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【第156話】遊覧船


「うわぁ!! 凄い! 向こうの果てまで海ですよ!?」


 そのように歓声を上げたのはロア隊の新人、レニーだ。一夜明けすっかり元気になった新兵を連れて、僕らは海上にいた。


「ふん、向こうの果てまで海っていう表現は悪くねえな! おい、お前海軍に入らねえか!?」


 海軍が人手不足なのは聞いて知っているけれど、うちの新人を勧誘するのはやめてほしい。特にレニーは希少な書類仕事のできる人材である。そうそう手放さないよ?


 僕らが乗っている船は、軍船よりもひと回り小ぶりな遊覧船だ。ちゃんと装飾も施された観光客向けの船である。




 本来遊覧船は夏の時期しか運用しない。理由は単純、こんな寒い時期に利用する人間がいないからだ。


 遊覧船が向かうのは、ゲードランドから少し離れたところに点在している離島群。


 富裕層の人々は夏になると、遊覧船で離島へ渡り海水浴を楽しむのである。


 ちなみにこの遊覧船は借り受けたのではなく、海軍が運用している。つまり海軍の収入源の一つなのだ。


 海軍は遊覧船の運営から、離島の宿泊施設の管理、食の手配なども行っている。他にもお金を積めば南の大陸や東方諸島への商船の護衛も請け負ってくれるなど、非常に手広く商いをしている。


 これらの収入の一部は国に納めているが、大半は海軍の実入りとなる。


 騎士団とはまた違った意味合いで、海軍の独立性の高さを表す一つの事例であり、聞けば、海軍を立ち上げた時からこの権利は与えられているらしい。


 元々この海域で暴れ回っていた海賊をルデクが取り込んだのが海軍の始まり、なんて半分冗談まじりに言われているけれど。もしかしたら元は本当に海賊で、ルデクに従わせるために大幅に譲歩したのではなかろうか。


 その代わりというわけではないけれど、備品の補充や食料の購入、船の建造などは費用の多くを海軍自ら捻出することになっている。


 それでもノースヴェル様の執務室を見る限り、かなり儲かっていそうである。


 ともかく遊覧船はノースヴェル様の一声で準備され、僕らはこうして楽しめているのだ。


 潮風は冷たいけれど気持ちが良い。


「お、見えてきたな。あれが離島群だ」


 ノースヴェル様の指差す先にいくつもの島影が見えてきて、新兵やルファが歓声を上げる。


 なおザックハート様も同行すると言って少々揉めたけれど、普通に仕事なので以下略。


 遊覧船は一番手前の島には目もくれず、真っ直ぐに先へ。あれ? 島に降りて昼食を取るって聞いていたけれど、どこか適当な島があるのかな?


 それぞれの島には別荘が建ち並んでいる。どれも意匠を凝らした変わった建物だ。それらを眺めるだけでも面白い。しばらく島々の様子を楽しんでいると、一際大きな島が迫ってきた。


「お、着いたぞ」


 ノースヴェル様の言葉と共に、船は一番大きな島の桟橋へとゆっくり近寄ってゆく。


「気をつけて降りろよ! まだ海は冷てえぞ」というノースヴェル様の心配は杞憂だ。ここにいるのは新兵といえど、第10騎士団の面々。身体能力は高い。僕を除けば。


 ルファはネルフィアが手を引いて降ろしてくれて、全員が無事島へと降り立った。


 桟橋の先は白い砂浜。時折日差しを遮るための休憩所が設けられている。


 砂浜の先には無人の島には似つかわしくない、白亜の館と表現するにふさわしい大きな館がある。どこの貴族の持ち物なのか。


 僕が持ち主を聞けば「おお。あれは王家の別荘だ。ちなみにこの島は王族以外は出入り禁止だぞ!」などと言う。


「え、まずくないですか!?」


 僕や新兵5人はもちろん、流石にリュゼルやディックも困惑の表情を見せる。


「何、気にすんな! どうせ夏までは誰も来ねえし、どのみち使ってない間は、俺たちがたまにきて管理してんだ。多少使ったって問題ねえよ」


 、、、、問題ないかなぁ。結構問題あるような、、、でもまぁ、ノースヴェル様が良いっていうなら、いいか。


「よし、そんじゃ、釣れ!」


 全員に行き渡る釣り竿。


「釣った分がお前らの飯だ! 釣れば釣っただけ豪華になるぞ!」


「よっしゃあ!」すぐに切り替えるロズヴェル。この精神力は評価する。


「じゃあみんなで勝負しましょうよ! 何匹釣れるか! そんで勝ったやつに賞品を!」


 ロズヴェルが言うと、視線が僕に集まる。何、ルエルエであれだけ飲み食いしたのに、まだ僕の財布をあてにする?


 でもまあいいか。


「良いけど、僕が勝ったらルエルエの食事代を半分返してもらうよ?」


 僕の返答に一瞬返答に詰まるも、「良いでしょう! そのぐらいのリスクがあった方がやる気が出ます!」と元気な返事。


 ほほう? 漁村出身で娯楽といえば釣りくらいしかなかった僕に、釣りで勝負か。


 なお、ネルフィア、リュゼルとディックは不参加。サザビーと5人組と僕の7名で競うことになった。


 僕らがしょうもないことで盛り上がっている間、ルファは「料理のお手伝いをする」と言って、海軍の人たちをほっこりさせている。人たらしである。




 結果。7人の中では僕が一番の釣果であった。



 ただし、本当に一番釣り上げたのは争いに参加しなかったネルフィア。僕の倍も釣り上げ、完敗である。



 、、、、、い、良いんだ。対戦相手には勝ったから! 悔しくなんかないさっ!




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