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青春空手道部物語 ~悠久の拳~ 第1部  作者: 糸東 甚九郎 (しとう じんくろう)
第2章 激闘!春季大会!
8/80

8、真波と菜美の形競技

 各コートでは次々と試合が進み、団体組手の一回戦がすべて終了した。

 ここで一度、会場は形競技へ切り替わり、コートの組み換えがされる。

 組み換えが終わると、各コートでは団体形の試合がそれぞれ行われた。三人の選手が息を合わせて演武する団体形は、まるで、シンクロナイズド・スイミングのようだ。

 団体形が終わると、競技日程は個人形へ進行していった。


   ~~~Cコートで、女子個人形を行います。選手のみなさんは・・・・・・~~~


「さぁて、アタシらの個人形だ! 呼ばれたね。行こう、菜美!」

「うん! それじゃみんな、行ってくるよ。男子もたぶん、そろそろ形始まると思うから頑張って」

「わかったー。頑張ってこい。落ち着いて、力まずになぁ?」

「「 ラジャ! 」」


 川田と森畑は、田村へ元気な笑顔を見せ、選手待機所へ走っていった。


「先輩達の形試合って、見るの、初めてです!」

「去年初めて俺たちも見たんだけど、けっこうすごいよ。さすが有段者の先輩だよなー」

「阿部先輩たちは、形は出ないんですか?」

「わたし、まだ、試合出られるレベルの形じゃないのよー。黒帯取ったら、出てみるかな?」


 一年生や二年生の後輩達が、前原達の横で、形について話している。

 試合で演武する形は、最低でも四種類は身につけていないと戦えない。その中でも、「指定形」というものが第一指定・第二指定と流派ごとに八種類ずつあり、それぞれ一つずつ覚えていないとならないのだ。

 それゆえに、稽古量をかなり積んでいないと競技にすらならないという、よく考えたらものすごく内容レベルが高い種目だ。


◆第一指定形・・・ バッサイ大 ・ セイエンチン  カンクウ大 ・ ジオン   サイファ ・ セーパイ  チントウ ・ セイシャン

◆第二指定型・・・ 松村ローハイ ・ ニーパイポ  カンクウ小 ・ エンピ   セーサン ・ クルルンファ  クーシャンクー ・ ニーセーシー


 合計、十六種もの指定型があるが、自分の稽古している流派をもとに何を演武するかは選べる。

 果たして、出場選手はみな、どのような形を選んでくるのだろうか。


「とりあえずみんな、一度、上で見てようかねぇー。まだ団体組手は先だしねぇ」

「そうだね田村君。女子個人形を、みんなで応援して見届けよう!」


 女子選手達が入場し、開始準備が整った。どの選手も、自分が演武予定の形の動きをその場でいろいろ確認をしている。静かに立って待っている人の方が少ないくらいだ。川田と森畑も、例外ではない。


「選手! 正面に、礼! お互いに、礼!」

「「「「「 お願いしまぁぁぁぁぁッすっ! 」」」」


 選手達は、赤サイド、青サイド共に礼をし、審判団にも一礼。

 各個人それぞれ、一気に声を張り上げて道着をバシバシ叩き、気持ちを高めている。組手とはまた違い、まるで、人生をかけたオーディションであるかのような気持ちの入りようだ。


   ~~~シュパッ  タァン タァン バシィ   エェーイッ!~~~

   ~~~ピィーッ、ピッ!  青の、勝ちっ!~~~

   ~~~セイエンチィン!   ジオンッ!~~~


 今大会の形試合は、決勝戦までは五人の審判が赤青のどちらかの旗をあげて勝敗を決めるフラッグ制のトーナメント。決勝戦は一人ずつ演武をし、フィギュアスケートのように採点で順位を決める点数制となっている。

