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青春空手道部物語 ~悠久の拳~ 第1部  作者: 糸東 甚九郎 (しとう じんくろう)
第8章 頂上決戦! 激闘賛歌! 
75/80

75、激闘を讃えよ

   ・・・・・・どたぁんっ・・・・・・


「な、中村君っ! だ、だいじ? どうしたのっ!」


 中村が突然、その場でばったりと倒れた。前原は驚いて、慌てて中村を抱え起こした。


「・・・・・・いや、だいじだ。その、あまりに興奮したせいで、眩暈を起こしたようだ。どうやら、極限の緊張で、体内のミネラルが減ったかもしれないな。うん、心配ないよ」

「中村っ! あんた、二斗を倒すくらいの活躍だったんだものそりゃ当たり前だよ。アタシも、もし同じ状況だったら、意識失って倒れてるかもよ」

「ナショナルチーム二人を相手した川田がか? それはないな。おれは二斗と当たるの初だったから、余計にだったのかもしれん。だが、田村や前原が、前もって戦ってたからこそ掴めた勝利だった・・・・・・。本当に、そう思うんだ」

「そんなことないんじゃないかねぇ。勝ったのは、中村の実力だよ。そういうことだよ。俺や前原はその付属品でいいよぉ」

「でもな、尚ちゃん。団体の決勝は正直さ、尚ちゃんがいないだけでこれほど違うのかって思ったよ。いやぁ、主将の存在感は大きいな、やはり。俺は畝松を倒すことができなかったから、残念だ。尚ちゃんには、無意識のうちにかなり頼ってたなぁ」

「でも神長? 俺は観客席から見てたけど、先鋒の前原が完勝したから士気が神長に繋がり、神長が次鋒戦を引き分けにしたからこそ、中堅の中村が意地を見せて二斗を倒した。そしてその勢いで副将戦の長谷川にも最後にたぶん火が点いた。副将戦も、万が一の総得点差とか考えたら、完敗はダメだしねぇ。1ポイントでも返しといたのが良かったよ。そして大将戦、井上のあのデッドヒートのような試合は、副将戦までの戦いがあったからこそ、だろ?」

「な、尚ちゃん・・・・・・」

「わかってるじゃん尚久! そーなんだよ! 俺は、みんなの頑張る姿によって、びびらずに開き直ったんだ! もう、俺は組手もだいじだ! 形では負けたけど、団体組手選手として、インターハイだぁぁ!」


 田村は優しい笑顔を浮かべて、ゆったりとした雰囲気で最後にみんなへこう告げる。


「主将や副将なんてのは、あくまでも立場だからねぇー。みんなで戦う場では、誰一人として無駄な役割であることなんかなく、繋がるもんだよ。だから、俺がいなくても誰かが繋ぐ。俺がいても、誰かに繋ぐ。そうして、俺たちは、柏沼高校空手道部としてのチームでまとまってるんだ。みんなを信じて決勝を見届けられたよ。よかった。ありがとうなぁ。そして、お疲れ様なぁっ!」

