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青春空手道部物語 ~悠久の拳~ 第1部  作者: 糸東 甚九郎 (しとう じんくろう)
第7章 四強激突!!
61/80

61、同じタイプで、同じ闘志

「みつるさー、俺、思ったことあるんだぁ」

「なんだい、敬太。自分も、いま、思ったことあるんだぁ」

「「 田村先輩だけでなく、女子もぜったいに、怒らせないようにしようなー 」」


   スパァン! スパァン!


 阿部が、Bコートをぼーっと見つめて呟く長谷川と黒川の頭を後ろからひっぱたいた。

 井上は「行動がだんだん、真波に似てきている気がする」と思って震えている。前原は「僕もやられないようにしなきゃ」と思った。


「二人ともなーにバカなこと呟いてんのよ! 先輩がピンチなんだよ? もっともっとわたしらも声出して応援しなきゃ! ほら! 一年生も、声出すよっ!」

「「「「「 川田せんぱーーーーーいっ! ファイトーーーーーーっ! 」」」」」

「道太郎、あと何分あるか、そっから見える?」

「んっ? ・・・・・・んー。ごー・・・・・・いや、四十九秒だ。もう一分切ってるぞっ!」

「ま、マジか! 点差は0対3だろ? 蹴りでも入れなきゃ取れないぞ! どうすんべよ陽二!?」

「でも井上、あの崎岡がそう易々と川田の蹴りをもらうと思うか? おそらく先程の準決勝で右脇腹を傷めてるんだろうが、その痛みを執念かプライドかで揉み消して動いてやがるぞ」

「ま、真波ぃーっ! 何が何でも勝て! やべーんだよ! とにかく勝てー!!」


 男子三人も、川田の試合観戦に熱が入っている。


「続けて、始め!」

「(な、なによ井上? バカじゃないの! 何が何でもだのやべーだの、意味わかんないのよ)」

「たあああああああーーーーーいいっ!」


   シュバババババババッ!  タタタァン!  シュババババババババババァッ!


「せぃやあああああああああああああ!」


   ドババババババババッ!  ドオンッ!   ドバババババババババババッ!


 川田は井上の声援で何かリラックスしたのか、さっきよりもスピードを上げて踏み込み、得意の散弾銃のような連突きを思いっきり仕掛けてゆく。それに対応するかのように、崎岡も機関銃のような連突きで真っ向から迎え撃って出る。

 両者の高速の拳が、至近距離で顔や身体の横を掠めてゆく。同じタイプの二人が、突きの速さ比べのように、至近距離で撃ち合い、躱し、また撃ち合う。


   シュバアーーーーッ!  キュルッ   シュババーーーーッ!  ヒュンッ


「(危なぁっ! もらってたまるかっての! おりゃおりゃおりゃあっ!)」


   バシュウンッ!  ススウッ   バッバシュウンッ!  ヒョイッ


「(このくらいのやりとり、全日本強化で経験済みだ! 出すだけ無駄よ川田! 無駄なんだ!)」

「たたたああああっ! たああああああっ!  たあああーいっ!」

「せやああああ! せいやっ! せぇいりゃあああああっ!」

 

   ジュババババ! ババババシュウウウンッ!

   ドガガガガガガッ! ババババババッ!

   バッキィン!  バチィン!  シュバババッ!

   バババババッ!  ドグウッ! (メリッ)


 時折、連打の最中で拳と拳がぶつかり合い、腕と腕が擦れて摩擦音が響き渡る。

 その中で、川田の突きが連打の中で一発、そのまま崎岡の右脇腹へ素速く突き刺さった。


「止め! 赤、中段突き、有効!」

「「「「「 やったぁぁ! ナイス中段でぇす! 川田先輩ーーーっ! 」」」」」

「ぐっ! はぁ・・・・・・ふぅ・・・・・・ふぅぅ・・・・・・ひゅぅ・・・・・・ひゅぅ」

「(え! 崎岡、呼吸が! 主審! 主審てば!)」


 川田の突きが右脇腹へ入った直後、崎岡は目を細めて唇を噛み締め、表情をものすごく歪めたまま呼吸が一気に荒くなった。

 開始線で向かい合う崎岡の異変を察知し、川田はすぐに主審へ軽く手を挙げ、相手を差して異常を促している。


「崎岡選手、もう続けるのは危険と判断します。ドクターを呼びますが、いいですね?」


   ・・・・・・がしぃっ


 崎岡は主審の腕をつかみ、痛みを堪えながら表情を和らげ、口を開いた。


「危険か危険じゃないかは、私自身が判断する。心配いりません。続けます。開始の合図をっ! 早く、お願いします・・・・・・。武道家の負けは、心が折れたときが負けですから・・・・・・っ!」