 決勝に残る四人をトーナメントで決め、その四名は関東大会出場権を得る。

 形は、一戦一戦の集中力を持続するのは大変で、組手よりも神経を使う種目だと言う人もいるほどだ。


「あっ。次、川田先輩だよ! 先輩、ファイトでーす!」

「「「 川田先輩ー。ファイトォー! 」」」


 いよいよ、川田が演武する番がきた。

 相手は、等星女子高一年の矢萩選手。隣の茨城県から特待生で入った選手で、今年デビューした実力派の新人らしい。


「赤! 県立柏沼高校、川田選手!」

「はぁいっ!」

「青! 等星女子高校、矢萩選手!」

「うぁいっ!」


 川田は赤サイドなので、まず、先攻で演武する。

 一回戦なので第一指定形の中から選択するが、川田は松楓館流だから、森畑とは違う形を演武するのだろう。

 川田は帯の両端も寸分違わず揃え、道着にも乱れが無く、目をキリッと光らせ、一礼をしてからゆっくりとコート中央へ入った。静かに、ただ前だけを見つめて。


   すぅっ・・・


 一呼吸をふっと吸い上げた瞬間、目を一気にカッと開き、全身へ気を漲らせて形の名を叫んだ。


「カンクウー・・・ダイっ!」


   スウッ  サッ   フワァァァァ   サァァァッ   タンッ!


 松楓館流の形、観空大かんくうだい

 文字通り、空を見上げるような構えから、孔雀のように両手を開き、手刀を打ち合わせたあと一気に四方八方へ連続技を出してゆく、アグレッシブで激しい形だ。


   バッ ズバッ!  スウゥ  サアァ   バッ パァン! バッ パァン!

   シュバッ  ダンッ  ダンッ  ダンッダンッ   えええーいっ!   


「(導入部は大丈夫。今日はアタシ、調子いい! 足腰もまだ、大丈夫だ!)」


   ササッ  ダッ  ババッ バシュ!   ササッ  ダッ  ババッ バシュ!


 前屈ぜんくつ立ち、半身後屈はんみこうくつ立ち、手刀受け、下段払い、すくい受け、前蹴りと、たくさんの技と立ち方が組み合わされ、矢継ぎ早に動きが入れ替わる形。

 技の正確さ、立ち方の正確さ、目付けなどをコートの四隅と真正面から五人の審判が見つめる中、凄まじい緊張感が漂う。少しのブレやミスも許されない競技だ。


   シュバッ パァン!  スゥッ  クルン  パァンパァン!

   ババッ  スッ  ダダァッ!  ダァン!  えええーいっ!  スウウッ  タッ


 回転しての横払い、肘当て、交叉こうさ受けに二段蹴り。そして最後にゆっくりと掬い受けを交差させ、一礼をして演武終了。これには観客席の柏沼メンバーはみな、キレのある素晴らしい出来栄えだと思って川田へ拍手を送った。


「(ふぅっ、やったよ。さぁ、あとは等星の演武を待つだけね!)」


 川田は演武を終え、ちらっと観覧席にいる後輩達へ目線を流し、小さく右指を立ててコート袖に待機した。森畑は、軽くピースサインを川田へ送った。手応えアリ、ということなのだろう。

 そうこうしているうちに男子個人形が招集され、前原達はDコートにスタンバイした。


「いやぁ、いい出来じゃないの観空大。なぁ、尚久?」

「うん。そうだなぁ。あとは、後攻の等星がどれほどか、だね」


 等星の矢萩が一礼し、ゆったりと落ち着いた雰囲気を纏い、コートへ入る。


「セーーー・・・・・・パァイイイイィィッ!」


 けたたましく響く大きな発声。気が弾け渡るかのような雰囲気だった。剛道流の第一指定形、十八歩(セーパイ)だ。

 とても一年生とは思えない、堂々とした雰囲気で。強者としての風格を感じさせる。


「セーパイか。カンクウ大とはまったく印象が異なるな。審判団がどう判定するかだなこりゃ」

「松楓館の形と剛道の形。川田さんなら大丈夫だと思うけど・・・・・・」


 田村と前原が、別コートから川田のコートを見守っている。

 後輩達も、観客席から形試合を見守る。


「ああー。先輩、勝ちますように! お願いっ。神様。勝たせてー」


 一年生の内山は、神頼みを始めた。大南は、謎の踊りで、やはり神頼みをしている。


   スウッ   シュパァァ  ガッ  ダァァン  バッ  パァァン!

   スウーッ  ザッ!  シュバッ ダァァン!  ババッ!

   スウーッ  ザッ!  シュバッ ダァァン!  ババッ!

   ザッ   ヒュバッ バシッ スウウ  バシュッ  タァン!