「田村。あんたって奴は・・・・・・いーぃこと言って、まとめるんだから! アタシ、やっぱあんたが主将で良かったと思うよ」

「私もだね。田村あってこその、このチームだよ」


 田村の言葉を、川田と森畑もうっすら涙を浮かべ、精悍な顔で一緒に聞いていた。


   ・・・・・・がしいっ!・・・・・・


 その時、田村の肩を後ろから、浅黒く大きな掌が掴んだ。


「・・・・・・強かった。・・・・・・次は、負けん・・・・・・。・・・・・・。・・・・・・おめでとう・・・・・・」


 その掌の主は、ぼそりと野太い声でそう告げると、田村君と目も顔も合わすことなく、去って行った。


「あのやろうめ。照れてないで、素直に言やぁいいのになぁ。イチゴみるくオーレでも、差し入れしてやるか、インターハイ会場でな!」

「おい! 尚ちゃんをみんなで抱えようぜ! 陽ちゃん、前ちゃん、泰ちゃん、そっち持て!」

「おいおいぃ、俺、けが人なんだぞぉ! おい、よせって! おーい!」


 女子も男子も入り乱れて、みんなで田村を一斉に胴上げした。


「(ついにやった! 僕たちはみんなで、インターハイだ! 沖縄だ! 胴上げくらい、やっていいよね。この時くらいは、さ)」


 前原は、そんなことを思いながら田村をみんなと一緒に胴上げで担ぐ。


「「「「「 わーっしょぃ!  わーっしょぃ!   やーーーーーったぞぉーっ! 」」」」」



   * * * * *



「・・・・・・続いて表彰式に移ります。男子団体組手。優勝、県立柏沼高校!」

「うぉっす!」


   パチパチパチパチパチ!  パチパチパチパチパチ! パチパチパチパチパチ!


「・・・・・・女子個人形。優勝、海月女学院高校、末永小笹選手!」

「はぁいっ!」


   パチパチパチパチパチ! パチパチパチパチパチ! パチパチパチパチパチ!


「大会講評。大会実行委員長より、本日の講評を頂きます。選手、一同。礼ッ!」

「えー、みなさんお疲れ様でございました。特に今大会、レベルの向上が著しく、先週行われました関東大会で優勝した等星女子の皆さんだけでなく、だれもが全国に出てもそのまま上位進出できる力を見せてくれました。このまま精進し、八月の全国高校総体において、空手発祥の地である沖縄で、ぜひとも、力を遺憾なく発揮してきていただきたく~~~・・・・・・」


 閉会式は、まさに柏沼高校の表彰ラッシュとなった。

 団体組手の表彰は、田村が前原に「お前早く行け」と押しつけていたが、みんなの熱い思いによる満場一致で、田村が主将として授与。

 受け取りに行く田村の顔は、ものすごく照れた様子だった。

 振り返ると、凄まじい内容の一日だったことだろう。ドキュメント番組であれば「激闘を繰り広げたみんな、本当に、熱戦をありがとう」と、テロップが流れる場面かもしれない。



   ≪平成二十二年度 全国高等学校総合体育大会空手道競技 栃木県予選大会 大会結果≫


◆男子団体組手

優 勝 県立柏沼

準優勝 日新学院

三 位 県立牛頭

四 位 県立東照宮

敢闘賞 しあわせの哲学学園  右野日大  県立美布  青藤大足園


◆女子団体組手

優 勝 等星女子

準優勝 県立宇河商業

三 位 県立宇河中央女子

四 位 桜清祥

敢闘賞 足園大付属  大山東桜  青藤大足園 県立鶉山女子


◆男子個人組手

優 勝 二斗龍矢(日新) 

準優勝 田村尚久(柏沼)

三 位 畝松虎次郎(日新)

四 位 前原悠樹(柏沼)

敢闘賞 権田原優斗(国学)  田中健太(日新) 高木誠哉(望木) 東畑登(日新)


◆女子個人組手

優 勝 朝香朋子(等星)

準優勝 末永小笹(海月)

三 位 川田真波(柏沼)

四 位 崎岡有華(等星)

敢闘賞 森畑菜美(柏沼) 鈴木潤奈(鶉女) 石田有佐(弓中) 木村夕陽(清原)


◆男子個人形

優 勝 畝松虎次郎(日新)

準優勝 堀庭誠(鶉山)

三 位 井上泰貴(柏沼)

四 位 星野諒太(東照)

敢闘賞 中村陽二(柏沼) 星崎邦明(宇商) 沼尾一志(明日) 伊藤輝信(宇商)


◆女子個人形

優 勝 末永小笹(海月)

準優勝 諸岡里央(等星)

三 位 森畑菜美(柏沼)

四 位 矢萩和光(等星)

敢闘賞 川田真波(柏沼) 笹崎瑞樹(日新) 里月梨奈(等星) 大田美都(日新)



「えー、これで閉会式を終わります。一同っ、正面にぃ、礼ッ! お互いにぃ、礼ッ!」

「「「「「 ありがとうございましたぁぁーーーーーーーーーーーーーっ! 」」」」」


   パチパチパチパチパチ! パチパチパチパチパチ! パチパチパチパチパチ!


