6、群雄割拠の春季大会!開幕!
ザッ ザッ ザッ ザッ ザッ バタバタバタ
がやがや どよどよ がさがさ ざわざわざわ がやがや
~~~えー、各校、引率の方はー、小会議室へー・・・・・・~~~
~~~Aコート、準備係は大至急―・・・・・・~~~
~~~審判長、審判長。本部席へ連絡願います・・・・・・~~~
セイィ! セイィ! セイィ! セイィ! エェーイ!
イィーチ! ニーィ! サーン! アァーイッ!
~~~お車の移動をお願いします。ナンバー×××のー・・・・・・~~~
春季大会会場の県立体育館は、県内全域から集まった各校の選手や監督、コーチ陣、審判や来賓の関係者、そして、選手の保護者やその他関係者で開始前からものすごい熱気。この雰囲気は、大会独特のものだ。
「しっかし今年もまぁ、県内のどこに居たんだよってくらい、いっぱいいるねぇ」
「そうだな。この人数、この参加校の中で、ベスト4に入らねば関東大会には行けない・・・・・・か」
「やるだけやってきたんだから、あとは、自然体で挑むだけだねぇー」
「ふむ、確かにな。今年は、どこまでいけるか楽しみだ」
田村と中村は、周囲を見渡しながら、うっすらと笑みを浮かべている。
「うわぁぁ。大会会場って、こんな雰囲気なんですねぇ! すごい人数!」
「これでも、私達の県は他と比べて参加者は少ない方。関東や全国いけば、もっといるんだよ」
「一年生には、いい勉強だね。この雰囲気を肌で感じていくだけでも、目標もできるし、レベルアップのための経験値にもなる。アタシも、小さい頃からこんな中にいて、学んだんだよ」
「そ、そうなんですかぁ。へぇー」
一年生の二人は、既に、会場入り口前の賑わいに圧倒されてしまったようだ。
「悠樹、俺ら早めにフロアに下りて、アップ場所作ろうぜ! 場所なくなっちまうしな」
「そうだね。じゃ、田村君、先にいってるから」
「おう。頼んだよぉー」
前原と井上は、他のメンバーより一足早く館内へ入っていった。
「じゃあ一年生! 早川先生についてって本部からうちのもの一式もらってきて」
「「 はいっ 」」
森畑は、一年生二人に丁寧に指示。二人は、早川先生と共に、本部のほうへ向かった。
「尚ちゃんさぁ、団体組手のオーダー、どうするよ?」
「日新学院戦が一番の山場として、それ以外も手は抜けないだろう? 田村、どうする?」
神長と中村が田村に問いかけた。
「そうだねぇー。・・・・・・前原と井上も交えて、他校の顔ぶれ見てから作戦立てるかねぇ」
「そうか。ま、そう言われりゃそうだな」
「前ちゃんと泰ちゃんも、考えがあるかもしんないしな」
「そういうことだねぇ。ま、誰がどこに出ても、しっかり戦えるとは思うよ」
にやっと笑う田村に対し、神長と中村も微笑んで応えた。
「さ、俺たちも行こうぜ。いよいよ、本番だねぇ」
「「「「「 おーっ!!! 」」」」」
田村に続いて、部員たちは館内へ力強い足取りで入っていった。
* * * * *
「真波ー。部旗吊すの、手伝ってー」
「わかった。恭子、そっち、菜美の方から真ん中持って、手すりのところに縛ってちょうだい」
「わかりました。わたしが紐結ぶの、ここでいいですか?」
空手道部の持ち物の中には、歴代の先輩方から寄贈された「部旗」がある。
『日々精進』と大きく筆文字のような書体で書かれた鮮やかな旗は、会場のフロアにいても、観客席からでも、どこから見てもよく目立つ。
決して大きいサイズではないが、会場内に無数に掲げられた各校の部旗の中でも、見つけやいデザインだ。
「お! 悠樹、真波たちがあそこに部旗を掲げたみたいだぞ」
「気合いが入るよね、あれ見ると。いよいよ大会が始まるんだなぁって感じ」
「そろそろみんな呼ぼうぜ。・・・・・・おーい、下りてこいよー!」
井上は、会場フロアから観客席の方へ向かって大きく手を振る。
「お。前原と井上、あの辺を確保したんだな。よし、みんな着替えて、フロアへ集合!」
「「「「「「 了解! 」」」」」
三年生たちは、田村の号令で一気に瞳の輝きが変わった。
二年生もその様子を見て、三人とも「よし!」と各自で気合いを入れる。
「田村主将、俺らは登録コーチの打ち合わせしてから、あとで行くから」
「頼んだよー。今日は、みんな、自信持ってやればだいじょぶだいじょぶー」
「わかりました。よろしくお願いします」
松島と新井は、田村たちとは別に打ち合わせ場所へと向かう。
ズパーン! バシン! ダダンッ! パパーンッ!
