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青春空手道部物語 ~悠久の拳~ 第1部  作者: 糸東 甚九郎 (しとう じんくろう)
第7章 四強激突!!
55/80

55、川田真波の存在意義

――――。


(まなみちゃん、今日、遊び行ってもいい? 新しいゲーム買ったんだ。面白いよ!)

(あー、ごめんっ。今日ね、空手あるんだ。遊べないの。ほんとごめん)

(ねぇねぇまなみちゃん、昨日のアニメ見た? みんなも見たってさー)

(あ、ううん。見てないや。昨日、夕方から空手行ってたからさ・・・・・・―――)


――――。


(まなみちゃんてさ、なんか、いつも空手空手空手空手、だよね。いつ遊べるの?)

(ほんっと、ごめんね! アタシも、遊べるときは遊ぶよ。ほんとごめん)

(もういいよ。まなみちゃんはもう、空手の人と遊べば良いじゃん! もう知らない)

(そんな。アタシ、空手が好きなだけなのに。お友達が、いなくなっちゃう・・・・・・)


――――。


(・・・・・・四審、8.2。・・・・・・ただ今の得点、25.1 !)

((( 優勝候補の川田が決勝で敗れた! 全中行きは、糸恩流の森畑って子だ! )))

(0.1差、そんな。アタシ、全中行けないの? こんなにやってきたのに!)

((( 川田を破った新星だ! 森畑菜美が栃木県トップ選手だぞ!! )))

(森畑菜美! アタシは空手が全てなのに、それをあんたは奪う気なのか!!)


――――。


(痛ぁぁっ! ・・・・・・う、動けない! 立てないよ! 痛いよぉーっ!)

(靭帯損傷です。正確には半月板周りの前十字靱帯が切れる寸前です。空手はもう・・・・・・)

(うそですよね? 嘘って言って! アタシは空手ができなきゃ!)

(今のケガの状態では、空手どころの話ではありません!!)

(アタシは空手できなきゃ、存在意義がないんです! 先生、医者でしょ!? すぐ治してよ!)

(こればっかりは、すぐには無理です。完治というのも・・・・・・)

(何言ってんの!! リハビリでも何でもやりますから!)

(・・・・・・苦しいでしょうが、しばらく、空手はもうやらないで下さい)

(イヤ! 嫌です!)

(生活にも支障をきたしては元も子もないでしょう? ・・・・・・これからは・・・・・・)


――――。


(え? 等星女子? なにそれホント? 等星からアタシに、セレクション推薦きてるの?)

(そうよ。なんか、ウチに今朝電話あって、瀧本監督が等星に入れって言ってきたのよ)

(等星ねぇ? なんかアタシ、空手は好きだけど、ガチガチに縛られてやりたくないなぁ)

(でも、光栄なことじゃないの。同い年の、森畑さんだかも、誘われたみたいよ?)

(正直、膝も心配だしさ。全中でベスト16になったから森畑菜美は行くんだろうけどさぁ)

(森畑さん、か。お姉ちゃんも真波も、あのお宅と縁があるわねー)


――――。


(えーと、あった! よかった、推薦内定だったけど、番号ちゃんとあったよお母さん!)

(合格おめでとう、真波。よかったね、晴れて柏沼高校生になるんだね! 高校生だね!)

(近くで、通うのも楽だし、空手道部もあるし、ほんとアタシ嬉しいっ! 柏沼いいわぁ)

(こんにちは。川田さん、そのー、覚えてる? 私のこと。ほら、全中予選で・・・・・・)

(え? あぁっ! 森畑菜美! なんで柏沼に? 等星女子へ行ったんじゃなかったの?)

(行くわけないよー。私、足首痛めちゃっててさ。それに、空手はここでもできるしね!)

(えっ。ははっ! ・・・・・・なぁんだ。なんかアタシと一緒だね。あっははは!)

(よろしくね、川田さん!)

(あー、う、うん! こちらこそよろしくね、森畑菜美さん!)

(ねぇ。あのー、その、さ? 同級生だし、同じ仲間になるんだし・・・・・・)

(あ! そっか! そうだね! ・・・・・・何て呼べばいい?)

(菜美、でいいよー)

(じゃあ、アタシのことは、真波って呼んで!)