「なお、この後、団体優勝校並びにインターハイ出場者は、事務連絡と新聞社の写真撮影がございますので、今しばらくお待ち下さい」


   がやがやがや・・・・・・  がやがや・・・・・・  がや・・・・・・


「「「「「 (ほんと、すごい大会だったねぇ! みんなすごかったね!) 」」」」」

「「「「 (全国で頑張ってほしいね、みんな!) 」」」」

「「「 (おつかれー! また学校で! おつかれー!) 」」」

「「 (揃ったぁ? じゃ、解散するよー。お疲れ様でしたぁ!) 」」

・・・・・・。

・・・・。

・・・。

・・。

・。


 あれほど騒がしく、熱く、賑やかだった館内が、少しずつ静まってゆく。

 閉会式を終えると、また一校、また一校と解散してゆく。大激戦が繰り広げられていた声が、まだ、館内に余韻として残っているような感じもある。誰かがそこで戦っているような感じもある。しかし、もう、「祭り」は終わったのだ。

 天井のライトはフロアのみを照らしている。そこには、インターハイ出場を決めた者のみが残っている。人によっては、この祭りの後の静けさに寂しさを覚えることだろう。

 外はいつの間にか雷雨が晴れ、黄昏時に差し掛かっていた。

 木々が夕映えに染まり、雨上がりの水たまりには、小さなアマガエルがすいすいと泳いでいる。


「では、みなさん。インターハイ出場おめでとうございます。えー、監督の先生やコーチの皆様もお揃いでしょうか?」

「あれ? 田村君。等星の人たちは? いなくない?」

「ほんとだ? なんだぁ? 慣れてっから帰っちったとかかねぇー?」


 柏沼メンバーはみな、高体連の事務局の方に今後の説明を聞くために残っているが、等星女子のメンバーだけ瀧本監督を含めどこにも見当たらない。

 

   ・・・・・・ピシャァンッ!  

   ・・・・・・ピシャァンピシャンッ!


 その時、ライトの消えた廊下の奥から乾いた音が響いていた。サブアリーナの方からだろうか。


「・・・・・・あ。・・・・・・おい、来たぞ。・・・・・・等星が」


 二斗がぼそっと囁く。その廊下の奥から、頬と目を腫らした等星女子のメンバーが次々と現れた。

 そして、その最後には、鬼の形相をした瀧本監督が。


「あ、これで揃いましたかね。では、改めて、インターハイ出場について説明を・・・・・・」

「おいっ! 事務局ぅっ! 先に確認だ。我が等星は、諸岡里央がインターハイは推薦出場だったな?」

「あ、はい・・・・・・諸岡選手、そして朝香選手は、昨年度優勝者枠での出場権がありますので、指定推薦での出場は既に内定と言うことで・・・・・・」

「こいつは、インターハイなど出さぁんっ! 自ら辞退だ!! こんな県レベルごときで負けるような情け無い者が、推薦出場なぞ我が等星の格が下がるだけだぁっ! 諸岡は辞退するっ! いいなっ!」

「「「「「 ええええぇーっ? な、なにそれぇ! 」」」」」


 柏沼高校の女子メンバーと小笹が、瀧本監督の言葉を聞いて一気に声を上げた。男子もそれには驚きで、日新も柏沼も関係なく、みな顔をお互いに見合わせてしまった。


「いいかぁっ!? 等星女子高に負けは許されん! 諸岡はインターハイ辞退だ! そして今さっき、主将崎岡も全空連ナショナルチームを辞退し、脱退を決めた! 異論ないな、諸岡! 崎岡ぁ!」

「・・・・・・はい、監督。私が未熟で、負けました。恥であります。インターハイ推薦出場を辞退させて頂きます」

「・・・・・・全空連ナショナルチームの日の丸を、私は返還いたします。これが、私のケジメです」


   ざわざわざわ   ざわざわざわ   ざわざわざわ


「いや・・・・・・あの、瀧本監督? そう言われましても。全空連の方は管轄外で私どもは何とも言えませんが、推薦出場辞退は、全国高体連が決めていることでして・・・・・・」

