【第132話】王家の儀式① 横槍
「予定変更ですか?」
「ああ、ゼランド王子は何か聞き及んでいらっしゃるか?」
いつもの様に僕の部屋にゼランド王子が遊びに来ていた時に、レイズ様に呼び出された。
一緒にレイズ様の部屋に行くと、開口一番で王家の儀式の人員変更を告げる。
「いいえ? 何も」
ゼランド王子にとっても初耳だったようだ。訝しげな顔をしている。
「それで、何が変更されるんですか?」と僕が聞くと
「第10騎士団から出す兵士は当初の予定の半分になったのだ」
「4000から2000に? 残りは?」
警護する兵士を減らすとは思えないから、別の騎士団が合流するというのが自然だろう。
「第九騎士団が2000出すと言ってきた。王家の祠は第九騎士団の持ち場にあるから、と」
レイズ様から第九騎士団の名前が出るとグランツ様やラピリア様が眉根を寄せる。多分僕も同じような顔をしていただろう。
第九騎士団。かつて僕がゼウラシア王から各騎士団について聞かれた時に、王は「屈指の攻め手」といい、僕は後方支援が向いているといった騎士団だ。
現在はルデク北東を持ち場として、対帝国の任務についている。
第九騎士団への僕の評価は、はっきり言って微妙だ。故に後方支援が向いていると言った。
同じように後方支援が向いていると伝えた第三騎士団とは意味合いが違う。
ザックハート様の経験に基づいた柔軟な用兵や安心感は、掛け値なしに下支えを任せるに相応しい。現にゲードランドというルデクの中枢から各方面に睨みを利かせているのだ。
対して第九騎士団。騎士団長はヒューメット=トラド。トラドの名前が示す通り、ゼウラシア王の伯父にあたる人物だ。
実績は、、、、ある。ただ、本当にヒューメット様の功績なのかは少し怪しい。
後世においては、新たな騎士団を創設するときに、バランス調整のために作られたのではないかとも言われている。
つまり、第10騎士団をレイズ様に任せたいゼウラシア王が、新しい騎士団の創設の反対勢力の不満の受け皿として第九騎士団を作ったのではないか? と。
疑惑を補足するように、第九騎士団は他の騎士団に比べて貴族関係者の比率が高い。
本来、騎士団で通じなかった貴族は、その後の栄達が難しい。
ただし、大貴族の関係者にだけは、第九騎士団への編入という裏技が残されている。金と権力で将官の立場が買える唯一の騎士団だ。
尤も将官の座席は多くはない。この力技が使えるのはよほど力のある貴族だけだ。そのため、第九騎士団の将官クラスは豪奢な装備で見た目は良いのだけど、中身が伴っていない者達も少なくない。
というか、実力のある将官の方が少ない恐れすらある。
故に北東の守備を任されているのだ。
北東の地域は、響きだけ聞けば対帝国の最前線のように思えるが、その実、帝国とルデクの間には聳え立つ山々が立ちはだかっている。
第五騎士団が守っている南東とは違い、ヨーロース回廊の様な主だった道もないため、帝国があまり重視していない場所だ。
現に第九騎士団の持ち場で帝国と大規模な戦闘になったことは一度もない。
さらにいえば第九騎士団の持ち場で有事が起きた際は、第二騎士団がすぐに駆けつけることになっている。
ゼッタ平原の大戦、僕の知る歴史で第二騎士団の到着が遅れた理由が、帝国の変事のため東に向かっていたことからも分かるだろう。要は第九騎士団は頼りにされていないのである。
そんな第九騎士団が名乗り出たというのだから、「どうしてまた急に?」と僕が口にするのも当然の話だった。
「センブリア公が申し出たそうだ。「今一度、挽回の機会を」とな。センブリア公の実子の一人が第九騎士団の部隊長の一人だからな」
センブリア公の名前が出ると、ゼランド王子がびくりと肩を震わせた。その様子を見て僕は気づく。センブリア公というのはおそらく、ゼランド王子やウラル王子の教育係を送り込んできた貴族なのだろう。
でも、だとしたら、、、、
「、、、、王の逆鱗に触れた貴族なのではないのですか?」
「ああ。かの家を取り潰すための証拠集めは今も進んでいる」
「なら危険なのでは? 何かまた企んでいるのかもしれない」
「そうだ」
レイズ様はあっさり認める。その上でゼランド王子に視線を向けた。
「おそらく後から王より話があると思いますが、ここまで話した以上、私からもお伝えさせていただく」
レイズ様からそのように宣言されたゼランド王子はゴクリと喉を鳴らす。
「センブリア公は間違いなく何かを企んでいる。それを分かった上で王は挽回の機会を与えられた。つまり、何か起こせばそれを以てセンブリア公の家を潰す。センブリア公程度の策謀はゼランド王子、貴殿の力で乗り越えよ。そういう意味です」
緊張した顔で頷くゼランド王子。それを確認したレイズ様は再び僕へと視線を移す。
「ロア、ロア隊の中でも選りすぐりを1000、選べ」
「分かりました。残りの1000は?」
「ラピリア隊から出す。仮に第九騎士団の2000が背後から剣を抜いたとしても、同数で圧倒してみせよ」
「、、、、分かりました」
こうして、何やら策謀の香りを漂わせつつ、王家の儀式の始まりは目前に迫っていったのだった。