 粘っこいような動きとリズム、静かかと思えばいきなり激しく繰り出す受け技。そしてまたゆっくりと呼吸をし、最後には相手を投げ飛ばすかのように両掌を回し、猫足立ちで右拳を左掌に当てた。


「中村先輩。形って、いったい何のために、こんな動きになってるんですか?」

「内山も大南も、これは勉強として覚えるといい。形というのは、それぞれの技に、護身術としての意味があるんだ。この受けは、こう。この突きは、こういう場面ではこう。ってね」

「護身術、ですか?」

「そうだ。だから、踊ってるわけじゃなく、その意味を理解して動きで表現するんだ。目の前に、空想の相手を置いて、技の攻防をイメージして演武する。これ重要な。あとは、身体の軸や筋力を鍛えたり、呼吸法でじっくりと鍛えたりするための形もある」「へえぇー、奥が深いですね。そうなんだぁ・・・・・・」


 そうこうしているうちに、等星の矢萩も演武を終えた。

 いよいよ、判定に入る。赤と青どちらの旗数が多いかで、次に進めるかここで消えるかが決まる。

 高校の合格発表よりもある意味、緊張する瞬間かもしれない。


「(やるじゃない、等星の新人さん! 試合はこうでなくちゃ。相手は強くなくちゃ、アタシは張り合いが無いの!)」

「(・・・・・・柏沼高校の川田。県立にもこんな人がいるのね・・・・・・)」


 両選手が主審の正面に並び、判定の笛を待つ。

 周囲の雑音は消え、両者の心音のみが、静かに聞こえるような気がするほどの緊迫感だ。


「判定っ!」


   ピィーーッ!  ピッ!

   バッ!  バッ!    ババッ!  ババッ!  ババッ!


 柏沼チームは全員、審判が一斉に旗をあげるのと同時にコート内を目で一周。

 その旗の数は・・・・・・


「赤、2! 青、3!  青の、勝ちっ!」

「「「 あああー・・・・・・ 」」」


 柏沼陣営からは、驚きと溜息が混ざったような声が一気に上がっては下がり、時が止まったかのようになってしまった。川田も、直立のまま、目線だけで審判をぐるりと見渡した。


「(・・・・・・2対3!? うそ。・・・・・・悔しいっ! そんな・・・・・・)」


 その川田の視線からは、明らかな動揺が窺える。


「ええーっ! 先輩、負けちゃった・・・・・・。惜しいのに。惜しいのにー」


 内山と大南は、力ない声で悲鳴にもならない感じだ。

 前原たちも隣のコートで、同じような声を小さくあげていた。


「実力はほぼ拮抗していたが、なにが勝敗を分けたのか。2対3じゃ、どちらに転んでもおかしくない勝負だったんだがねぇ。くっ、惜しかったなぁ川田。ほぼ互角だったのに!」


 田村も、膝を拳でばんと叩き、悔しさを露わにしていた。 

 がっくりと力なく戻る川田に、森畑が掌で応えた。無言で健闘を讃えている森畑は、本気中の本気だ。彼女はこういう時、口を開かずに集中力を研ぎ澄ませてゆく。


「(一年に負けるなんて・・・・・・悔しすぎる! アタシ、稽古が足りないんだろうか)」


 落胆する川田と入れ替わるように、森畑が次の試合にむけ、ゆっくりと立ち上がって深呼吸してスタンバイする。

 森畑は俯いて座っている川田の頭へポンと手を置き、なにか小さく言葉掛けをしたようだ。



     * * * * *



「赤! 県立柏沼高校、森畑選手!」

「はいっ!」

「青! 等星女子高校、朝香選手!」

「はぁいぃっ!」


 森畑と朝香の試合が始まった。女子個人形一回戦の最終試合だ。

 会場の観客はみな、朝香に自動的に視線を向けている。森畑へ視線を向けるのは、柏沼のメンバーのみ。

 朝香は昨年、組手は高校三冠総なめだったが、夏のインターハイでは形も三位入賞するほどの二刀流だ。日本代表の強化合宿などでは組手に絞っているが、地方大会では形にも出場してくる。


