【第129話】新しい任務
「できましたよ?」
突然僕の部屋にやってきたドリューは、ノックもなしに部屋に入ってきてそれだけ言うと、ソファですやすや寝息を立て始めた。
「ん? 何が?」
既に僕の質問に答える気配もなく、ぐっすり夢の中である。
僕とウィックハルトとルファとディックは、食糧庫の管理について打ち合わせをしていた最中であったので、顔を見合わせて小首を傾げる。
少なくとも、今の言葉でなんのことか伝わった者はいなかったみたいだ。
「、、、、とりあえずドリューが起きるまで待つしかないよね。ルファ、悪いけどレイズ様に伝えてもらえる? ドリューがまたなんか作ったみたいで、起きたらまた知らせに行くからって」
「分かった!」
ルファが元気に走って行くのと入れ違いに、ネルフィアが部屋に顔を出す。
「どうされたんですか、、、、あら? ドリュー、、ああ、なるほど」
すやすやドリューを見て、大体の状況を把握するネルフィア。
「あ、そうだネルフィア、サザビーも呼んできてもらえる? また「俺を呼ばないで楽しいことを!」って怒るから」
「そうですね、と、言いたいところですが、サザビーは任務で王都を離れているんですよ」
「あ、そうなの。それじゃあ仕方ないね。それでネルフィアはどうしたの?」
「実はそのサザビーの任務の件でお知らせがあったのと、手が空いたのでロア様のお手伝いに来たんですけど、、、、ドリューの件が終わってからの方が良さそうですね」
と、なんだか含みのあることを言う。ドリューの件も気になるけれど、サザビーの件も気になるので、先に教えてほしい旨伝えると
「そうですか? 実は、ゼランド王子にそろそろ王家の儀式を行っては、と言う話が上がっているんですよ」
「王家の儀式?」
「あ、知りませんか? 王家の人間は、東の山脈にある”王家の祠”を詣でて、初めて一人前と認められるのです。ゼランド王子は内向的な性格でしたから、まだ早いと判じられていたのですが、ロア様のおかげもあってここにきて急成長を見せられましたからね、王も頃合いと見なされたのでしょう」
「その、王家の儀式をすると何が違うの?」
「いよいよ本格的に公務に携わり、いろいろなことを覚えてゆくことになります」
「へえ。ん? それと僕らになんの関係が?」
「ゼランド王子が護衛をロア隊に頼みたいと言っているのです」
「第10騎士団に、と言うこと?」
「いえ、いくら王子とはいえ、第10騎士団を丸々動かすと言うわけにはいきません。先日の帝国の皇子の護衛程度の規模になるでしょうね。それで、その帝国の皇子の護衛の際にゼランド王子も同行しておりますので、気心の知れたロア隊とラピリア隊にお願いできないか、と」
「レイズ様には話が通っているの?」
「はい、今レイズ様のところに行ってからこちらに来たんです。ラピリア様も同席されていたので、そちらにも了承をいただいてます」
「それなら特に異論はないよ。後でフレインやリュゼルにも伝えておくよ。それで、いつから?」
「天候次第ですが一ヶ月後を予定しています」
と、僕らの新しい任務が決まったところでルファが戻ってくる。レイズ様、グランツ様、ラピリア様も部屋に入ってきた。
「あれ? レイズ様も一緒ですか? まだドリュー寝てますよ? 起こします?」
僕がドリューに近づくのを制して、レイズ様は椅子に座る。
「いや、ついでに先に新しい任務について話に来たのだが、ネルフィアがいるのならもう聞いているな?」
「はい。ゼランド王子の護衛ですよね」
「ああ。ドリューが起きるまで、少々細かい編成の話もしておこう。そのうちに起きるだろう」
と言うことで、結局フレインやリュゼルも呼んできて、急遽任務の打ち合わせの場となった僕の部屋。
そうこうしているうちに、ドリューが「ふぁっ!」と言いながら目を覚まして、周辺をキョロキョロして「どこです? ここ?」と首を傾げた。
そんなドリューに僕が説明しようと口を開きかけた時、部屋をノックする人物がいた。
入ってきたのはドリューの部下の一人、ホーネットだ。
「あ、こんなところにいた! めちゃくちゃ探したんっすよ! 急にいなくなるのやめてくださいよ!」
とドリューの元へやってくる。
「さーせん、ご迷惑を」ペコリと頭を下げるホーネット。
「それは良いけど、今度は何を作ったの?」僕の質問に
「実際見てもらった方が早いっす」とまだ寝ぼけ眼のドリューを立ち上がらせる。
そうして、やたら大人数でドリューの部屋へと場所を移してみれば、ジュディアノがドリューを見てホッとした表情を見せながらお出迎え。
「これっす」
ホーネットが僕に手渡したのは、金属製の部品の数々。金属製のわりにかなり軽い。それに、この部品って、、、、
「これ、もしかしてバラバラの弩?」
ドリューに視線を向けると、お腹が減ったのかジュディアノの用意してくれたスープに夢中であり、説明どころではなさそうだ。
ドリューの様子を見たホーネットが、小さくため息をついてから説明役を担ってくれる。
「そうっす、金属にすると重くなるし加工も大変だから、素材を決めるのに苦労したっす。結局、鉄よりは強度はないけど、比較的色々できるサルトナイト鋼と、ハルノアの木の組み合わせで作ったっす。それで、これをこうして、、、、」
言いながら部品をネジを使って組み合わせて行くと、あっという間に弩の形になる。しかも今までの木製の物より2回り近く小さい。
「見ての通り小さくなってるけど、金属で補強したんで威力は今までの弩よりも上がってるっす。ドリューさんは、ここのところずっとこれを作ってたんっす」
「これは、、、、すげえな」フレインが感嘆の声を上げた。小さくなって威力が増すなら、より運用がしやすくなる。
「これくらいの大きさなら、馬上で矢をつがえ直すこともできるかもしれん」リュゼルも試作品を持ちながら興味深そうに呟いた。
「そっすね。ここに取り付けたハンドルを回すと、弦を引けるっす。なので壊れなければ、何度でも打てるはずっす」
、、、、それって結構すごいことなんじゃ、、
「量産は可能なのか?」とはレイズ様。
「木製よりは時間がかかるっす。ただ、無理ではないっす」
「そうか、、、、では、とりあえずロア隊に配備させる方向で調整しよう。お前たちは既に一度、弩を実戦で使用しているからな。違いもわかりやすいだろう。ホーネット、ロア隊分の準備はできるか?」
「了解っす。でもまとめては無理なので、順次でいいっすか?」
「構わん」
「ロア、部隊で使用してみて報告しろ。使えるようなら増産する」
「分かりました」
こうしてドリューが生み出したネジを使った、金属製の組み立て式小型弩の、ロア隊への配備が決まったのである。