「ばあぁっかものがぁ! 貴様、誰に口をきいておる若造がぁっ! 無礼千万だぁっ! いいかぁっ、この瀧本が出さんと言ったら出さんのだぁ! 全空連も全国高体連も、もう、電話一本でこちらから事足りるわぁ! 本人らの意思でもあることだ! 口を挟むなあっ!」

「・・・・・・し、しかし。・・・・・・困ったなぁ」


 県高体連事務局のスタッフも、これにはほとほと困り果てた様子。


「・・・・・・待ちなさいよぉっ! 待てったらぁッ!」


 その時、事務局と瀧本監督の間に、甲高い声が挟まれた。小笹が、等星女子高全体に叫んだのだ。


「あんたらさぁっ、それでいぃのぉーっ!? 確かに、ワタシが大会中にいろいろ失礼なコトしたのは謝るよ。ごめんなさぁい。・・・・・・でもさ、そんなんでいいの? ねぇ、崎岡っ! 諸岡ぁっ!」

「・・・・・・末永小笹ぁ。・・・・・・私も里央も、お前に敗れたんだ。勝者のお前が、敗者の私達に、言葉などかけるな! これが等星だ。私達は、こういう覚悟で常にやっているんだ」

「おおぃぃっ! 小娘ぇっ! 貴様、我が等星に何様のつもりで語りかけておるうっ! 失せろ! 無礼者がッ!」

「なにぃー!? 何様もなにも、ワタシはワタシだよ! 文句あんのっ!?」


 小笹は唇を噛み締め、瀧本監督と真っ向から睨み合っている。


「ちょっと、朝香ぁっ! 小笹の言う通り、あんたはそれでいいと思ってんの? おかしいよ!」


 小笹を援護するかのように、川田が朝香に慌てて言葉をかけた。


「私は・・・・・・。等星女子高は・・・・・・これが掟。・・・・・・当然のことよ!」

「「 ・・・・・・っ! 」」


 朝香は瀧本監督の横で、一度目を伏せてから、数秒間を置いて答えた。

 口調は強いが、その目は、小笹と川田を静かに包むようにした、不思議な目付きだった。


「ちょっと失礼。瀧本監督、それはそちらの判断ですから私は何とも言えませんが・・・・・・」


 ここでなんと、日新学院の畝松猛監督が、低い声で割り入った。


「私も、うちの部員には、とことん厳しくしております。気合いを入れるために、手をあげることもあります。きっと、これが良いか悪いかと言われれば、ダメだと言われるでしょう」

「ぬうッ!?」

「しかし、だ。それは部員との信頼があり、ひとつの目標を部員と監督とで目指しているが故の熱き指導だと私は思います。インターハイの辞退が、本当に部員の自発的なものから出たなら何も言えませんが、負けたからとか、恥だからとかで監督が切り捨てるというのは、私は同じ教育者として、いかがなものかと思いましたが・・・・・・」


 日新の畝松監督と等星の瀧本監督が向かい合う。まさに、明王と国王の一騎打ちのようだ。


「おい畝松! 貴様、いつから儂にそんな口を訊くようになったんだ無礼者っ! 育ててやった恩を忘れおって! 誰から貴様はこの世界のノウハウを得たんだ。貴様にどうこう言われる筋合いはないわぁッ! 事務局、そういうことだ。我が等星は、朝香と団体しか出さんからな!」

