【第13話】改革! 食料事情!④
思ったよりも長くなりました
「なるほど、、、、これはつまり腐らせない為に熱を通すということだな」
「瓶も加熱することで、腐りにくくなるのはなぜだ?」
「最後の空気を抜くと言うのはなぜ行うのか?」
「開封後はどのくらい保存できるのか?」
瓶詰めの食材を使った料理をつまみつつ、僕はしどろもどろに答える。そもそも日雇い労働で学んだだけの付け焼き刃だ。詳しいことなど分かろうはずもない。
ちなみに作った料理は従来の干し肉と瓶詰め野菜を簡単に煮込んだもの。それから、同じ組み合わせで、お湯に塩とスパイスを足した簡易スープ。さらには干し肉と野菜の炒め物。いずれも、戦地で簡単に出来そうな料理ばかりだ。
それから、ジャムに関しては、遠征用の硬くて平べったいパンを少し炙って塗ってある。
料理としてはそこまで美味い訳ではないけれど、携帯食とすればまずまずではないだろうか。
「それで、この瓶詰めはどのくらい保つのだ?」
「一応、最終目標としては3ヶ月から半年くらいです。うまくすれば1年くらいは持つんじゃないかと、、、」
「そんなにか?」質問してきたレイズ様はもちろん、グランツ様やラピリア様も驚きを隠さない。
「あ、もちろん、種類にもよりますけど、、、、」
そんな僕の言葉には誰も答えず、真剣に瓶詰めを睨む3人。
しばらくしてグランツ様が大きく息を吐いた。
「、、、、、ロアの言うことが本当なら、陣中食どころか我々の国に及ぼす影響は計り知れませんな」
「ああ。だがまだ、実験段階だという。ロア、この瓶詰めの実験には第10騎士団より正式に予算を出す。また、お前の信頼できる文官を推挙し文書で提出せよ。この研究のために人手を割く。ディック」
「は、はいっ!」
「お前はロアの助手としてこの研究に従事しろ。その分訓練以外の仕事は免除する」
「ははっ!」
「他に武官の方で人手が必要なら、グランツに言え。グランツ、人員の選別は任せる」
「畏まりました」
そこまで指示したところで、レイズ様は立ち上がる。
とりあえず何事もなく終わってよかった、密かに胸を撫で下ろしていると、レイズ様の視線が僕を捉えた。
「ロア、お前はこの後一緒に執務室へ来い。他の者は片付けを頼む」
そう言って、サッサと歩き出してしまう。
僕は片付けを2人に託して、慌ててレイズ様の背中を追うのだった。
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「私はロアと2人で話したいと言ったのだが?」
執務室には僕とレイズ様、そしてラピリア様がいる。グランツ様はレイズ様の言葉に従い退出したが、ラピリア様はそのままだ。
「嫌です。私はレイズ様の剣。まだ信頼のおけぬロアと2人きりにはさせられません」と意地でも引かない雰囲気だ。
困り顔のレイズ様だけど、執務室ではあまり強く出ることはない。
「それは流石にロアに失礼だろう、、、、分かった。いてもいいから、まずはロアに非礼を詫びなさい」
「でも、、、」と口を尖らせるラピリア様だったけれど、流石に言いすぎたと思ったのか小さく「悪かったわよ、、、」と僕に謝った。
「いえ、ラピリア様の気持ちもわかりますので、、」半月そこらの付き合いの人間を、あっさり信用するレイズ様やグランツ様の方がおかしい。
もっとも、文官の僕の細腕で襲いかかったところで、簡単に返り討ちにできる自信があるのだろうけれど。
「では、本題に入ろう。ロア、あの知識はどこで手に入れた?」
真剣な顔で問いかけるレイズ様。やっぱりその事か。ルファは誤魔化せたけれど、多分聞かれるだろうなとは思っていた。
「、、、それが、よく覚えていないのです」
「覚えていない、とは?」
「ご存知の通り、僕は昔の戦いの記録などを集めるのが趣味です。それは子供の頃からで、色々読み漁った中に書いてあったんだと思うのですが、戦闘記録とは関係なかったので、あんまり真剣に覚えなかったんです」
「しかし、覚えているということは何かしら印象に残っているのだろう」
「はい。なので、もしかしたら幼い頃にゲードランドで見たんじゃないかと」
「ゲードランド? 失礼だが、君の出身はルデクトラドではないのか?」
「はい。僕はゲードランドの近くの漁村の生まれです。父が漁師でしたので、ゲードランドには良く魚を売りに。その時に暇つぶしに与えられていた書物なんじゃないかと」
「幼い子供に書物を?」
「昔から本の虫でして、、、文字を覚えた頃からは、本さえ与えておけば大人しくしていたそうです」
いずれ聞かれるだろうからと、僕があらかじめ用意しておいた返答だ。これでなんとか凌ぐしかない。
「なるほどな、、、海の向こうの知識である可能性、か。そういえばロアのご両親は?」
「父は僕が15の時に海で。母は先年流行病で。。。」
「そうか。不躾なことを聞いた。すまない。君の両親の天での安寧を祈る」
「ありがとうございます」
これ以上は聞いても無駄と思ったのか、まだ少し疑っている雰囲気を残しながらもレイズ様が話を締める。
「君の記憶力は私の想像以上のようだ。もし今後何か思いついた時はまず私に話しなさい。内容によるが、便宜を図ろう」
そんな言葉でその日の会談は幕を閉じた。
翌日のこと。
「ロアの第10騎士団の配属にあたり、王が引見を望んでおられる」
レイズ様の言葉の意味を理解するのに、少しばかり時間がかかった。