【第140話】要望書
名前しか出ていなかった第10騎士団の部隊長の名前を修正しました。ゼランドと付けており、王子と丸かぶりでした。その後使わなかったのですっかり忘れていました。そのためゼランド部隊長はベクラド部隊長となります。と言っても、第58話で一度だけ名前が出ただけですので、物語に影響する変更はありません。
ゼランド王子の直臣となった数日後。
相変わらずゼランド王子はちょくちょく僕の部屋にやってきて、ルファに適当にあしらわれながらニコニコしている。
数少ない変化としては、一応僕が教育係に就任したのでロア隊の軍議にはゼランド王子も参加することになったくらいだ。
ちなみにレイズ様の許可が降りれば、王子は第10騎士団の軍議にも参加できる。
そんなゼランド王子を連れ、レイズ様に呼び出された僕ら。
今回はロア隊の主だった面々を連れてくるようにというお達しなので、ウィックハルトにリュゼル、フレイン、ディックに、ルファに加え、なんでか部屋にいたネルフィアも同行を希望した。
ネルフィアは第10騎士団ではないので、いかがなものかと思ったけれど、ま、ダメならレイズ様から退出を促されるだろう。
集まったのはいつものレイズ様の部屋ではない。そして集められたのも僕らだけではなかった。
僕が初めて第10騎士団に呼び出された時に使用した作戦室に、第10騎士団の主だった将が一堂に介している。
「みんな、よく集まってくれた」
レイズ様が厳かに口を開くと、場の空気がピリッと締まる。
「まずはこれを見てほしい」
言いながら手元から出したのは4通の手紙だ。
「それは?」部隊長の中でも年長のベクラドさんが代表して問う。
「合同訓練の要望書だ」
手紙は1つだけ分厚い。分厚いのは多分、第五騎士団のベクシュタット様だろうと僕は当たりをつける。あとは誰だろうか?
「四つ全てですか?」ベクラドさんが少し首を傾げた。確かに流石に同時期に4つというのはいささか多い。
「ああ、第三騎士団、第四騎士団、第五騎士団、第七騎士団の4騎士団からだ。それに加えて第六騎士団からも口頭で要望が来ている」
「なんと、5つの騎士団から、、、」その場にいた全員が驚きの声を上げた。そこまで集中すると流石に異常だ。
「尤も、第三騎士団と第四騎士団は要望書というより、個人的な親書に近い。第四騎士団はそもそも騎士団長からではないからな」
それなら第四騎士団の差出人は、もう確信を持ってあの双子からだと言い切れる。そして第三騎士団に関してはザックハート様がルファに会いたいがためだろうなぁ。
「それにしても多いですね」ジュノさんが呟くと
「ああ、いくつか理由がある。まず1つ、第10騎士団で導入した十騎士弓に弩、それと組立式の長柄槍、これらに興味を持った騎士団から打診があった。第五騎士団や第七騎士団はゼッタの話などを聞いて「うちでも運用できないか」と聞いてきた」
なるほど、それは理解できる。どちらも前線を守る騎士団だ。新しい武器はあるに越したことはないのだろう。
「次に時期的な側面も大きい。まだ完全な雪解けには少し時間があり、かつ、ゴルベルも帝国も大きな動きがない今なら、多少は訓練に兵を割けるということだ」
「確かに、大掛かりな演習を行うのであれば、この時期をおいて他にはないでしょうな」ベクラドさんが深く頷いた。
「そして最後に、新兵演習に合わせたのだろう」
ハクシャでは第六騎士団、ゼッタでは第四騎士団と第10騎士団に少なくない被害が出たため、緊急で欠員補充のための募兵が行われていたけれど、その入団式を兼ねた訓練が近々行われる予定なのだ。
その時に合わせて訓練できないかと、どこの騎士団も同じようなことを考えた結果が、この要望書の束につながったようだ。
「それで、どこの騎士団と訓練するのですか?」
再び問うたベクラドさんに、レイズ様は少し楽しそうな顔をする。この状況を楽しんでいる時の表情だ。
「そこで、君たちに集まってもらった。いい機会だ、私としては要望のあった全ての騎士団と、合同訓練を行おうと思っているのだが、どうだ、反対意見はあるか?」
と、なかなか無茶なことを言い出した。
レイズ様としては、どの騎士団も全軍でやってくることはない。多くてせいぜい1000人が限度だろう。現実的なところでは500人ほどではないかと思っていること、ならば、人数的にも十分に対応できるし、新しい武器に関しては一度に説明した方が手間が省ける。という考えらしい。
まぁ、悪くないと思う。
皆もそのように思ったらしく、大きな反対は出なかった。
ただ、ウィックハルトが
「第一騎士団は参加しないのですか?」と聞くと、室内が微妙な空気になった。
「第一騎士団は絶対参加しないと思うわ」と答えてくれたのはラピリア様。
「そうなのですか?」
「ウィックハルトは知らないかもしれないけれど、第一騎士団はウチを嫌っているから、第10騎士団に頭を下げて教えを乞うなんてあり得ないって思っているわよ」
「、、、そうだったんですか。すみません、短慮でした」
「ウィックハルトが知らないのは無理もないわよ。あいつら陰湿だから、表向きは仲良さそうに振る舞っているのよね」
ラピリア様の言葉に皆、小さく肯首する。
僕も知らなかった、第10騎士団と第一騎士団との確執が垣間見られた瞬間だった。