【第113話】小さな革命
みなさまいつも読んでいただきありがとうございます。
本日流れの関係で少し短めです。
“それ”には、四角いつまみのような部分があり、途中から円柱に変わっている。円柱部分には螺旋の溝が彫り込まれていた。
「ふぉれ、ふゅみあわふぇふぇばふぁぶふぁふぁ」
「いや、食べてからでいいから。急いで飲み込むと喉に詰まるよ?」
僕は差し出されたその小さなものを受け取ると、ドリューの食事が終わるのを待った。もぐもぐごくんと落ち着いたドリューの様子を見計らって、僕は改めて声をかける。
「それで、これはなんなの?」
「ネジネジネジです」
「ネジネジネジ?」
「こう、、、穴を空けたところに、ネジネジネジとねじ込むと、固定されるのです」
「うん。。。。うん?」
言いたいことはなんとなく分かるけれど、どうもピンとこない。
「つまり、ネジネジネジ、、、、長いからもうネジ、でいいです。ネジを使えば、いろんな物が小さくできたり、強度を増したりできるのです」
「こんな小さなもので?」
「はい。多分、木製でも金属製でも今までよりしっかりと固定できます。そして、そうなればいろんなものが小型化できるのです」
いろんな物が小型化できると言う点を繰り返すドリュー。長柄槍を固定できたことで、螺旋を小さくすれば、もっと色々な物に流用ができるのではないかと思い当たったそうだ。
「差し当たって弩を金属製にて小型化しようと思っています」
そこまで言われれば、僕でも凄さがわかる。弩が金属製になれば強度はもちろん、射程距離や威力も上がりそうだ。それに小型化できれば、上手くすれば複数の弩を馬に装備して移動できるかもしれない。
というか、もうそれは弩ではなく別の武器だろう。
「他にも、ありとあらゆる物に、このネジネジネジ、、、じゃなかった、ネジは役に立つと思うのですよ」
そんな風に言いながらミルクを舐めるドリュー。
これはまた、僕では処理しきれない話なんだろうな。
僕には休み明け、レイズ様が額に手を当ててため息をつく姿がありありと想像できた。
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「お世話になりました」
「いや、大したもてなしも出来なかった」
僕とトール様が別れの挨拶を交わしていると、双子が割り込んでくる。
「次は負けない」
「今度はキツァルの砦に来い」と揃ってトール様に向かって指を差す。
「機会があればな。それまで腕を磨いておけ」余裕の表情で返すトール様。結局双子は一勝も出来なかったらしい。とんでもないな、トール様。
ちなみに双子の名誉のために言っておくと、トール様以外には一度も負けなかったと言うので、こちらも大概である。
そうしてリーゼの砦を離れ、少し行ったところの三叉路で、双子が不意に馬首を巡らす。
「そろそろ帰る」
「じゃあまたな!」
それだけ言い残すと、馬に鞭を入れあっという間に姿が見えなくなる。
「なんというか、、、、すげえな」フレインの言葉は、その場に残った全ての人の気持ちを代弁しているように思えた。
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双子と別れた僕らは、さして急がずにゆっくりと王都を目指す。
途中で立ち寄った村で、その地域の名物鍋を頂いたり、せっかくだからと少し足を伸ばして名所を見学しながら。
なんと言うか、行きよりも随分とのんびりしているな。そのように思い返してみれば、行きは双子がやたら先に進みたがったため、なんだか慌ただしかったのである。
どこまでも我が道をゆく2人であった。
そうして帰還。
厩に馬を預けにゆくと、すでにレイズ様の馬が繋がれていた。早速ドリューのネジを報告に行かないと。それにトール様が言っていた報告の件も気になるし。
馬を預けたその足でレイズ様の執務室へ向かおうとする僕の耳に、何か聞こえた気がしておや、と思う。
「あれ? 今何か言った?」
誰かに呼ばれた気がして隣にいたドリューに訊くも、ドリューは不思議そうにこちらに首をひねるだけだ。
「ロア殿、声の主はあの方ですね」ウィックハルトの示す先から、恰幅の良い異国の服装の男性が手を振りながら近づいてくる。
「あれ? ダスさんだ」
その姿はフェザリスの外交官、ダスに間違いない。もう戻ってきたのか? 帝国で新年を迎えて、皇帝に挨拶することを考えたら早すぎる気がするけど?
僕のすぐそばまでやってきて、肩でぜえぜえと息をしながらダスさんが安堵の表情を浮かべてこちらを見た。
「ロア殿、良かった! 急ぎの用があるのです! 是非お話を聞いていただけませんか!?」
そのように言うダスさんが持ち込んだ話は、僕にとって想像の斜め上のものだったのである。