【第102話】ゼッタの大戦17 4日目 決着
僕の前で崩れ落ちるゼーガベイン。
「ロア殿、兜を」というウィックハルトの言葉に、アロウから降りて兜を剥ぎ取る。
「ディック」ウィックハルトの指示でディックが僕からその兜を受け取ると、棍棒の先へと掲げ、すううと息を吸う。
「敵将ゼーガベイン!!!!!! ロア隊が討ち取った!!!!! 兵どもは速やかに投降しろお!!!」
隣にいる僕が思わず耳を塞ぐほどの声だ。ゼーガベイン軍はもちろん、両側にいた部隊にも聞こえたかもしれない。
ディックの叫びに呼応するように、各所で「ゼーガベインは討ち取った!」「お前らの大将はもういない!!」と怒鳴る声が響く。
既に半壊状態でロア隊と双子の蹂躙を受けているゼーガベインの部隊はこの言葉で、大半の兵はいよいよ戦意を喪失。
尚も抵抗する兵の横で、武器を捨てて逃げ出す者、その場で降伏して命乞いをする者が混じり合い混沌の場と化した。
ゼーガベイン軍の両側にあったゴルベルの部隊もこちらの異変に気づいて、一部を援軍に向かわせ始める。
両隊の動きを、僕はディックの隣で見つめる。
勝負は決したはずだ。冷静に考えればこれ以上の被害はゴルベルにとってなんの利益もない。退け、頼むから退いてくれ! ただ、祈るように行軍を睨みつけた。
どのくらいの時間だったのだろう。わずかな時間のような、とても長い時間のような中で、ウィックハルトがつぶやいた。
「敵の軍旗が下がり始めました、、、、ロア殿、我々の勝ちです」
ゆっくりと戦場を離れてゆくゴルベル兵。
僕はただ静かに、真っ白な息を吐いた。
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砦に戻ってきた僕ら。
砦に詰めていた怪我人や先に戻っていた第四騎士団の兵たちから、大歓声をもって迎えられた。その中にはラピリア隊の姿もある。
「ラピリア様も無事でよかった」僕が素直に言えば
「ローデライトのやつ、ゼーガベインが討たれたって声が聞こえた途端に退いていったわよ。アイツ、逃げ足も恐ろしく早いのよね」と肩をすくめる。大した戦闘らしい戦闘も起きず、肩透かしだったらしい。
「ボルドラス様の方は?」
「どうということはありませんでしたな」
少数の兵でゴルベルの2部隊を引き受けた第四騎士団だったけれど、僕らの突破が思った以上に早く、こちらも思った以上の消耗戦になる前に敵が退いたらしい。
良かった。。。。それしか言葉にならない。
「ロアちゃん、それがゼーガベインの兜ね」
「あ、はい」
「それを掲げて、貴方が勝鬨をあげなさい」
「え、勝鬨ならボルドラス様やホックさんの方が良いかと、、、」
「いいえ、貴方がやりなさい」
有無を言わせぬ口調に、僕はたどたどしくゼーガベインの兜を掲げる。
「たくさんの犠牲もあったけれど、、、、この戦いっ、、、、僕らの勝ちだ!!!!」
「おおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」
降りしきる雪を溶かすほどの熱気で、勝利の雄叫びはいつまでも響き続けた。
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この地での勝利は決まったものの、まだ祝宴とはいかない。北のエレンの村でも、南のシュワバの砦でも戦闘中かもしれないのだ。
尤も、ゼーガベインが死にキツァルの砦から軍が撤退した以上、南北ともに一報が届けば撤退は時間の問題だろう。
こちらもすぐに動ける状態ではないけれど、少なくとも援軍の道筋だけはつけておく必要がある。
そのため体はヘトヘトだけど、兵士たちは休ませて将官はいつもの部屋に集まった。
「まずは皆、お疲れ様だった」ボルドラス様の労いから始まった軍議。今後の対応を指示してゆく。
「私は明日の朝には第二騎士団に合流することにするわ」とはホックさん。すごく助かったけれど、本当に最初から最後まで第二騎士団を指揮しないのはどうなのだろうか。
「とりあえず私もレイズ様に合流するわね。私の部隊まだ余力があるし」とラピリア様。とはいえ、今もラピリア隊は雪の中見張りを請け負ってくれている。
「それじゃあロア隊も、、、、」と言いかけた僕に、「アンタはちゃんと休みなさい」とラピリア様に制された。
「あの、、、、少し良いですか?」
ある程度話がまとまりかけたところで手を挙げたのはサザビー。
「書記官として王に報告をしないといけないのですが、今回の勲功第一はロアさんで良いですかね?」不意にそんなことを言い始めた。
「ちょ、ちょっと、、、そんなわけないでしょ!?」慌てる僕を尻目にサザビーは続ける。
「戦いを有利に運ぶ策の立案や、ゼーガベインを討ち取ったことを考えれば、客観的に見て妥当だと思いますけど?」
「私も賛成ですな。やはりここはロア殿の功績が大きい」ボルドラス様も乗ってくる。
「いいんじゃない? 異論はないわ」とホックさんすらも。
「いや、待ってください! それは受けられないですよ! 砦を体を張って守ったのは第四騎士団の人たちです! それに僕の策といっても、危険な役回りを成し遂げたのはウィックハルトやサザビーです。勲功というならそれらの人がもらうべきです!」
「いや、もちろん俺も含めて功績はちゃんと報告しますが、こういうものは一応、王として一番の功績者を讃える必要があるんですよ。民に聞こえがいいように」
「サザビーの言うこともわかるけど、それなら絶対にウィックハルトだよ。ここだけは譲れない。そうでなければ砦にいた全ての兵が第一勲功。いい? そう言う風に報告しないなら、今後僕の部下からは離れてもらうから」
「上司の功績を報告しようとする部下を首にするなんてあります!?」
「ダメと言ったらダメ!」僕はほとんど何もしていない。4日間必死に戦った人たちがいるから今があるのだ。とても第一勲功なんてもらえる立場じゃない。
「、、、、ロアちゃんは面白いわねぇ。サザビーちゃん。ここはロアちゃんが言った通り、この砦を守った兵士全てが等しく功がある、という形でいいんじゃないかしら? 厳しい戦いだったもの。ゼウラシア王も難色は示さないと思うわよ」
「うーん、、、、それじゃあ、ここでのやりとりも踏まえて、と言うことでそのような報告で良いですか?」
「それは構わないよ」
僕の了承を得たところで、この話も終了。あとは細々とした話が済んでようやく一日が終わった。
翌朝、完全に吹雪になったゼッタ平原。
ホックさんやラピリア様が出立する前に、南北の戦地から「ゴルベル兵撤退!」との第一報が舞い込んだ。
いつも読んでいただきありがとうございます。
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ようやくゼッタ平原に戦いに決着がつきました。
なるべく展開が分かりやすくなるように苦心しましたが、いかがでしたでしょうか。
毎度のことながら見切り発車、離間の計も途中で思いついて織り込むような展開だったため、どうにかまとまって良かったです。
せっかく読んでいただいているので、少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです。
宜しければ、本作を引き続きよろしくお願いいたします。