「瀧本監督! しかしですね・・・・・・っ!!」

「(へぇ・・・・・・。ねぇ、畝松? あんたの親父さん、けーっこう熱い先生でもあるのねぇ!)」


 川田が、畝松虎次郎の肩をつつき、こそっと囁いた。


「(体育教師だからな、親父は。でも、こんな真面目な姿は初めてだ)」

「(等星の監督に、もっと言ってやりゃーいいのよ! アタシらに代わってさ)」

「(だが、言いすぎたらどーなるかわかんないしなー・・・・・・)」


 しばらく、事務局の人を挟んで畝松監督と瀧本監督の睨み合いが続いたが、瀧本監督が折れることはなく、諸岡さんのインターハイ辞退を取り下ることはなかった。

 瀧本監督は「話にならん!」と怒声を響かせ、そのまま部員を連れて去って行く。


「おーぉいっ! 朝香ぁっ!」

「待ってよぉーッ!」


 川田が慌てて朝香を呼び止めた。小笹も声を張る。足を止め、視線だけ向ける朝香。

 二人は目に涙を浮かべ、最後に朝香に向かって問いかけた。


「本心じゃないんだろ、さっきのはさぁ!? ねぇってばぁー! あんた、本当はそんな冷たくないでしょぉ!?」

「ワタシはネ、そんな冷酷な女じゃないと信じてるってぇー! 仲間をかばってやってよぉーっ!」


   ・・・・・・くるっ・・・・・・

   すたっ   すたっ  すたっ・・・・・・


 何も言わず、目を伏せて朝香たち等星女子高は会場から去って行った。

 翌日に載るという新聞写真については、彼女たちだけは前回の春季大会のものを使い回すらしい。


「ま、まぁ、いろいろありましたが・・・・・・改めまして、説明を・・・・・・」


 事務局の人の説明も終わり、インターハイに向けて準備するものや必要な手続き事項等を、早川先生と新井、松島がきちんと聞いてメモしていた。

 末永も、保護者 兼 海月女学院の引率監督として行くことになったため、小笹の「監督」として登録されることになったようだ。


「それじゃ! インターハイ代表のみなさん、笑って! 気合い入れた顔でもいいですよぉ?」


   パシャ   パシャシャ  パシャァ


 地元誌である「栃葉とちば新聞」の記者が、高校スポーツ欄の記事用にプレス写真を何枚も撮っっていった。明日の新聞に、今日の激闘の記録が載るらしい。

 写真を撮るとき、柏沼メンバーと日新メンバー、そして鶉山高校の堀庭は気合いの入った笑顔だったが、二斗だけはなぜか日本史の教科書に出てくる金剛力士像そっくりだった。

 それにはみな大爆笑。あまりにも硬い表情であったため、二斗をみんなで笑わそうとしたら、その後誰にも口をきいてくれなくなったらしい。そこへ川田が、どこに持っていたのかピンクのミニボトルを出すと、二斗はそちらに反応して歩み寄ってきた。


「・・・・・・はい、お疲れ様でした。以上です。なにかあれば事務局までご連絡下さい」

「いやぁー、終わった終わったぁ! すっげぇ疲れたなぁ。尚久、足、だいじかぁ?」

「だいじだけど、病院行ってくるよ。来週の国体予選は無理かもしんないなぁ」

「みんな、本当にお疲れ様! すごく元気もらったよ! インターハイ楽しみだね!」


 堀内も、田村の足をマッサージしながら、にっこりと微笑んでくれた。


「みなさん、うちの小笹が本当に今日はお世話になりました。再来月、沖縄の全国総体でまた、お世話になります。早川先生、またよろしくお願いします! では、今日はこれで失礼します」

「・・・・・・寂しいな。終わっちゃったか、大会。でもぉ、楽しかったよぉ、柏沼メンバーっ!」

「またね、小笹! 稽古したくなったら、柏沼おいでよ! アタシもあんたに教わりたい!」

「和合流や沖縄剛道流の技、教えて! 恭子も、同級のあんたいると楽しいみたいだし、ぜひおいで!」

「うんっ! ・・・・・・くすっ。ありがとぉ。川田センパイ! 森畑センパイ! ・・・・・・またね」


 小笹は、母の末永と車に乗り、大きく手を振り帰っていった。

 窓から手を振る小笹の顔は、憑き物が落ちたかのように明るく晴々とした、清らかな眩しい笑顔だった。

 

「さて、と、こりゃたいへんだぁ! 校長に報告して、祝勝会もみんなでやらなきゃなぁ!」

「「「「「 やったーっ! やったやったぁーっ! 早川先生、ごちそうさまでぇっす! 」」」」」

 

 それぞれの思いを胸に、柏沼メンバーは新井の運転するバスに揺られ、帰路に就く。

 大激動のインターハイ予選大会は、こうして、幕を閉じたのだった。


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