「しかしだ、君! これはスポーツ競技である以上、危険と判断したら止めねばならないのだ。監督! 等星女子高の監督さん? あ、いたいた、これ以上は危険と思われます。このまま、試合は止めますが、いいですね?」


 観客席のほうにいた瀧本監督へ、主審がやや表情を曇らせながら呼びかけた。

 すると監督が立ち上がり、観客席から主審へ告げる。


「主審っ! その判断は、本人に預けいっ! 本人がやると言っている以上、止めるなぁ! 等星女子に、敵前逃亡はないぃぃ! 身を砕いてでも、心が折れなければ負けではないぃっ!」

「し、しかしっ! このままでは・・・・・・」

「・・・・・・主審・・・・・・お願いです。私には最後の三年生としての試合・・・・・・こんな形で終わらせたくありません。・・・・・・残り時間、あと三十秒・・・・・・後悔したくないんです。お願いします!」

「・・・・・・っ! 副審っ!」


   ピッ!


 主審は笛を吹き、副審を一度集めて協議する。

 観客席の前原たちには聞こえはしないが、なにか、審判団で慎重に話し合っているようだ。

 一歩間違えば、重大な事故になりかねない。果たして、試合はどうなるのか。



     * * * * *



「・・・・・・選手、開始線へ」


 主審が川田と崎岡を開始線へ立たせ直す。

 そこに漂う緊張感と空気を、観客よりも先に川田と崎岡の両者は察知した。


「・・・・・・続けて、始めーっ! あとしばらく!」


   ワアアアアアアアアア オオオオオオオオオッ


「たああああああっ!」

「せいりゃああああああ!」


   ダッ ダシュンッ!   ヒュバアアアアッッ!


 試合続行。残り時間二十九秒。開始早々に、崎岡が朝香並の上段刻み突きを繰り出した。


「(も、もらうかぁーっ!)」


   ヒュッ ザシュウウッ!  パァン シュルウッ・・・・・・


 川田は間一髪で右に首を倒して躱し、崎岡の放った刻み突きはメンホーを掠め風切り音を立てて流れる。そして腰を左に切って、右掌で崎岡の伸びた左肘付近を弾き、そのまま川田は捻った力が戻る反動を利用して前へと踏み込み、腕が交差したままで左の上段突きを放った。


「とああああああああーっ!」


   タァァァンッ!   バチイイインッ!


「(・・・・・・っ!)」


   ワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ


「止め! 赤、上段突き、有効!」

「しゃぁーーーいっ!」

「「「「「 川田先輩ナイス上段ーーーーーーっ! 」」」」」


 川田は拳を握りしめ、左拳で右掌を叩いて叫んだ。開始から一秒間で繰り広げられた、高速の攻防。相手と交差するようにし、クロスするようなカウンターを返す「(つい)の先」だ。


「川ちゃん、返しやがった! これで点差は2対3まで追いついてきたぞ!」

「対の先! おれも今まで、ほとんどやったことない技だ。まだあと二十八秒ある。いけぇ川田!」

「陽二! 道太郎! 団体戦に向けて真波のパワーを俺達ももらおうぜ! ファイトだぁ!」

「「「「「 川田先輩ーっ! ファイト! ファイトでーす! 」」」」」


 柏沼陣営の声援に負けず、四方から等星陣営からの声援も降り注ぐ。


「「「「 崎岡せんぱぁーーーーーい! 相手まぐれでーす! ファイトでーーーす! 」」」」

「(連打じゃなく、単発? あの猛連打がすぐ来ると思ったから交差で返したのに・・・・・・)」

「(ふぅぅぅ・・・・・・はぁぁっ・・・・・・)」

「崎岡ぁぁぁっ! 等星の看板に傷をつけるなぁ! 最後まで等星らしくあれぃ! 貴様はわが等星女子の最前線にいる主将なんだぞぉぉ! 甘ったれるなぁぁっ! 奮起せぇいっ!」

「続けて、始め!」

「ぃ・・・・・・ぃぃぃいいいあああああああぁぁぁぁぁーっ!」


 突如、崎岡が吠えた。その、かすむ目に光を戻し、勝つ執念のみを燃料にまた目を燃え上がらせたのだ。いったい、どこまで底力があるというのか。それとも、名門の主将としての意地のみが機動力か。


   ズォォォォォォォン・・・・・・   バチバチ  ピリピリピリピリ!


 爆発した闘気と、相手を巻き込むような殺気がビリビリと空間内に吹き荒れる。

 崎岡の闘気は、目の前にいる川田へ直球ストレートのようにぶつかってゆく。


「(く・・・・・・っ! どんだけ底無しにしぶといのよ! アタシも呑まれてたまるかぁ!)」


   ズンッ・・・・・・  ダギュンッ!  ドババババッババババババッ!