「(真波は惜しくも僅差で敗れてしまった。私の相手は朝香朋子。・・・・・・上等だよ!)」


 森畑が一礼し、コート中央よりやや後ろに立った。開始位置は、選手が自由に調整できる。

 川田も、やや目を腫らしながら、顔を上げて唇を真一文字に閉じ、森畑の演武をじっと見つめる。


   すぅっ・・・・・・


「バッサイ・・・・・・ダイィーっ!」


 静電気の火花が散るがごとく、発声で一気にコートの空気が弾け飛ぶ。

 森畑が演武する形は糸恩流の第一指定形、抜塞大バッサイダイだ。

 左掌で右拳を包み込んで下げる、独特の構え。そこから一気に、まさに要塞を戦い抜けるようなスピーディーでキレ味を活かした技が織り込まれた形だ。


   スッ   ズタァン!  シャッ ババッ!

   シャッ ババッ!  フワァァァ

   シャッ ズバッ!  ススゥ  バシィ パァン!

   バシィ パァン! バシィ!


「す、すごい目つきとキレだね、森畑先輩。今日は一段と、鬼気迫る感じだね!」

「そりゃ、三年生にとっちゃ、最後の春季大会だしな。川田先輩の仇討ちでもあるんだろうし」


 二年生の阿部と黒川は、森畑の鬼気迫る勢いの抜塞大に、ごくりと息を飲む。


   ザシュ ザシュ ザシュ  フワッ

   クルッ ババッ  ダダァン! ええぇい!

   シュッ シュッ ザァッ タン タタァン

   ババッ フワァッ ダァン!


「す、すごい! 森畑先輩も川田先輩と互角なくらいに、こんなすごい形やるんですね!」

「それにしても、先輩達がこんなに本気で形をやる姿はいつ以来だろう、ってなくらいだ」


 大南も二年生の長谷川も、その形を見て目を丸くしている。


   バシ  パチィン パァン!

   バッ バッ バッ スゥゥ タァン タァン タァン


「(真波がだめなら、私が等星を下して関東に行くんだっ!)」


   シュババッ  シュババッ  スッ  フワァァ  タッ  フワァァ


 最後に、指先で相手を絡めるような独特の技で構えに戻り、一礼。

 気迫の籠もった、恐いくらいの演武だった。森畑の演武は、私立名門相手にまったく見劣りしないレベルだ。とにかく、すごいの一言に尽きる演武だった。


「菜美・・・・・・やるぅ。すごい! これならさすがの等星だって・・・・・・」


 川田も、一気に森畑の気迫溢れる演武を目の当たりにし、気力が少し戻ってきたようだ。

 一方、相手側の朝香は、まったく表情を変えずにコートへ入ってゆく。

 朝香が放つ絶対女王としてのオーラによって、まるで試合場の空気を手中にしたかのように会場全体が静まりかえった。

 いま、このコートでしか試合をしていないような静けさだ。他のコートでは、男子個人形などもやっているというのだが。


「(昨年のインターハイ三位の形か。形も組手もずば抜けた、超高校級だよな)」

「(どうせ圧勝だろ。やるまでもなかんべよー)」


 会場のあちこちから、ちらほらと冷ややかな声も聞こえてくる。

 しかし、森畑はそんな声にもまったく動じず、朝香朋子一点をただ見つめたまま。


「セェパァーーーイィッ!」


   スウウッ   シュパアアッ!

   ズアッ  シュバァン ズバァッ パァァン!

   スウーッ  ザシュッ!

   シュバッ ズダァァン!  シュババッ!

   スウーッ  ザシュッ!

   シュバッ ズダァァン!  シュババッ!

   ズアッ   ヒュゥン シュバッ!

   バシュウッ スウウ  バシュウッ  タァン!


 同じ等星の矢萩が先程演武したものと同じ形だが、それはとても同じ形には見えなかった。

 朝香のセーパイは、パワー、緩急、技のキレ、身体の安定感、稽古量、気迫、技の理解度、どれも文句のないくらいに仕上がった、次元の違うもの。

 しかし、全国には、これよりもっと上が二人いるというから驚きだ。

 

「・・・・・・っ!(さすがに、並ではない稽古量ね)」


 森畑は待機しながら、声にならない驚きを隠せずに朝香の演武を見つめている。

 それでも、森畑だって並ではないレベルの形を演武したばかりなのだが。


   ・・・・・・スウウゥ  シュババッ  パアァァン!   スッ


 最後の部分から構えに戻り、一礼をして終了。

 森畑も待機していた場から立ち上がり、コートに立ち、朝香と並んで判定を待つ。

 この判定までの瞬間が、形試合で一番心拍数が上がってゆく時間だろう。


「判定っ!」


   ピィーーッ!  ピッ!

