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【第121話】帝国騒動⑧ 強かな国の姫


 ルルリアがゼウラシア王を「愚王」と呼んだ。


 謁見の場は一気に空気が冷え、緊張が走る。


「、、、、なぜ、そう思われるのかな?」


 ゼウラシア王の重々しい言葉。


 けれど、言葉にした本人、ルルリアは平然としている。


「この度のお話、一番の利益をみすみす手放してまで、目先の事にこだわられるように思いましたので」


「貴殿の説明を聞こう。内容次第では先ほどの言葉、不問にしてやらんでもない。だが、ただの暴言であれば、、、」


「此度のお話、ゼウラシア王様、いえ、ルデクにとって最も大きな利益はなんですか?」


「今回の話で我が国にはさしたる利益はなかろう?」


「本当にそう、お思いですか? 私なら金子さえ断りグリードル帝国の好きにさせます。もちろん、監視はしっかりとつけて」


「器の大きなところを見せよというのか?」


「いいえ、私はタダより高いものはない。そう申しているのです。今回の件、おっしゃる通りルデクには何の関係もございません。そのルデクが無償で協力をなされる。グリードル帝国にとってこんな嫌なことはないかと。ルデクに大きな大きな"貸し"ができるのですから」


「しかし帝国は我らの領土を狙っている敵国だ。貸しがあろうとなかろうと、攻め滅ぼせば全ては気にする必要もない」


「皆様はグリードル帝国について少々誤解をされております。急速に成長した帝国は、決して一枚岩ではございません」


「姫様!」


 ルルリアの言葉に顔色を変えたのは、帝国から同行してきた使者の一人だ。当然の反応だろう。国内の状況を敵国に話そうとしているのだ。けれど使者の言葉をツェツィーが手で制する。その様子を見てからルルリアは続けた。


「帝国は誠実な侵略者でなくてはならないのです。少なくとも国内基盤が安定するまでは。皇子たちに各領地を任せるのも、急速な拡大による内乱を防ぐため。皇帝の子らが善政を敷く姿を見せて民を納得させるため、、、、尤も、今回はその息子の一人が内乱を起こしてしまいましたが」


「続けよ」ゼウラシア王に限らず、この場にいる全てのルデクの人間には初耳だ。


「ゆえに帝国は借り、、、ルデク王国にとっては"貸し"ですが、について無下にはできない状況があるのです。疎かにすれば足元で不信を生みかねない」



「、、、、なるほど、興味深い話だな。ゆえに貸しは大きくしておけと」


「さようでございますわ。それを目先の利益に走りむざむざと手放すのは、、、」



 ルルリアがここまで言ったところでゼウラシア王が大きな声で笑った。



「ふはは! 姫の言う通りだ、デラントよ、いかがか?」


 ゼウラシア王に指名されたのは、壁際に立っていたルデクの要人の一人だ。


「、、、何もございません」と短く答える。



「ツェツェドラ皇子、それにルルリア姫よ。少々礼を失した対応ですまなかった。はっきり言えば我が国の帝国に対する不信感は強い。先ほど申した通り、貸しなど作ったところでなんになるという意見も少なからずあった。ゆえに、あえて聞かせてもらった。ツェツェドラ皇子、貴殿の妃の言葉に相違はあるか?」


「ございません。また、我が妻の言葉にご不快を感じたのであれば、その責任は全て私に」


「礼を失したのは私が先だ、お互い様という事にしておこう。では、大きな貸しにするとしようか。金子も不要である。その罪人を連れ、我が国の領内を通過することを、赦す」


「感謝いたします」ツェツィーが頭を下げたところで、謁見の間にようやくホッとした空気が流れた。


 直後に「あ、ですけれど」とルルリアが口を開いたことで、再び緊張が走る。


「何かな?」


「先ほど私がお話しした当国の実情は、貴国にとっても貴重な情報のはずです。その分は貸しから引かせていただきますね」


 というと、さすがのゼウラシア王も苦笑しながら頷く。


「ツェツェドラ皇子は良き伴侶をお持ちだ」とゼウラシア王が言えば


「自慢の妻でございます。今回も妻に頼りきりで」


「いや、先ほど妃が話している時、貴殿は自国の使者の横槍を止めさせ、妃の好きにさせた。貴殿にそれを行う器があったからこそ話がまとまったのだ」


「恐れ入ります」



「さあ、話は成った。これからゴルベルに帝国の使者が日程調整に出向くのであろう? であれば数日間ではあるが、このルデクトラドでゆっくりとされるが良い。明日の夜は歓迎の宴を用意しよう」


「ありがとうございます。お言葉に甘えさせていただきます」


「うむ。では、本日はここまでとする! まずは旅の疲れを癒されよ!」



 こうしてゼウラシア王とツェツェドラ皇子の会談は、どうにかこうにかまとまったのである。




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― 新着の感想 ―
[気になる点] そうはならんやろ、ロアの情報がなかったら ボロボロだったのに、そんな国に貸しを作ってもなぁ… ツェツィーが国王になるならまだロアの助言が効くけど ご都合主義すぎるなぁ… うーん、もやも…
[一言] ここはなんか納得いかないなぁ。 愚王呼ばわりで殻が膨らむ一方でしょ。 情報でも礼を失したことと相殺できたら御の字くらい…。
[良い点] 三國志の論戦みたいでよきっ!!
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