「「「「「 アアァーィッ! 」」」」」
「「「「「 しゃあーーーーーーっす! 」」」」」
「「「「「 いーち、にーい、さーん、しーい、ごぉ 」」」」」
しゅばっ! ぱぱんっ! しゅばばっ! ばしっ!
ウォーミングアップでの号令。スピーディーに組手の技をミットへ打ちこむ音。形の動きを確認する衣擦れの音。スタッフの足音。試合用のコートマットを作る音。さまざまな音がひとつになり、この会場全体の臨場感を作り上げてゆく。
それは日常生活にない、試合だけの、音。
「どの学校の選手も、さすがに気合いが入っているな。うむ、面白いじゃないか!」
「中村君も気合い入ってるね。さぁて、僕たちも、負けないようにしなきゃ」
「しっかしよぉー、なんか、他校のミット打ちを見てっと、みんな強そうに見えちまうなー」
「だはははっ! 泰ちゃんよぉ、試合の相手はミットじゃないから、安心しようぜー」
「そういうことだねぇー。神長の言うとおりだよ井上。だーいじだって!」
田村たちはまとまって準備運動や柔軟運動を終え、各自のアップに入った。開会式までに、どれだけ体を温め、今日のコンディションを細かく確認できるかが大切だ。
「今日は、どれほど自分が動けるだろうか」と、前原はドキドキしていた。
* * * * *
ザッ ザザッ
「ん? みんな、ちょっとそっち詰めよう。別な学校が来たねぇー」
田村たちの隣に、別なチームが陣取りを始めた。県立栃木商工高校の選手団だ。
「よぉー、柏沼の田村ぁ。団体組手の一回戦、いきなりうちらとだなぁ! へっへっへ!」
栃木商工の選手の一人が、田村にずいっと詰め寄ってきた。そして、柏沼高校のメンバーをじろりと見回す。
「あぁ? あれあれ? おいおいまさかぁ、柏沼の補欠は黒帯いないのぉ? しかも、一年と二年の後輩は五人だけかよぉ。すっくねぇのぉ!」
「確かに、黒帯の補欠はいないねぇ。でも俺ら三年のレギュラーは、有段者揃いだからー」
「マジなん? 三年以外が白帯と茶帯で五人て、もう終わりなんじゃね? 田村ぁ、選手層薄いね柏沼はー」
「選手層が薄い? ふーん、そうなんかねぇー? わかんないや」
突っかかられても挑発されても、田村はいつも通りの、のらりくらりとした感じだ。
「なんなの、あんたさぁ!? やけに突っかかってくるね!」
「やーめーろー川田。まぁー、しゃーねーだろぉ? ほんとに後輩は白帯や茶帯だしねぇー」
「田村! だからってこんな言われっぱなしなのってのさぁ!!」
「まぁ、いいんだって。じゃ、とにかく、試合でよろしくなぁ。お手柔らかにねぇー」
田村は、今にも暴れ出しそうな表情の川田を抱えて抑えこみながら、栃木商工側へニコニコとした表情で小さく手を振っている。
「へっ! 今年はうち、マジ狙ってっから。柏沼なんかにやられるわけにいかねぇのよ。なぁ田村ぁ、うちに勝ち星くれよー!?」
「そういうわけには、いかないんだけどねぇー」
「女の腐ったような顔でヘラヘラしやがって。田村ぁ、試合じゃ容赦しねーかんな! うちは、今年、マジで狙ってんだ!」
「はいはい。よろしくー」
田村に抑えつけられている川田は、相手側をじろっと睨む。
「(むー!! アタシが男だったなら、今すぐにでもぶっ飛ばすのに・・・・・・)」
「おい、第二練習場に替えようぜ。柏沼と隣じゃ弱っちくなっちまうし、だめだだめだ。行くべ行くべ!」
栃木商工の選手団は、全員、柏沼メンバーに軽く肩を接触させ、別な練習場へと去って行った。
川田は、拳をわなわなと震わせて歯ぎしりをしている。
「なんっなの、あいつ!! 選手の風上にもおけないね! アタシはああいう男は嫌いだな」
「田村君、あれ、誰だっけ? 感じ悪いチームだなぁ。肩までぶつけてさー」
「栃木商工の主将だよ。篠崎っていうんだけど、なんだか、中学んときに俺が試合でベコベコに負かしちゃったみたいなんだよねぇー。よくわかんないけど、いつもああなんだよー」
