【第130話】新兵器
「しかし手が込んでいますね、組み立てた状態でもネジを緩めれば折り畳めるようになっている」
ウィックハルトの手には、ドリューの作った金属製の組み立て式小型弩があった。
組み立てた状態でも、ネジを緩めると中央の発射台に寄り添うように折り畳めるよう設計されており、非常に考えられた作りだ。
「少し難点もありますね。しっかりと、この、ねじってのを締めないと、組み合わせ部分が少しガタつくようです。正確な狙いが難しくなる」
ウィックハルトの言葉にリュゼルも大きく頷き、
「それとやっぱり強度の心配があるな。実際に何発か射ってみて試してみないとなんとも言えないが、どうも接続部分が不安だ」と折り畳める部分を閉じたり開いたりしている。
「だが、今までの弩とは比べ物にならないくらいの代物だ」フレインはかなり気に入ったようだ。
反応は三者三様だけど、全員新しい弩に夢中である。試作品の弩は全部で5つ。折り畳みができるのは2つだけで、残りの試作品は組み立て式のみ。
リュゼルがいうように強度の心配はあるけれど、レイズ様とも相談して、折りたたみ式が暫定的な採用となった。
騎乗中に邪魔にならないという利点は大きい。
「さて、あとは名前だな」レイズ様の言葉にみんなの視線が集まる。
「名前ですか?」僕が代表して聞くと
「流石に金属製組み立て式折り畳み小型弩、では長すぎるだろう?」
「そういうのって普通、開発者の名前がつくんじゃないですか? ドリュー弩、、、だと語呂が悪いからドリュー弓とか?」
「残念ながら却下ね」と口を挟むのはラピリア様だ。
理由を聞けば「ドリューは自分の名前をつけたがらないのよ。「絶対に嫌です」って言って」と。
「それじゃあレイズ弓とかでいんじゃないですか?」
僕の言葉にレイズ様が苦笑。
「いくら私でも全く携わっていない物に名前をつける厚顔さはないな。それならロア、お前の名前の方が適当だろう? そもそも弩を持ち込んだのはお前だ」
「持ち込んだのは僕かも知れないですけど、完全に別物ですよ」
「それならジュディアノかホーネットの名前をつけるか? お前たちも十分に開発者を名乗る資格があるだろう?」
レイズ様の視線が2人に向けられると、ジュディアノは「ひゃあっ!」っと言いながらひたすらに首を横に振っている。首、大丈夫だろうか?
ホーネットも身をのけぞらせて「勘弁してくださいっす」と複雑な顔をしていた。
「なら良い名前はあるか? ジュディアノ、ホーネットのどちらでもいいから、何か提案せよ」
レイズ様の無茶振りに2人はそのままの体勢で硬直。
少ししてジュディアノが「あのう、、、」と弱々しい声を上げる。
「何か良いものがあるか?」レイズ様の視線が怖いらしく、ジュディアノは目をぎゅっと瞑りながら「”十騎士弓”はいかがですかっ!?」と悲鳴のように絞り出した。
「十騎士弓?」
「ひゃ、ひゃいっ。開発に少なからず影響を与えたのも、今使用しているのも第10騎士団のみなさまですのですし、組み立てると十字に見えるので、十騎士弓、ですっ!」
しばし沈黙。ジュディアノは否定と捉えたのか「すみません! 死んでお詫びをっ」とか言い始めた。こんなことで命を賭けたら、命がいくつあっても足りやしない。
「いや、ジュディアノ。ダメだと言っているわけではない。むしろ、悪くないかと思っている」レイズ様に褒められて、ほっとして床に崩れ落ちるジュディアノ。
「確かに、短くて良いのではないですかな」とはグランツ様。
他の人からも異論は出ない。
こうして十騎士弓と名付けられた新しい武器を中心に盛り上がっていると、ドリューの部屋にベテラン文官のオーフックさんがやってきた。
「お取り込み中失礼。皆様がこちらにいらっしゃると聞きまして。少々よろしいですか?」
「ここにいる者達に聞かれても問題ない話か?」
「もちろんです、レイズ様」
「では、聞こう」
「かねてより造成していた新しい街道が、ゲードランドまでつながったと、先ほど連絡がありました」
オーフックさんの言葉に、「おお」とか、「ついに」という言葉が漏れる。僕も少し感慨深い。
瓶詰めを後ろ盾にして、僕が街道造成を推し進めた本当の理由はただ一つ。第三騎士団が迅速に王都へ援軍に来れるようにするためだった。
滅亡の未来で最後まで抗った第三騎士団、それが王都まで最速で来れる状態を作る。そうすれば歴史に影響を与えられるんじゃないかと思ったのである。
現状、ルファのおかげで第三騎士団のザックハート様とはかなり良い関係を築けている。もしも王都に篭って戦うことになった時、援軍を出してくれる期待は高いだろう。また一つ、第一騎士団に対抗できる手段を手に入れた気分。
「つきましては第三騎士団長より、新街道のセレモニーを行いたい旨が王に進言があり、併せて第10騎士団の護衛も打診がありました」
オーフックさんの説明を聞きながら、「絶対にルファに会う口実だな」と思っていたのは多分僕だけではないだろう。
「分かった。では詳しい話を聞こう。ドリュー、また来る」と言い残して退出したレイズ様を追って、僕らはドリューの部屋を後にする。
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ようやく普段の静けさを取り戻したドリューの部屋で、ジュディアノ、ホーネットは大きくため息をついた。
「まじ、嵐みたいな人達だよな。圧がやべえわ」ホーネットがつぶやく横で、ドリューがゲフッとゲップをした。ようやくお腹いっぱいになったようだ。
お腹をさすりながら周囲を見渡したドリューは「あれ? みなさん帰っちゃたんです?」とキョトンとする。
「今気づいたんですか? マジですか?」と呆れるホーネットのことは無視して、ドリューはガラクタの山の中の一角で結構なスペースをとっている、白い布をかけた”それ”に視線を移す。
それから少し考えて、「まあいいか」と思い直すと、椅子に座ったまま、うとうとし始めた。