   トトォーン! トォン! トォーン!   (ぐきぃっ)


「(うぁっ!・・・・・・し、しまっ・・・・・・)」


   バババババチュンッ! (ずきぃっ! ずきぃっ!)

   ワアアアアアアアアアアアアアーッ


「止め! 青、上段突き、技有り!」


 機関銃のような連突き、再び。

 川田は相手の突きを紙一重で届かせないようにバックステップで数歩後退したが、コートマットの結合部分にほんの少しだけ足の小指がめり込み、捻った。その動きが止まったところへ、崎岡が放つ容赦ない数の連突きが入ってしまった。


「(ふぅ・・・・・・ふぅ。痛みなど気合いで何とでもなる! 私は、等星女子高空手道部の歴史を全て背負った現役主将だ! 私の負けは等星の負け。監督にも恥をかかすわけにはいかない!)」

「しゃああああああぁぁぁーっ!」


 再び大声を発して自分を発奮させた崎岡。その声は、館内全体を揺らすかのように響いたのだ。 


「なんてやつだ崎岡有華。とんでもねぇ執念だなぁ! 主将の意地にしても、度が過ぎてらぁ」


 田村も大会ドクター席横で足を冷やしながら、驚愕の表情。

 崎岡が見せている姿は、誰もが驚く勝利への執念の化身のようだ。


「(いたたっ・・・・・・肝心な時に、小指ひっかけるなんて! しかし、すごい執念だな崎岡有華!)」


 川田は開始線で汗を流しながら、眉をひそめてやや上目遣いで崎岡を見ている。


「わああああああーん! 川田せんぱい、また点数はなされちゃったーーーーーー」

「うちやま、泣かない! だいじ。川田先輩は勝つよ! 勝つ! ・・・・・・たぶん!」

「わああー。ここにきてさらに技有りかよぉ! 崎岡有華って・・・・・・つ、つええっ!」

「み、みつるー! 川田先輩、勝てる? 勝てんのかな? 相手強すぎだー!!」


 内山、大南、長谷川、黒川の四人は頭を抱えてパニックになっている。残り時間はあと十四秒。


「(川田真波。県立の選手ながら、私達にここまでくらいついてきた実力は認める! しかし、等星女子主将である私と勝負するからには・・・・・・それなりの覚悟を決めなさいよ!?)」


 さらに崎岡の圧力が増す。どうやら、準決勝で小笹が入れた鉤突きによる脇腹の軋みは、崎岡自身の闘志をさらに燃やす油になってしまったようだ。


「(残り、十五秒切ってるのか。アタシは負けない! 崎岡、負けらんないんだよアタシもっ! あんただけじゃないんだ、背負ってるモノがあんのは。インターハイに行きたいのはぁっ!)」


   ワアアアアアアアアアアアアーッ・・・・・・ パチパチパチパチ


「(隣のコートは終わった! 戦ってるのはこれでアタシたちだけだよ、崎岡っ!)」

「(負けられん! 力でねじ伏せる! 逃げも隠れもしない! 等星の空手に後退なし!)」


 瞳を燃やし、闘志を燃やし、両者は再び目を合わせ合う。


「続けて、始め!」

「たあああああああああああっ!」

「せえええぇぃやああああああああああ!」


   ダシュウッ!  トトォンッ!

   シュバババババッ!   バシュウウンッ!

   バッチィィィィィンッ!  (みしっ)   ザシュウッ! ササッ

   バッ   ババッ    


「「「「「 ああああああーーーーーっ! 」」」」」

「「「「「 崎岡先輩ーーーーーーっ! ナイス上段でぇーーーーーす! 」」」」」


 両者裂帛の気合いと共に飛び出し、崎岡は高速の上段突きを、川田はカミソリのような中段回し蹴りを互いに放った。

 上段突きは川田のメンホーに届いてはいたものの間一髪のところで躱し、中段蹴りは崎岡の右脇腹に入ったかのように見えた。副審は、赤旗が真横に一人、青旗が斜め下に一人。


「止め!・・・・・・」


 主審が、開始線に戻る選手と各副審を見回す。


「・・・・・・とりませんっ!」

「「「「「  うぅわぁーーーーっ! ・・・・・・あぁーーー 」」」」」


 柏沼陣営、等星陣営、ともに低くトーンが落ちてゆく声が館内に漏れる。


「(あっぶなかったぁ! 今のは、取られてもおかしくなかった! 蹴り、だめかーっ!)」

「(ぐ・・・・・・っ! 無意識で放った蹴りだろうが・・・・・・ふ、防いだぞ・・・・・・)」


 残り八秒。ポイント差は崎岡が川田を3ポイント上回る。

 しかし両者は得点差がないかのような目で火花を散らし、まだまだ真っ向勝負で行く気満々の様子だ。

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[良い点] ジャンプ漫画みてーだ!
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