「あいつ、何をあんなに焦っているんだ?」
「焦ってる? 中村君は、あの篠崎って人、そう見えたの?」
「ああ。去勢張ったように見えるが、何か、焦っているようにも見えた」
「なーんだっていいってのよ!! ねぇ、あんたら、栃木商工をぎったぎたに打ち負かしてよね!」
「まーまー。落ちつけよぉ川田。・・・・・・俺たちの一回戦、気楽に見ててくれよぉー」
田村は川田へ諭すように語り、手首にテーピングを巻き始めた。
川田は、その巻く音がいつもよりも大きいように感じた。
「ふーん。要は、その中学時代を引きずって、尚ちゃんに一方的に絡んでるだけか」
「ま、試合でとりあえず、適当に相手してやればいいんだ! やるのは尚久な!」
神長と井上は、飄々とした感じでテーピングを巻く田村の横で、組手の打ち込み練習を始めていた。
* * * * *
がやがや! がやがや! どよどよ!
ざわざわざわわわ! どよどよ! がやがやがや!
その時、フロアが一斉にどよめいた。
会場内の東西にある入口からそれぞれ、ある学校の選手団が入ってきたのだ。
柏沼メンバーも、男子と女子で自然と背中合わせになり、それらの選手団を注視した。
「(来やがった。今年も、一段と気迫が違うねぇー)」
「(き、来た!)」
田村と前原はそれぞれ、その選手たちを見て表情を大きく変えた。
川田と森畑も、きらりと眼を光らせてその選手団を見つめる。
「(現れたわね! アタシらの最大の相手!)」
「(余裕の登場、ってわけね)」
東口からは、日新学院空手道部。西口からは等星女子高校空手道部が同時に入ってきたのだった。
この県で長年、男女の種目で不動の王座を守っている、二大巨頭の登場だ。
「「「「 (日新だ! 今年も、オーラが違うな) 」」」」
「「「「「 (等星、もう、佇まいからして優勝確定じゃん) 」」」」」
会場のあちこちからその両校に対し、柏沼高校にはまず向けないような、暗黙の賞賛が注がれる。
「だいじだ。俺たちだって、ただ毎日学校行ってるだけじゃない。だろ、前原?」
「そうだね! 今年は、男女ともにひっくり返してやらなきゃ!」
・・・・・・のしのし ・・・・・・のしのし
「「「「「 (日新の二斗だ! 相変わらず、すげぇ迫力!) 」」」」」
日新学院の主将、二斗龍矢。
会場内の選手の中でも、ひときわ体格が大きく筋肉質で逞しい、それはまるで仁王像のような印象。
・・・・・・ふわり ・・・・・・すた すた すた・・・・・・
「「「「「 (かっこいい! 絶対女王の登場だよ! 美しいよね!) 」」」」」
等星女子高一の実力者、朝香朋子。
高校生にして日本代表ナショナルチームに所属。昨年は、二年生でありながら高校三大タイトル、「春の全国選抜・夏のインターハイ・秋の国民体育大会」の個人組手を総なめにした。
元々、京都の方から特待生で等星へ入学し、全寮制の生活をしながら凄まじい稽古を毎日してるらしい。
凛とした雰囲気の中に、鋭くも落ち着いた目。高い背丈にしなやかな手足。短く自然に整えた日本人形のような黒髪。まさに、超高校級の絶対女王の名に相応しい選手の姿だ。
「あれが、等星・・・・・・。す、すごい迫力だなぁ! さよ? どうしたの?」
「なんか、先輩方の敵なんだろうけど、雰囲気がかっこいい・・・・・・」
「さ、さよー! かっこいいなんて、先輩方が横にいるよぉー」
「あ! すいません!」
一年生たちは、初めて目にする名門校の選手たちのオーラに、目を奪われている。
「いいの。間違ってない。次元の違う強さの人は、威圧感よりも神々しさの方が勝るものなの。等星の朝香さんは、中学時代から全国制覇をしている。私も真波も、中学時代から、彼女のことはよく知ってる。これまで何度か当たったけど、中学でも高校でも一度も勝てていない。今まで、本気すら出されていない」