(わかったよ真波! 改めて、よろしく!)

(・・・・・・うん! よろしくね、菜美!)


――――。


「(アタシの存在意義か。なーんかいま、ふっと思い出したなぁ。そんなこともあったっけ)」


   ワアアアアアア ワアアアアアアアア


「(隣のコート終わったのか。 うわっ! 前原ー! あーぁ、惜しかったんだなぁ!)」


   ワアアアアアアアアア  ウオオオオオオオオオオ


「真波ーーーーーーっ! 私も応援してるよ! ファイトーーーーーーっ!」

「(菜美! ありがと! アタシ頑張ってるよ。本当、ありがとうね! アタシは独りじゃここまで辿り着けなかった。柏沼高校空手道部のメンバーがいたから、アタシは強くなれた)」


 川田は、隣のコートで試合を終えた前原を見て、「あちゃー」という顔。


「・・・・・・。・・・・・・。」


 川田に中段蹴りを決められ、朝香は目を瞑ってただ黙って佇んでいる。


「(・・・・・・。・・・・・・川田真波・・・・・・か)」


 そして、ついに、あの絶対女王が、涼やかな目から炎を纏った目に切り替えた。


「朋子ぉっ! もう、遊びも何も無しだ。はやく終わりにしな!」


 控える崎岡が、春季大会とほぼ同様の台詞を投げかける。

 しかし、あの時とは点差も試合内容もまるで状況が違う。それも含め、崎岡は朝香へ激を飛ばした。

 同じように試合を見つめる小笹は「ほぇー」とふざけた顔で眺めている。


   すぅっ・・・・・・ くわあぁっ!   キランッ!


「(くうーっ! 来た来た! さぁ、待ってたよ朝香朋子! いよいよ、本気中の本気ね!)」


 朝香が今までの涼やかな細目から一気に目を見開き、一重瞼の菱形の目を光らせ、川田を眼力で縛り上げる。目を見開いた朝香は、これまでの何倍も闘気を膨れ上がらせている。


「(さっすが! ビリビリする! 本気だと、こんなに圧力に差があるものかい!!)」


   ユラァァァァァァァ・・・・・・

   ズオォォォォォォォ・・・・・・  ビリビリビリビリ・・・・・・


 朝香の闘気は、観客席にまでその熱気と圧力が響くほど。

 あの朝香朋子が、いよいよ容赦ない全力を開放したことで、観客たちも固唾を飲んで試合を見つめる。


「へぇーっ! すっごい気迫! 等星め、ワタシが必ず叩き伏せてやるから、待ってろよぉ!」


 小笹は、眼前でゆらめく朝香の闘気に反応し、目を尖らせて睨みつけるがごとく朝香を見つめていた。


「続けて、始め! ・・・・・・あとしばらく!」

「(柏沼高校の川田真波。・・・・・・あなたは、全国でも有数の相手と認めるわ・・・・・・)」


   ヒュラアアアアッ・・・・・・

   ガシイッ!  ガチイッ!  ズウウンッ! ドォンッ!


 朝香は重心を落とし、目を見開き、いまにも喉笛を喰いちぎりそうな迫力で拳を構えた。

 その迫力と殺気は、野生の猛獣が今にも喉笛を食いちぎってきそうな感じだ。


「(うわぁ! と、とんでもない闘気と殺気! そうでなくっちゃアタシは楽しめない!)」


 川田は、朝香の闘気にやや圧されつつも、目を見開いて闘気をさらに上げる。


「とぉあああーーーーーーーぁいっ!」


   シュパアッッ!  ズンッ!


 川田も重心を落とし、裂帛の気合いを発して相手の喉元のみを狙う重心に変えた。

 残り時間は、あと二十四秒。点差は川田が1ポイントリード中。このまま凌ぎきれば、川田のインターハイ出場が確定する。


「真波ぃぃぃっ! 朝香はいよいよ本気だ! 集中だよーっ!」

「(菜美。そういえば中学の時、菜美に対して憎んだ気持ちでいたことあったね。ゴメンよ)」


   キイイイイイイィィィンッ!    シュパシャァァァァツ!


