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【第119話】帝国騒動⑥ 皇子と王子


「ルデク王、ゼウラシアが長子、ゼランドです。よろしくお願いします」


 ルルリアとルファの再会の挨拶がいち段落したところでゼランドが名乗りをあげ、流石に帝国側の人達がざわつく。それはそうだろう。ついてくると言った時は僕だって驚いた。


 ガフォル将軍が視線で「事実か?」と聞いてきたので、僕は肯定の黙礼を返す。


「、、、、それは、初めまして。私はグリードル皇帝ドラクの第四子、ツェツェドラです。ゼランド王子はわざわざ私たちを出迎えに?」


「はい。王に願って同行させていただきました。貴国の皇子がお越しになるというのに、こちらに王族がいないのも失礼かと思いまして」


「、、、なるほど、お心遣い感謝いたします。この件は必ず父にお伝えいたします。ガフォル」


「はっ。お任せください。ツェツェドラ皇子が出発次第、すぐに知らせを走らせましょう」


 ガフォルの言葉に満足げに頷くツェツェドラ。


「では、後の話は道中といたしましょうか。ルルリア、準備は良いかい?」


「ええ、いつでも」いつの間にか既に騎乗しているルルリアがにこりと微笑む。


「ガフォル、留守の間は頼む」


「はっ。お気をつけて。ロア殿、お頼み申し上げる」ガフォル将軍が僕に深々と頭を下げる。


「必ず無事にお帰しすることをお約束します」僕はそのように伝え、いよいよ帰路へと就くこととなった。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



「今回のお話は伺いました。大変でしたね」


 僕のすぐ手前、まだうまいとは言えない騎乗ながら、それでも馬の上から積極的にツェツェドラ皇子に話しかけるゼランド王子。



「ええ、貴国のロア殿の助言がなければどうなっていたか、、、」


「先ほども仰っておられたのですが、ロア殿が一体何を?」


 ゼランドの目が輝き、ものすごく聞きたそうにしている。ツェツィーは僕の方へ話して良いのか聞いてきた。色々突っ込まれると矛盾も出てくるけれど、ま、ゼランド王子なら問題ないか。何かと鋭いラピリア様は、ルファとルルリアと楽しそうに話しているし。


 僕の許可を得たツェツィーは


「ではお話しさせていただきましょう。その前に、ゼランド王子も私のことはツェツィーと。ロア殿に通称で呼んでいただいて、王子から敬称というのは座りが悪い」


「分かりました。では、私のこともゼランドと呼び捨てで」


「ええ、それでは、、、、ことの発端はルルリアの乗った船が漂流した事から始まります、、、」


 まるで何かの物語のように話し始めるツェツィー。その場にいなかった漂流船の話も流暢に語る。相当ルルリアから聞かされたのかな。


 しかしこの二人、敵国同士の皇子と王子なのだけど、随分と相性良さそうだな。短時間でかなり親しげな感じだ。年上のツェツィーと、年下のゼランド王子で兄弟みたい。


 ゼランド王子は長男で兄がいないし、ツェツィーは末っ子で弟がいないので、お互いに新鮮な感じなのかもしれない。




「とりあえず何事もなく良かったですね」僕の隣にいるウィックハルトがそのように話しかけてきたのは、ヨーロース回廊を抜けようとしたところだった。


「そうだね。ま、油断しちゃダメだけど」


 とはいえウィックハルトの言うとおり、何かあるなら回廊を通り抜ける間だと思っていた。回廊を抜けてしまえば4000の兵で囲んで王都へ向かう。良からぬことを考える輩がいたとしてもそうそう手は出せない。


 僕は密かに胸を撫で下ろしながら、なおも漂流船の話で盛り上がる、皇子と王子を眺めるのだった。




〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



「ねえ、王都に行く前にゲードランドに立ち寄れないかしら?」予定していた砦で一泊。夕食の席でルルリアがそんなことを言った。


 本来であればダメだよと言うところだけど、一概にダメとは言えない事情がある。


「あのう、、、今回の話がうまくいけば、ゲードランドには向かいますよ?」と答えたのはゼランド王子だ。


「あら? そうなのですか、、、、あ、なるほど」ゼランドの一言だけでその意図を理解したルルリア。一方でツェツィーは「どういう意味だい?」と不思議そうだ。


 そんなツェツィーにルルリアが優しく説明してあげる。


「つまりね、ゴルベルにいるフィレマス義兄様は、海路で引き取りに行くということではないかしら? 考えればそうよね。私たちはこうしてルデクに足を踏み入れているけれど、つい先日大きな戦いのあったばかりのゴルベルとは同じ条件とはいかない。ゴルベルもルデクの兵は受け入れられないでしょう? だから私たちが船でゴルベルの沿岸に行って、ゴルベルは小船か何かでフィレマス義兄様を追い出す。それならルデクとゴルベルは直接接触せずに済む。どうかしら?」


「正解だよ、ルルリア」


 僕は答えながら心の中で舌を巻いた。よくそんなところまですぐに考えついたものだ。この話は僕らが出発する直前、ルデク、ゴルベル両国の日程をすり合わせていた帝国の使者が、ゴルベルに出向いた際にもたらされたものだ。


 その使者は現在、ルデクトラドでツェツィー達の到着を待っている。会談の成否を問わず、ツェツィーたちと一緒に帰る段取りになっていた。


 使者がいうにはゴルベル側は、「日程さえ知らせて貰えば、フィレマスは海に放すから、あとは好きにしてくれ。必要なのはフィレマスだけか? 他の者たちも必要か?」と、随分と投げやりな対応だったようだ。


 ルデクとしても、あまりゴルベルの兵士に国境付近をウロウロされたくないため、特に問題なく話がまとまった。


 あくまでゼウラシア王とツェツィーの会談が無事に済めばという話になるけれど、僕らはその足でゲードランドへ向かい、船でゴルベルの海域へ。フィレマスを確保したらゲードランドに戻ってきて、かつてルルリアを送り届けたルートで、再びヨーロース回廊を目指す。




 これが今回の基本路線。


「それなら良かった。ルファの義父となったあの将軍、ザックハート様だったかしら? にも挨拶しておきたかったのよね」


 僕は今の頭の回転の速さを見て、今回の内乱では随分と暗躍したんだろうなぁと思うと同時に、ガフォル将軍がルルリアの同行を許した理由がなんとなくわかった気がした。




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― 新着の感想 ―
うん、この感じだと、本来の歴史だとルルリアは嫁入りできてなかったんだろ〜な〜
[一言] ルルリアは相当活躍したのでしょうね。 なる程納得!
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