「「 ええっ!? 」」
「そんな等星の選手が相手ってのが、アタシが前々から燃えてる理由! やってやる! やってやるんだからっ!!」
川田は力強く拳を握って、目をきらきらさせながら、震える一年生をよそに森畑に何か合図を出した。
* * * * *
スタスタ スタスタスタ
「え! ちょっ、川田さん? 森畑さんっ?」
前原が振り返ると、アップを始めようとしている等星の陣営へ一直線に、川田と森畑の二人が歩み寄っていた。
「おはようございます。朝香さん」
「お願いしたいことがあって。いいですか?」
がやがやがや どよどよどよ
等星女子高の選手達のみならず、会場中から、視線が川田と森畑へ向けられた。
「今年は一回戦から、アタシ達はみなさんと当たりますので。全力でかかってきて下さい」
「私も、今年は、柏沼の名を上げたいから、本気の等星に勝ちたい。よろしくお願いします」
がやがやがや どよどよどよ
宣戦布告だ。この二人は、あえて、等星の選手達に本気を出させて戦う気のようだ。
前原は、彼女たちの大胆すぎる行動を止められるわけもなく、ただ、あわあわとするだけだった。
「「 (等星に宣戦布告だと。おいおい・・・・・・。しかもあの朝香に向かって) 」」
「「 (柏沼高? そこまで強かったっけ? 無謀な奴がいるもんだな・・・・・・) 」」
会場のあちこちから、まるで柏沼高校メンバー全員を取り囲むように「身の程知らずめ」といった視線と囁き声が刺さってくる。「いくらなんでも、二人の行動はムチャすぎる」と、前原と井上は思っていた。
「た、田村君。まずいよね。どうしよう?」
「もう、引っ込めらんないし、いいよ。それに俺は、川田も森畑も、等星相手にそこまでできる裏付けがあると思ってる。面白いかもねぇー。なぁ、中村?」
「うむ。あの二人は、ああやって自分の底力以上を出し切るために、あえて自分を追い込んでるんだな」
「川田さんも森畑さんも、なにやってるんだよー。ああ、大変だー」
「ど、どうするよ道太郎? 俺たちも、日新になんか言ってみっか?」
「だーははは! 馬鹿いってんじゃねぇって泰ちゃん。とりあえず、そろそろ開会式だろうから、気持ちを切り替えよう」
「あー。これで変な試合なんかしちゃったら、大変だよぅ。川田さんも森畑さんもー」
そんな前原の心配する様子には目もくれず、川田と森畑の二人は等星陣営のオーラに圧し負けずに堂々と、朝香朋子の目を見続けていた。
その時、朝香が口を、開いた。
「全力でやるかどうか、は・・・・・・あなたたち次第。そういうことですから・・・・・・」
朝香はそう告げ、二人を眼中に置かず、くるりと向きを変えて等星の選手達とアップを始めた。
二人とも、鳩が豆鉄砲を喰らったような顔で固まっている。むしろその姿は、鳩というよりもペンギンか。
「ほら、もういいだろ? 行くぞ行くぞ!」
田村が無理矢理二人を呼び戻し、やれやれといった顔で腕を引っ張って戻ってきた。
「菜美ー・・・・・・アタシにわかりやすく教えて。そういうこと、って、どういうこっちゃ?」
「等星が全力でやるかどうかは、私ら次第。つまり、全力を出すまでの相手かどうかは、私らのレベルを見て決めてあげるから、ってことでしょうかねー? 余裕ありすぎよね、等星は!」
「ぬー。等星、そういうことなのね! 等星って、そこらの県立校となんかじゃ練習試合すら組んでくれないのは、そういう考えか。・・・・・・ならば、意地でも全力を出させてやろうじゃないの!」
田村に引きずられながら、川田と森畑は、朝香を睨んだまま頬をぷくっと膨らませている。
* * * * *
~~~開会式を行います。選手、役員、審判団は、整列して下さい~~~
アナウンスが入り、いよいよ開会式が始まった。
