【第193話】王とロア⑥ 議会は踊る(2)
第10騎士団の主力武将であるグランツ様、かたや第四騎士団の主攻を担うユイメイの双子。
ボルドラス様はその両者を交換したいという。
「、、、理由を聞こう」
第10騎士団の騎士団長はゼウラシア王だ。ボルドラス様はゆっくりと頷くと口を開く。
「第一に、両者の希望です」
「希望?」
「ええ。私は王都へ向かう前にグランツ殿と今後の連携について打ち合わせをして来ました。ご報告の通り、我々はルデク北西部の守備と、暫定的にゴルベル北部の統治も請け負っております」
「うむ」
「特にグランツ殿が居座る場所は、王都からあまりにも遠い。第10騎士団長に都度指示を仰ぐには、何かと不自由があると」
「、、、、そうか」
ゼウラシア王もグランツ様があの場所を守る理由はすでに聞き及んでいる。無理に引き離そうとするつもりは無いようだ。
「そしてユイゼストとメイゼストですが、こちらは第10騎士団、というかロア隊への編入を希望しております。確かにグランツ様はルデク有数の将ですが、この2人との交換であれば戦力的な差は少ないかと」
普段なら
「おい」
「私たちの方が上だ」
とでも言い出しそうな2人であったけれど、流石に神妙な顔で大人しくしている。
「、、、ユイゼスト、メイゼスト、事実か?」
「はい」
「ロア隊への編入を希望します」
、、、、ありがたい話だ。僕は何も聞いていないのだけど、、、
少々困惑している僕に、王から声がかかる。
「ロアとしては、どうだ?」
「そうですね、、、不満はありませんが、先ほどボルドラス様が第一に、と言ったということは別の理由も?」
「ええ。やはりゴルベル北部は占領したばかりで情勢が不安定です。当面あの辺りはゴルベルにも名前の知られた将に、どっしり構えて頂きたいのです。今回のように私が不在でも、グランツ様なれば安心して任せられます、双子は攻めならば一級品ですが、守りは少々、、、」
双子がエヘヘと照れくさそうにしているけれど、一切褒められてなどいない。
「、、、ボルドラス様の話は納得できます。双子は2度共に戦いましたが、戦力としては申し分ありません」
僕がゼウラシア王に答える視界の端で、小さくもっと言ってやれ! みたいな動きをする双子。自重しているようだけど普通に見えているからね。
「、、、ボルドラスの言い分はわかった。確かにゴルベル北部にグランツがいれば、大きな楔となろう。よし。それぞれの将の配置転換を認める」
「ありがとうございます。大事なお話の前に失礼致しました」
ボルドラス様が立ち上がり、会議に参加している全員に一礼。王はボルドラス様が座るのを待ってから、「では、本題に入る」と話題を変えた。
まずは状況の報告だ。
これはネルフィアが淡々と説明してゆく。
第10騎士団がゴルベル領内でリフレアに背後から襲われ、レイズ様が重傷。
第二騎士団の団長の証言や、その他の報告、状況証拠から第一騎士団の裏切りが確定。
第二騎士団は人質をとられ第一騎士団に従っている。
第九騎士団も同様だが、こちらはもっと深刻で、ヒューメット様が殺された。
しかも一部の貴族が中心となって進んで裏切ったことが、グリーズさんやシャリスの報告ではっきりしている。
時間が経つにつれて、第九騎士団からの投降兵が日を追うほどに王都にやって来ており、それらの証言も踏まえて、貴族達であっても言い逃れのできない状態である。
貴族院のお歴々が一様に表情がすぐれないのは、第九騎士団の一件が原因だ。
第10騎士団を作るために第九騎士団も作ったと聞いている。それも反対派の受け皿として。ならば設立の過程に貴族院が大きく絡んでいる可能性は高い。当然裏で何かしらの利権が動いているはずだ。
ゼウラシア王が基本的に第九騎士団に口を出していないのは、状況からして間違いない。ということは、貴族院に一任していたと考えるのは想像に難くない。
つまり、貴族院としては最大級の大失態だ。下手をすれば数名どころではない人間や家が責任を負うことになる。裏切った将官の家は当然、それを推薦した者たちもただでは済まないだろう。
裏切った貴族たちは見誤った。僕らが間に合わずに王都を落とせると確信でもしていたのか? だとすればおあいにく様としか言いようがない。
王は貴族院の代表を一瞥してから、ネルフィアに「民への対応は?」と聞く。王は当然把握しているので、この場にいる人間への情報共有が目的だ。
「レイズ様に関しては、重傷を負われ館で療養中であることを隠さずに広めております。そのほうが宜しいかと。第一、第二騎士団に関してはまだ緘口令を。第九騎士団に関しては一部の将官が裏切ったと広め、散々に蹴散らしたことも併せて。リフレアに関してはかの国に不穏な動きあり、として、現在一般人や商人の通行を止めています」
「うむ。ここまでは良いか?」
誰からも質問はない。
「聞いての通り、今のところ王都の民に大きな混乱はない。だが、時が経てば北部の状況は明らかになるであろう。現在、ルデクは周囲全てを敵に囲まれているのが現状だ。これについて、何か打開策はあるか?」
王の元には今度も沈黙が返ってくる。
「では、話を進める。先だって、第10騎士団のロアが現状打破の案を献上してきた。私は一考の余地ありと考え、この”宣言の間”に集まってもらった。ロア、説明せよ」
「はい」
僕と、それにラピリアとウィックハルトが一緒に立ち上がる。
2人は僕がこの策を話した後、何かあった時のためにと言って一緒に矢面に立つことを決めてくれた。
2人の存在に頼もしさを感じつつ、僕は一度全員の顔を見渡し、それから帝国との同盟について話し始めるのだった。