【第152話】歌姫の出迎え
ゾディアは旅一座ル・プ・ゼアの歌姫だ。
旅一座は自由を愛する流浪の人々。特定の国に根を張ることなく、歌や踊り、劇など、それぞれが得意とする芸を見せながら、大陸を気ままに動き回っている。
旅一座の芸は民草の数少ない娯楽であると同時に、その地の領主にとっては各国の情報を得るための貴重な機会となっている。
実際、ゴルベルの軍師サクリも流浪の情報屋としてゴルベル王に取り入ったのが始まりと言うくらい、僕らの大陸では一般的な情報収集手段だ。
旅一座にも、芸の腕前により人気に大きな差違があるけれど、ル・プ・ゼアは間違いなく人気の旅一座。ゾディアの歌声はとても不思議ですごく綺麗で、耳にした者たちを魅了する。
ゆえにル・プ・ゼアはお抱えの街をいくつも持っていて、それらの街を中心に巡りながら生活している。そんな定期公演を望む街の一つがここ、ルエルエ。
「ゾディア! 久しぶり!」
言いながらゾディアに駆け寄るルファ。ルファはゾディアの歌を聞いて以来、彼女のファンである。
「ルファさん、少し見ないうちにまた美人になったわね。それに雰囲気が随分と変わったわ」
ルファの姿に目を細めるゾディア。僕らがゾディアに出会ったのは、僕らが初めて任務でゲードランドヘ向かった時だ。
つまりルルリアの漂流船騒動のあの時である。随分と久しぶりな気がするけれど、意外にそうでもないような気もする。
ひとしきりルファと戯れたゾディアは、ゆっくりと僕に視線を向けると一礼。
「風の神ローレフ様のご縁は再び紡がれました」
旅一座の間で使う再会の挨拶だ。
馬から降りた僕は手を開いて胸に当てて「ローレフ様の風の糸に感謝を」と返すと、ゾディアはニコリと魅力的な笑顔を見せる。
「さすがロア様ですね」
「前も言いましたけど、たまたま知っているだけですよ。でも会えて嬉しいです。またルエルエで会えたのは偶然とはいえ、本当に風の神ローレフ様のご縁かもしれないですね」
そんな僕の言葉にゾディアはゆっくりと首を振った。
「いいえ。今回に関しては、そうではありません。私はここで貴方様を待っていたのですよ。多分、ここで会えそうだと”読めた”ので」
歌姫ゾディアのもう一つの顔、それは星を読む占い師。
「、、、、なんだか待っていた理由を聞くのが怖いですね」
「いえ。話したいことよりも、聞きたいことがあってここまで来たのです。。。今宵は私にお時間を頂けますか?」
「、、、分かりました」
僕の約束を取り付けたゾディアは
「それでは私は旅一座としての準備がありますので、また、夜に」と、その場を後にする。
聞きたいことって、なんだろう? と首を傾げていると背後からたくさんの視線を感じた。
振り向けば新兵5人が唖然とした顔で僕を見ている。
その中から代表してロズヴェルが僕に向かって「、、、、誰ですか、、、あの美女は? なんでロアさんが呼び出されているんですか? あの人とどんな関係ですか」と矢継ぎ早に聞いてくる。
「ちょっとした知り合いだよ。見ての通りルファも、それにウィックハルトも知っているよ?」
と答えると「俺も紹介して欲しいです」「俺も」「俺も」と食いついてきたので、とりあえず拒否する。夜立ち会うのは僕とルファ、リュゼルとディック、ネルフィアだけにした。
「なんで俺を仲間はずれに!?」
叫ぶサザビーだったけれど、新兵と同じようにゾディアに見とれていたサザビーを同席させるのは、なんだか面倒な気がしたので。話してる最中に口説きはじめそうなので。
代わりと言ってはなんだけど、僕がお金を出すから、夜は新兵5人を連れて好きに飲み食いしてきていいよと伝える。
「絶対後悔させてやりますからね! おい! 今日は綺麗所のいる店で飲むから楽しみにしておけよ!」
とサザビーは半ばやけっぱちで拳を上げ、タダ酒が飲めると聞いたロズヴェルたちは大いに気勢を上げるのだった。
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ゾディアの歌声を充分に堪能したその日の夜。
ルエルエの街の領主の計らいで、領主館の一室でお酒を傾けながら、僕らとゾディアは改めて対面した。
ゾディアの旅程などを土産話に聞いたり、ルファがザックハート様の養女になったことを報告したりと、しばらく取り止めのない話題で盛り上がる。
リュゼルは元々こう言った場では寡黙だ。そしてネルフィアもゾディアの用件を探るように大人しい。
ちなみにディックであるが、サザビー主催の人の金で食べ放題のヤケクソツアーの方に強く惹かれていたので、そちらへ同行してもらった。
サザビー一人で引率は少し可哀想かなと思ったのでちょうどいい。
そうして雑談が一段落したところで、ゾディアが表情を改める。
本題を切り出そう、そういう雰囲気。
僕らも少し姿勢を正して、ゾディアの言葉を待つ
「、、、、こうして再会してみれば、、、一体何から話せば良いか悩む物ですね。。。まずは私が急ぎルエルエまで戻ってきた理由からお話ししても宜しいですか?」
誰からも異論がないのを確認して、ゾディアはここまでの事をゆっくりと語り始めた。