各種目、上位四校が関東大会出場の切符を得る。今季最初の、高校拳士たちの戦いの火蓋がいま切られたのだ。
各校毎のプラカードを掲げ、整列。県内すべての高校拳士が一堂に会する瞬間だ。
来賓や大会会長のありがたい挨拶のあと、選手宣誓がされる。
~~~選手宣誓は、前年度、男女の優勝校。日新学院。等星女子高校の代表です~~~
前年度の男女優勝校の代表者である二斗と朝香が、息を合わせて宣誓する。
「「 宣誓っ! 我々っ 選手一同は 日頃の練習の成果を遺憾なく発揮し 拳士の礼節を弁え 空手道精神にのっとり 正々堂々 競技することを 誓いますっ! 」」
パチパチパチパチ パチパチパチパチ パチパチパチパチ
会場中から拍手が降りそそぐ。その後、審判長からルール確認があり、開会式は終了。
柏沼メンバーは部旗のある自分たちの陣地に一度戻り、アナウンスが入るまで作戦タイムとした。
「田村君、団体組手のオーダー、どういう順番にしようか?」
「そうだねぇ。とりあえず、当面の相手は日新だろうから、なるべく省エネでそこまではいきたいよねぇー。俺が先鋒、次鋒が神長、中堅に前原、副将に中村、大将が井上でどう?」
「尚ちゃんのオーダー通り、前ちゃんまででさくっと三勝あげて、終了にしちゃうか」
「尚久のオーダーミスだったことって、いままで無いから、だいじだよなー」
「おれも、それがいいんじゃないかな。松島先輩たちは、どう見ます?」
「なるべくスタミナ温存なら、それでいいんじゃないかな。栃木商工は、みんなだったらそんなに手こずらないチームだと思うし。全員やらず五人中三人が勝てば、終了だしね」
「いいよいいよ。みんななら、勝てる勝てる。集中力だけ抜かないでー」
「よーし、それじゃ、まずはこのオーダーで行こう! じゃあ、とことん暴れてやろうかねぇー」
「「「「 しゃあっ! 」」」」
笑顔でみな気合いを入れ、お互いに背中や腰をパンと叩いて、団体組手の準備に入る。
「いい気合いだね、男子。アタシらも女子団体組めるよう、夏はまた頑張ろう!」
「だね。一年生ふたりを、とりあえず試合できるくらいまで育てなきゃね」
「一年生! よーく、この大会で、雰囲気覚えていって。夏、ふたりともデビュー戦だよ」
「「 はいっ! がんばります 」」
~~~Aコート、Bコートで、男子団体組手を行います。選手のみなさんは・・・・・・~~~
「あ! 呼ばれたみたい。じゃ、みんな、出陣だ!」
「がんばれ! アタシらは、こっち準備したら、すぐ応援しにいくよ!」
「いっちょ、やってくるわ。まずはAコートだから、よろしくな」
「松島君、じゃ、男子の試合行ってくるよー。女子の方、よろしくね」
「まかしといて。みんなで上から応援しまくるよ。新井君も、よろしく」
「みんなメンホー持ったか? そろそろ行こうぜ」
会場に招集アナウンスが入り、いよいよ戦いの場へ赴く。
五人で帯を締め直し、気合いも再度入れ直し、拳サポーターを装着してコートへ向かう。
他のチームも続々と整列し、選手待機所はギラギラとした気が蜃気楼のようにゆらめいている。
~~~選手は、各コートへ入場して下さい。競技を開始します~~~
「あー、何年やっても、この入場はドキドキすんだよなぁ。悠樹は平気なの?」
「僕はそんなに、そこまで心臓バクバクはしないよー。緊張はするけどね」
「井上、もう、始まったらやるしかねーんだから。さ、入ろうぜ!」
Aコート、Bコートに男子団体組手、Cコート、Dコートに女子団体組手の全選手が入場した。
今回柏沼高校は女子団体組手には出場しないが、それでも女子は男子よりやや少ないくらいのチーム数のため、フロアは一気に男女の選手たちで埋め尽くされた。
白と青のコントラストが爽やかな競技マットが四面。さて、これからどんな試合が展開されるのだろうか。