【第153話】星の動き
「昨年、ロア様たちとお別れした後、私たちはグリードル帝国に向かうとお話ししたかと思います。その言葉の通り、私たち一座は帝国へと足を運び、しばらく帝国内を風の赴くまま進んでおりました。そんな中で私たちの耳に入ってきた話題はなんだったと思います?」
少しだけ悪戯っぽい顔で僕に問うゾディア。
「、、、、第二皇子の反乱騒動でしょ」
いくらなんでも簡単すぎる。ゾディアは当然の答えとばかり頷いて続ける。
「ルデクではどのように伝わっているのか、私もこちらに戻ってきてから間も無いので情報は足りていないのですが、帝国ではこの話で持ちきりでした」
「へえ、どんな感じ?」
「本来であれば対価をいただきたい情報ですが、特別に。曰く、皇帝から受け継いだ牙を隠していた皇子がついに本気を出した。曰く、皇帝が秘蔵っ子に命じて反乱分子を炙り出した。曰く、真に恐るべくは他国から来た年若い妃だという、、、まぁ、最後の噂のように、眉唾なお話もございましたが、とにかく第四皇子、ツェツェドラ様を称賛する言葉ばかりでございました」
、、、、多分。最後の噂が一番的を射ていると思うよ? いや、多分だけどね。
「皇帝陛下に謁見した私たちは、実際にそのお話について伺いました」
「え!? ちょっと待って、ゾディアは皇帝と繋がりがあるの!?」僕は思わず大きな声を出してしまう。ゾディアは少し驚いた顔をしてから、一瞬だけ、どこかに視線を走らせた。
「はい。ありがたいことに、私共は帝都でも下賤な芸を披露することを許されております」
「それは凄いな、、、」僕がため息を吐いたところで、ネルフィアが会話に加わってきた。
「正直、、、私はゾディアのことを知らずに、ここまでゾディアと親しくなったロア様に少し怖いものを感じているのですが、、、」
「え? どういうこと?」
「ゾディアといえば、その世界では知らぬものがいないほど有名な方ですよ。歩く機密、なんて呼ばれるくらいに。ゾディアが訪れれば、どこの王も率先して迎え入れます」
ネルフィアはそういうけれど、少なくとも僕は聞いたことないなぁ。旅一座に同行していた未来においても。ということは逆に、ゾディアの存在は上層部にとって隠しておきたい存在なのかもしれない。
ネルフィアの言葉を聞いたゾディアは、今度はネルフィアに対して少し驚きの表情を見せ、それから一言「宜しいのですか?」と聞いた。
問われたネルフィアの返答は
「この場に私がいる事が答えです。それと、ロア様は先だってゼランド王子の最初の直臣になられました」
「なるほど、、、、ロア様と再会するのはもう少し先とのことと読んでいたのですが、やはり私がここに来たのは必然であったのかもしれませんね、、、」
ネルフィアの言葉を聞いたゾディアは、誰にいうでもなく呟く。
「えっと、ゾディアとネルフィアは知り合い?」いきなり話が飛んでついてゆけない僕が思わず割って入るとネルフィアが答えてくれる。
「そうですね。ゾディアが王都を訪れるときは、私が窓口です。サザビーは知りませんので秘密でお願いします。知られると面倒なので」
サザビーに知られると面倒そうなのはなんとなく分かる。
「それにしては他人行儀だったような、、、」
「ゾディアが何を話すかわからなかったので」
「ネルフィア様との関係を話して良いのかわからなかったので」
なるほどなぁ。仲良しなのは分かった。
「正確には、今も何を話すかは分かっていないのですが。ゾディア、私がここにいるということは、全て王の耳に入るとお考えください」
「ええ。貴方が”話すべき”と思えば」
「随分と含みのある言いようですね?」
「私もよく分かっていないのですもの」
ふふふと不敵に笑うゾディアとネルフィア。あの、、、そろそろ本題に、、、
「あら、すみません。つい。それでどこまでお話ししましたか、、、ああ、そうですね。皇帝陛下にお会いした時の事でしたか。皇帝陛下は今回の始末、随分とご満足されておられたようです。しきりに第四皇子夫妻をお褒めになられておられました。ああいった陛下は少し珍しかったように思います」
「へえ」
僕はついつい嬉しくなってしまい、笑みをこぼす。そんな僕の様子を見たゾディアは「やはり何か知っていらっしゃるのですね」と探るような視線を向けてきた。
まぁ、この一件は一応極秘の任務だ。話して良いのか分からないな。それこそ対価が必要な気がする。
僕が素直にそのように伝えると、ゾディアはそれ以上追求せずに話を続ける。
「皇帝陛下のお話を聞いて、私はツェツェドラ皇子へ大いに興味を持ちました。なので、会いに行ったのです」
自由を愛する旅一座だ、それ自体は珍しいことではない。
「幸いなことに、ツェツェドラ皇子と、そのお妃様にすぐに御目通りが叶いました」
、、、、その辺りは普通ではないけれど。そんなポンポン気軽に会えないよ? 王族って。
いや、僕の部屋に入り浸っているゼランド王子を考えればそうとも言えないか。
「ツェツェドラ様は非常に気さくな方で、奥様も大変機知に富み、私との話も大変弾みました。そして私は、ツェツェドラ様に星読をお願いしたのです」
「ツェツェドラ皇子の星に何か? 悪いことでも?」
ゾディアの星読みは本物だ。ツェツィーに何か危険が及ぶのであれば、僕としても何か対抗策を考えなくてはならない。そう思う程度には友誼を結んでいる。
「いいえ、、、とんでもない。むしろ悪かった星の巡りが、良くなっているというか、、、」
僕はほっと胸を撫で下ろす。なら良かった。
「ただ、ツェツェドラ様の星の巡りはまるで誰かに無理やり動かされたように感じました。強引に動かした星が元の位置に戻ろうとしたところで、新しい星が別の道筋へ導いているような、、、」
ルルリアの影響かな?
そこまで話したところでゾディアは今日一番真剣な顔で僕を見つめる。
「異常な動きをした星の巡りが、ゆっくりと戻ろうとしている、そんな動きを見たのは、私の生涯で今回が2度目です」
、、、ああ、なるほど。何が聞きたいのか分かった。
「一人目は貴方様です、ロア様。このような短期間で、2度も。これはとても自然のこととは思えません。ロア様、貴方が何かされたのではないのですか?」
、、、、、ゾディアの言葉に、僕は返答に迷う。
めちゃくちゃ心当たりがあるなぁ。。。。