【第189話】王とロア② 第10騎士団の帰還
「見えた!!」
誰かが叫んだ。
王都、ルデクトラド。その姿は僕らが出発した時と変わらず、平穏な空気が包んでいた。
僕らは勝ったのだ。レイズ様が自らの命を賭けた賭けに。
僕は大きく息を吐いて、雲一つない空を仰ぐと、小さく拳を握った。
「ロア?」
無意識のうちにアロウの速度を緩めていたみたいだ。並走していたラピリアが訝しげに僕に声をかけてくる。
「ん? ああ、ごめん。少し呆けていた」
「、、、気持ちは分かるわ。ルデクトラドが無事なのは、レイズ様のおかげ、そうよね?」
「うん。レイズ様はルシファルに勝ったよ」
「、、、、そう」
ラピリアも空を見つめる。それから、まるで空に向かうように言葉を紡ぐ。
「レイズ様が勝ったなら、私たちも勝たないと。レイズ様に笑われる」隣にいる僕にしか聞こえないような小さな声。
「うん。そうだね」
僕もラピリアにしか聞こえない声で囁いた。
僕らが軍用門に向かうと、旗印を確認した城兵がすぐに門を開いてくれた。滑り込むように入場すると早々に下馬。
新兵達ならここで崩れ落ちそうなものだけど、新兵はルファと共に第四騎士団に預けてきた。ここにいる歴戦の者共は、何事もなかったかのように整列する。
「ロア、ここは貴方が締めなさい」
ラピリアに促された僕はゆっくりと兵達の前に出ると、レイズ様の口調を思い出して真似する。
「レイズ様はこれから歩兵達とやって来るが、私が代わりに宣言する! 皆の者! ご苦労だった!! この度の大遠征でゴルベル北部を得た、当面ゴルベルは何もできはしないだろう! 貴殿らの働きのおかげである! 不心得者共のために凱旋はお預けとなったが、我らの功績に翳りはない!! 今はただ、誇りを胸に身体を休めてほしい!!」
「「「「「うおおおおおおおおおお!!!!」」」」
、、、多分、レイズ様の生存に疑念を抱いている兵士もいるだろう。第九騎士団と戦ったという事実に、国家存亡の危機を感じている兵士もいるだろう。
けれど、レイズ様の創った第10騎士団は、誰一人として疑念を口に出しはしなかった。それらを全て飲み込んで、ただ、僕の言葉に歓声を上げる。
流石第10騎士団だ、僕が憧れてひたすらに物語を読み漁った、あの第10騎士団だ。
喩えようのない感動を味わっていると、ラピリアが「やればできるじゃない」と僕を労ってくれる。
「こういうの向いてないなぁ」と僕が答えると、ラピリアは少しだけ微笑み、その笑みに僕の鼓動が少しだけ早くなった。
「ロア様、無事のご帰還をお喜びいたします」
僕の背中から声をかけたのはネルフィアだ。
「ネルフィア! 君やサザビーのおかげでなんとかなったよ。ありがとう」
僕が感謝を示すとネルフィアは小さくお辞儀をしてから
「王がお待ちです。。。。どうも、予定外の方もいらっしゃるようですが、、、」
と、グリーズさんやシャリスに視線を走らせる。
「貴重な情報源だから、王の元に連れて行きたいのだけど、、、ダメかな?」
僕がダメ元で聞くと。
「私たちが見張っているから問題ない」
「王に危機は訪れないと約束しよう」
と双子が言う。いや、君たち双子を連れてゆくとは言っていない。
けれど、そんな双子の言葉を聞いて少し考えたネルフィアからは「、、、良いでしょう。その方が話が早そうですね」と少し意外な返答。
「聞いておいてなんだけど、、、いいの?」
僕の言葉にネルフィアは「こう見えて”嘘”には敏感ですので」と答える。ネルフィアがいいと言うなら、いいか。
そんなわけで僕らは、リュゼルやフレインらの部隊長達にその場の仕切りを任せて王の元へ急ぐ。
僕の後ろに続くのは、ラピリアとウィックハルト、ディックと、ユイメイの双子。それからグリーズさんとシャリス。さらにはしれっとサザビーもついて来ている。
「来たか、、、、此度は見事な対応であった。まずは第10騎士団の英断を讃えたい」
謁見の間にて、そのように口にするゼウラシア王の顔には憔悴の色が濃い。
隣にはゼランド王子の姿もあるが、不安そうな顔を隠しきれていなかった。
「ありがとうございます。僕らはまだ到着したばかりなので、まずは状況を確認させてください。ルデクトラドには異変がなかった、そのように断じてよろしいですか?」
「うむ。幸いなことに、敵の一兵たりとも確認しておらぬ」
「それなら良かったです」
分かってはいたけれど、ちゃんと確認できてホッとする。
「それよりもロア、お前達の話を聞きたい。どのようになっているのだ」
どんな順番で話せばいいだろうか。
そんなふうに考えた僕に、ゼウラシア王は2人を指差す。
「表情を見れば、その方らの話が先か?」
指名されたのはグリーズさんとシャリス。
2人は即座に跪き
「この度の我ら騎士団の仕儀、お詫びのしようもございません!!」
「恥を忍んでこの場に罷り越した由、我々の話をお聞き届けください!!」
と、揃って叩頭する。
「うむ。話してもらおう」
2人を見つめる王の視線も厳しい。
こうして僕らと王の会談は、第九騎士団の裏切りの顛末から始まったのである。