悪役令嬢溺愛王太子は僅かな希望を逃したくない
前作、沢山の方に読んでいただきとても驚いています!
今作はその続編になっています。ヒロインと恋仲になる筈の王太子視点です。誤字報告ありがとうございました!
「私の女神が消えただと!?」
執務の最中、ラランド侯爵家に置いた影からの報告に思わず立ち上がると椅子が思いの外大きな音をたてた。
「落ち着いて下さいウィンベル殿下」
「馬鹿を言うなログナス、メルトリーナ嬢が行方不明など、私にとってはこの紙の束より重要な案件だ!」
「私と民にとってはその書類が大事なのです。殿下にしか出来ない事です。もしそれを投げ出したとしたら、ラランド侯爵令嬢は控えめに無いわ、と言うお顔をなさるかと」
「そんな顔でも良いから私はメルトリーナ嬢の顔が見たい…」
「末期ですね、今更ですが」
まさかメルトリーナ嬢を王太子妃に迎えられる様に外堀を埋めて居る間に本人が居なくなるなど…。
「東洋には鳶に油揚げをさらわれると言う言葉があると聞きましたが、まさにこの状況ですね」
「そのトンビとやらを射落とそう」
「本気の眼ですね、怖いなぁ」
「まさか何も分からない状態ではないだろうな」
ログナスは溜め息を吐きながら持っていた書類を読み上げる。
「ラランド侯爵家令嬢は三日前の朝、侍女が起こしに行ったところ姿が無かったそうです」
「三日前!?何故それほど時間が経たなければ情報が入って来なかった!」
「ラランド侯爵が箝口令を行ったようですね。あと殿下にとって悲しい情報があります」
「いい、話せ」
「男が一緒のようですね」
「トンビ!!」
「いえ、カイル・アルベルトと言う護衛です」
「あの美形か…いや、諦めない。私は諦めない。メルトリーナ嬢の弟はどうした?メルトリーナ嬢は弟を可愛がっていた。それならば顔を見にきっと帰ってくる筈だ」
「それが、妙なんですよね。一日目は泣いて手がつけられない様子だったそうですが、二日目には時折ぐずる程度だとか」
「それは確かにおかしいな」
あの弟はメルトリーナを母の様に慕い、私にも懐かなかった。それどころか私がラランド侯爵家を訪れると決まって一緒に茶会に来る程だ。
「……ラランド侯爵はこの事をどう言っていた」
「『しばらくすればシルヴィ可愛さに戻って来るだろうから皆は通常通り動く事』まぁ、殿下と同じ考えのようですね」
「そうだろうか」
「さっき同じ事仰ったじゃないですか」
「そうなんだが。自分で言うのもなんだが、私はこの件に関してまだ部外者だ。だがラランド侯爵にとって、この出来事はそんな冷静な考えで居られるものだろうか」
「まぁ、殿下はラランド侯爵令嬢に片想いしてるだけですからね」
「お前本当にそろそろ不敬だぞ」
「すみません、左遷は許して下さい」
「王宮に『見透し』系の祝福所持者が居たな。その者と共にラランド領地内を探れ」
見透しは、魔法で景色を変えたり、遮断している場所が通じない祝福だ。それならばきっと、メルトリーナ嬢が居る場所が分かる筈。
「殿下はどうなさるおつもりですか?」
「この書類を片付ける。ただの恋に溺れただけの愚王になるつもりはないからな。そんな王の隣に女神は相応しくないだろう?」
(ただ覚悟してメルトリーナ。君を見つけだしたら、私はもう逃してあげるつもりはないから)
少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです。
シリーズ化しようか悩んでいます。
連作にまとめた方が良いのかな、とも。