのか何なのか分からないことを言われながら、僕らは先へと進む。
「見えた、あれが私たちの住むフレデリアの街よ。王都に比べると小さいでしょう」
ルルリアが指差す先には、確かに王都に比べれば小さいけれど、雰囲気の良さそうな街が見える。
「あら? あれ、、、ツェツィーじゃないかしら」
フレデリアの街の城門に、騎乗した数名が屯しており、こちらに気づくとそのうちの一人が大きく手を振ってくる。そしてその横には背中に大きな剣を背負った人物の姿も見える。
僕も手を振り返しながら近づけば、確かに帝国の第四皇子ツェツェドラ=デラッサその人と、帝国の勇将、大剣のガフォル将軍だ。
「お久しぶりですね! ロア殿。まさか本当に本人だとは驚きました!」
気さくに来訪を歓迎してくれるツェツィー。それからルルリアの方を向いて、少し困ったような笑顔を作り「ルルリア、僕たちが戻ってくるのを待てなかったのかい?」と言う。
え、ルルリアは勝手に来たの? もし僕らが偽物だったらどうするつもりだったのだろう。
けれどルルリアはそんな伴侶の苦言に「あら、ロアの名前を騙る不審者だったら、大切な領主様と軽々に対面させるわけにはいきませんもの。妻たるもの、まずはちゃんと確認しないと」と悪びれもしない。
そんな夫婦のやり取りを最早諦めたように眺めるガフォル将軍を見て、僕はなんだか少し愉快な気持ちになるのだった。