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【第144話】騎士団合同演習③ 思慮する厄介者達


「ロアよ、その伝馬箱とは、なんだ? 何が入っている箱なのだ?」


 代表して僕に問いかけたのはザックハート様だ。


 2日目の合同演習の後、僕はレイズ様に頼んで、各騎士団の指揮官と夕食も兼ねた打ち合わせの場を用意してもらった。


 そこで僕が提案したのが伝馬箱だ。


「語感でなんとなくつけただけなので、実は箱はあまり関係ないんです。なんなら伝馬駐屯所でも、伝馬詰所でもいいんですけど、もっと規模の小さい、、、具体的には1つの場所に2〜3人の騎兵が仮眠や待機できる小屋のような感じを考えています」


「ふむ、、それで、そこに騎兵を待機させてなんとするのだ」


「もちろん、各騎士団の情報交換に使います。街道の各所に多数の伝馬箱を設置して、例えば王都で何かあった場合、一つの拠点から次々に伝令を飛ばして各所へ連絡をするんです」


「ふむう? それは便利ではあるが、、、貴重な騎兵を使うのは少々無駄ではないか? 必要であれば都度、各騎士団より伝令を走らせれば良いであろう?」


 ザックハート様の考え方は、騎士団の中では一番自然なものだろう。現に今までそうしてやってきているのだ。


 ただ僕は、この現行のシステムに大きな問題を感じていた。


 現に第四騎士団も、第六騎士団も、僕らロア隊が訪れた際は中央の状況を聞きたがった。現状では全く情報伝達が足りていないからそのようなことが起こるのである。


 そしてこの情報網の脆弱性は、王都が炎上してもなお、地方の騎士団が状況を把握できずに、外敵から各個撃破された未来へと繋がっている。


 なぜ今まで誰も改革しようとしなかったのか、これは騎士団の気風にも関係する。元々ルデクの騎士団は独立性が高い。騎士団長にはある程度の裁量が任されているし、各持ち場の領主と連携して独自の判断で内政の協力などもする。


 それに、第一騎士団と第10騎士団のように単に不仲という事例も過去にいくつもある。また第九騎士団の騎士団長のように身分が飛び抜けて高い騎士団長を擁する場合、騎士団としてのプライドが高く、他の騎士団との横の連携が取りづらい場合もあったろう。


 ただ、今後はそれでは困るのだ。


 僕が。そしてルデクと言う国が。



 僕の話を聞いて、一番最初に「良いな」と言ったのはベクシュタット様だ。逆にザックハート様は少しピンときていない顔。


 ザックハート様の守るゲードランドと王都の行き来は頻繁にある。ザックハート様が無駄にルファに会いにくるくらいには。なので、情報の不足、という点においてザックハート様には実感が薄いのだと思う。


 対してベクシュタット様は切実なのだろう。両者の置かれた差が如実に現れていた。


 そんなザックハート様に向かって、僕は別の側面から利点を説く。


「伝馬箱が街道に設置されれば、近隣で盗賊が好き勝手できなくなります。そうすれば治安がよくなって、住民や商人も安心して街道を使えるようになるはずです」


「なるほど、、、それは良いの」商人の玄関口であるゲードランドを預かるザックハート様には、こちらの方が納得できる理由のようだ。


「とはいえ、いきなり全騎士団に導入するのは乱暴なので、できればここにいる騎士団の中で、騎士団長から了承を得られた騎士団との街道沿いに限り、試験的に設置できればと考えているのですが、、、」


 これは半分建前。全騎士団に導入すれば、第一騎士団と繋がっているかもしれない第二騎士団や第九騎士団にも余計な情報を与えかねない。それはなるべく避けたい。


 多分だけど、第二騎士団はほぼ第一騎士団側だと僕は確信している。理由はホックさんの言葉。


 以前に僕は、ホックさんに「ゼウラシア王に忠誠を誓うことに悩んだことはないのですか?」と聞いた。そしてホックさんは躊躇なく「ない」と言った。一切の迷いもなく、だ。


 普通、初対面の人間からこんな失礼な質問を投げかけられたら、不審がるか、不快に思うか、どうあれまずは理由を聞くはずだ。どのような意図か、と。


 まして騎士団を預かるような指揮官が、考えなしに答えて良い質問ではない。


 にもかかわらず即答した。最初から答えが決まっているかのようだった。


 だから僕は、この人は何か後ろ暗いことがあるのだろうと確信した。


 状況を考えれば、それは第一騎士団の裏切りに関係していると考えざるを得ない。もし、全く別の理由ならそれはそれで構わない。僕は最悪のケースを想定して動くだけだ。


 ホックさん自身はいい人だ。できれば敵対したくはないけれど、かといって現状で信用するわけにはいかない。


 なので、今回の伝馬箱に関しては、最初からルデク南部に限って運用する心算だった。第四騎士団の指揮官は双子だったのも良かった。「騎士団長の許可を得た騎士団間の試験運用」と限定できれば、北部に情報網を張らずに済む。


「その騎兵は第10騎士団が出すのですか?」


 そのように聞いてきたのはネルフィアだ。


 本日のネルフィアは王の書記官としてここにいる。この場での話合いを報告するのである。


「そうですね。特に希望がなければ第10騎士団から。既にレイズ様からも許可をいただいています。騎乗訓練も兼ねて、新人騎兵に交代で任務についてもらおうかと」


 それなら人員をロア隊から供出することができる。他から不満は出ないはずだと踏んでの提案だった。


 けれどここで、意外な意見が飛び出してくる。


「騎乗訓練か、、、悪くないな。それならば我が第七騎士団からも人員を出したい。第七騎士団の持ち場は、当方から出しても良いかな?」


 トール様がそのように言うと、まだ持ち場の決まっていない第六騎士団を除いて、第三騎士団、第五騎士団からも同様の提案があった。


「もちろん、そうしていただければありがたいです」


 僕としても不満は全くない。むしろありがたいくらいだ。


「よし、各騎士団ともに、この話は進める方向で構わないな?」ここまでずっと黙ってやりとりを聞いていたレイズ様が、各騎士団長を見渡し、異論がないことを確認する。


「では、ここからは具体的な運用について、騎士団長同士で伝馬箱の設置箇所について詰めてしまいたいと思う。ネルフィア、すまないが頼んでいた地図を」


「こちらに」


 レイズ様の主導で、食事テーブルとは別の場所に広げられたルデク国内の地図に、騎士団長が顔を突き合わせながら伝馬箱の設置場所を検討してゆく。



 僕はその騎士団長たちの後ろ姿を眺めながら、一仕事終えた気分で果実酒を口にした。気づかなかったけれど、喉はカラカラだったみたいだ。果実酒が沁みる。



 ふと視線を感じてそちらを見れば、ラピリア様が「また妙なことを」と言う顔をして、少し呆れながら微笑んでいたのだった。

 


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 王に忠誠を誓ってないから即答できたとかもあるのかな?
[一言] 商人とか居れば情報伝達の価値が分かるんだろうに、脳筋しかいねぇw
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