   バッ!  バッ!  バッ!  バッ!  ババッ!


   ざわざわざわざわ!


 コートの四隅で一斉に青旗があがった。その時、会場が少しどよめく。

 主審のみが、赤旗をあげたのだ。


「赤、1! 青、4!  青の、勝ちっ!」

「「「 (完封じゃなかったぞ! 朝香から旗とったぞ、あの人!) 」」」


 会場内は、その勝敗よりも朝香が完封勝ちしなかったことにどよめいていた。

 森畑は、表情が正直に心情を物語っていた。勝てなかったのが、とんでもなく悔しそうだ。


「(終わった。・・・・・・私も、真波も、春季大会の形が・・・・・・)」


 女子個人形が終わり、他のコートも団体形の決勝戦を終えて、再び団体組手の準備に入っていった。


「私も、負けちゃった。勝てなかった。・・・・・・真波、ごめん」

「菜美、すごい演武だったよ! あのバッサイ、アタシも勝負したら勝てる気がしない。それにさ、プラスに考えれば、アタシ達、ボロ負けじゃない。ちゃんと、接戦だったよこれ。次の大会までにどこを強化すればいいか、先生が撮ったビデオで研究し直そう!」

「・・・・・・そうか。そうだね! まだまだ私たち、成長途中! 真っ向からぶつかって、全力を出し切って、この結果だもんね。もっともっと、強化して、今度こそ!」

「川ちゃんも、森ちゃんも、おつかれ! いやぁ、素晴らしい形だったぞっ」

「負けちゃ、どーにもなんないけどね。でも、アタシら、やるだけやったよ。今日のところは」

「いやいやいや、等星のあのメンバー相手に僅差に持ち込んだりして、すごいよ!」

「そんなことより、男子の個人形は? みんな、どうしたの?」

「あっけなく、やられてしまった。こ、こんなはずでは・・・・・・」

「はぁぁー? 井上、アンタ形に賭けてたんじゃないのー?」

「それがさー、聞いてくれよ・・・・・・ずりっ、て滑っちゃって。んで、完敗だぁー」

「何やってんのよー。なっさけないわねぇー、まったく。・・・・・・で、道太郎も負けちゃったのぉ?」

「すまん。相手の日新、同じセーパイだったんだが、なかなか向こうもすごかった」

「ええぇー、男子、撃沈かぁ。まいったね。団体組手と個人組手か、あとは」

「そうだね。組手に絞って集中しよう、こうなったら。それにしても、形は、きついな」

「組手とはまた、勝負の質と駆け引きが違うからね・・・・・・」


 個人形競技は、男女とも敗退。

 しかし、ただ悔しくて悲しくて落ち込んだりだけはしない。敗戦からも反省点や今後の課題を得られた。今までも、これで柏沼メンバーは強くなってきた。今までも、これからも、それは変わらないだろう。


「んんー。形は課題が結構あるねー。もっとメニュー作って、たくさん、やろうやろう」

「俺から見ても、まだ伸ばせそうな感じはあるね。インターハイ予選や国体予選に向けて、みんなまた鍛え直しだね」

「「「  頑張ります! 」」」


 新井と松島は、これまでの内容を見た上で、既に次のステップにレベルアップさせるための何かを掴んだらしい。

 その後すぐ、再び団体組手の二回戦が始まり、男子メンバーは一回戦と同じオーダー順のまま右野清原高校と戦った。

 田村、勝利。神長、僅差で敗退。前原、辛勝。そして副将戦では中村が勝ち、勝ち星3対1で勝利した。

 そして、いよいよ次の三回戦は、日新学院との直接対決となった。

 会場入りの時にうっすら曇っていた空は、窓越しに見るとどんよりと黒くなり、外は小雨が降り始めていた。

 遠くには、雷鳴が響いてきている。


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