「(え!)」

「止め! 赤、上段蹴り、一本!」


 川田が瞬きをしかけた瞬間、朝香の前足は川田の右顎先に刻み回し蹴りを決めていた。


「「「「「「 あああぁぁーーーっ! ・・・・・・川田せんぱーいっ! 」」」」」」

「(くっそぉぉぉ! デタラメなスピード! でも、アタシもそこまで雑魚じゃないぞっ!)」

「続けて、始め!」


   キュンッ!  キイイイィィィィーーンッ!

   ドバシャァァァァァアァッ!

 

「(いきなり一秒もかけずにこの強烈な蹴り! でも、アタシはそこまで楽に倒せないよ!)」


 超音速のような朝香の蹴りを、今度は何とかギリギリでブロックした川田。


「つあああああああああああっ!」


   シュバシュッ!  ドパパパパパパパパパパパパァツ!


 川田は、朝香の中段蹴りをなんとかブロックした後、間髪入れずにマシンガンのような連突きで仕掛けていった。残り時間のタイマーが、三、二、一と減ってゆく。


「たあああーーーいっ!」


   パシュウウウウンッ!


 朝香は床面を瞬間移動のように移動して攻撃を躱したが、川田が神経を研ぎ澄ませてその動きを先読みをして追い回した。そして、最後の最後で上段刻み突きを朝香の顎先に叩き込んだ。


「止め! 青、上段突き、有効!」


   ピーッ! ピピーツ!


 無情にも、試合終了を告げるブザーが鳴った。

 しかし、二ヶ月前より朝香も進化しているのに対し、川田はそれにかなり迫る大健闘。

 あまりにもその試合内容は表現に困ってしまうほどの、ものすごい戦いだった。


「止め! 4対3。赤の、勝ち!」

「「「「「 ・・・・・・あああぁっ! 惜しいぃぃーーーっ! 」」」」」


 主審の宣告に対し、柏沼陣営からは落ち込みを隠せない声がへろへろとたくさん響いた。

 あの絶対女王と言われる朝香朋子に、ほぼ僅差の内容で競った川田真波。これは、川田に対して周囲の評価は計り知れないものがあるだろう。会場はまだ、大きくどよめいている。


   がやがやがやがや どよどよどよどよ


「「「「「 (あの柏沼の子、朝香とほぼ互角だったぞ! すっげぇ!) 」」」」」

「「「「「 (最後、朝香から取ったよね! どういう練習で鍛えてるのかしら?) 」」」」」


 観衆の評価はかなり高い。しかし川田は、涙を零し、唇を震わせていた。


「ぅっ・・・・・・ひっく。勝てなかった。でも、アタシの居場所はやっぱ、ここなんだな」


 メンホーをはずした川田は、やはり勝てなかったことによる悔しさが込み上げてきたのか、嗚咽して涙がとめどなく溢れていた。

 そこに、なんと、意外なことに朝香がゆっくり歩み寄ってきた。


   すっ   がしっ


「(川田さん。・・・・・・強かった。・・・・・・最高の相手よ。ありがとう・・・・・・)」

「(・・・・・・っ! 朝香朋子・・・・・・っ)」


 悔し涙の止まらない川田に対し、朝香は掌を差し出して川田の手を一瞬握り、向きを変えてコートから出て行った。冷静な佇まいと、冷やりしたと涼しい表情だったが、その口元はうっすら笑っているようにも見えた。

 川田も涙を拭い、キリッとした目で笑みを浮かべ、深く朝香の背中へ一礼。言葉なく二人は、コートを後にした。


   パチパチパチパチ パチパチパチパチ パチパチパチパチ


 どこからともなく、大量の拍手が降り注いできた。それを浴びて、両選手はコート両翼へと戻ってゆく。

 これで川田は、次の試合の敗者とインターハイ出場者決定戦を兼ねての三位決定戦となる。

 まだ、インターハイへの道は閉ざされていない。森畑同様最後の試合へと持ち越しとなった。


「あーもぅ、川田センパァイ! 負けちゃうなんてぇ! じゃ、ワタシが暴れてやりますかぁ」


 目に殺気を込め、闘気を燃え上がらせた小笹がゆっくりと立ちあがる。

 その対岸では、崎岡が無言で小笹を見据えている。

 川田と朝香の超次元決戦のあとは、小笹と崎岡による一騎打ちだ。


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