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青春空手道部物語 ~悠久の拳~ 第1部  作者: 糸東 甚九郎 (しとう じんくろう)
第1章 始動
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5、いざ、春季大会へ

 桜若葉の季節になった。早朝の空気はほどよく湿気を含んでいて、清々しい。

 三週間は、あっという間だった。

 今シーズン最初の公式戦である春の県高校総体、いわゆる『春季大会』にこれから臨むのだ。


「おはよう、森畑さん! いよいよだね!」

「そうね。まっ、これまで稽古してきた力を思いっきり出そうよ」

「そうだね。そろそろ、みんなも来るころかなぁ」


 学校に集合し、部員全員で電車を乗り継いで会場へ向かうのだが、学校から軽く見て一時間はかかる。

 まだ集合時間まで早いのか、まだ前原と森畑、そして二年生の阿部(あべ)恭子(きょうこ)しか集まっていない。


「森畑先輩、今日は頑張って下さい! 関東大会、出られるといいですね!」

「ありがとう、恭子! 今年こそは、良い結果残していきたいね。・・・・・・あ、長谷川が来たよ」

「前原先輩、遅くなってすいません。はぁ、はぁ。・・・・・・自分、い、急いで来ました!」

「おはよう! まだ、これだけしか来てないんで、大丈夫だよー」


 二年生の長谷川(はせがわ)(みつる)が到着した。そして、それから五分と待たずして、メンバー全員が揃った。

 気づかなかったが、田村は先に来ており、校舎内で早川先生やコーチ陣と何か話していたようだ。


「じゃっ、今日はみんな、頑張って。今期から、卒業生の先輩方がよーくみんなを見てくれているから、いい成績目指していこう。先生も応援いっぱいするからな」


 顧問の早川先生は、朝から元気いっぱいの笑顔で迎えてくれた。まだ着任して三年目の若い英語の先生だ。

 大会の時はいつも、終わった後に、反省会と称した夕食会をファミレスで開いてくれる。空手はできないが、部活に熱意と理解のある先生で、部員達からの人望もある。


「それじゃ、みんなに、組み合わせ表を改めて見せるよ。会場に行けば学校毎にパンフレットあるから、一年生は、受け取って先輩へ配って下さい」

「「 わかりました! 」」


 一年生はまだ大会には出ないので、今回はマネージャー的なポジション。個人組手は一年生以外は全員が出場。個人形は希望者のみ。女子の団体種目については、間に合えば次の大会から組むそうだ。


「よぉっしゃ! ど、どーれ、見てやろうじゃんか!」

「井上、なーにびびってんの!? ほれ。アタシに組み合わせ表、貸してよ」


 まだ電車まではかなり時間がある。組み合わせ表を見て、みんなで改めて士気を高める。


「みんなこの三週間でみっちりと、やるだけの稽古はしたから、あとは思い切って」

「いけるよいけるよ。相手に呑まれたりしないでねー。だいじょうぶだから」


 新井と松島も、部全員へ優しく言葉がけをしてくれる。


「おい、田村。見てみろ、これ」

「ん? おー・・・・・・なるほど。こんな組み合わせねぇー」

「日新学院とは同じ山だとは聞いていたが、当たるとすればだいぶ遠いぞ」

「勝ち上がれば、ベスト4争いで日新かぁ。まずは、初戦を確実に突破しなきゃだねぇー」

「そうだな。初戦はまず、栃木商工か。落ち着いてかかれば、問題なく大丈夫な相手だ」

「まっ、やるだけやるだけだねぇー」

「うむ。おれたちは、やれることはやってきた。問題ないはずだ」


 団体組手の組み合わせ表を見て、田村と中村は真剣な顔を見合わせて頷く。


「うちら、個人組手はAとBのブロックに固まっちゃったなぁ。CとDにも散りたかったな」

「各ブロックでトップになっても、二人しか関東行けない、か。こりゃ激戦だ」


 前原は個人組手のほか、形にも出場する。

 男子で形の部に出場するのは、前原の他は田村、井上、神長の三名のみ。中村は、今回は組手のみに絞っての出場。本人曰く、それほど形は得意ではないようだ。

 組手競技に比べ、形競技は長年培った技術量と稽古量が勝敗を大きく左右する種目なので、初心者でも出場しやすい組手より、圧倒的に人数が絞られるのかもしれない。技術と鍛錬の火花が散り、静と動が交錯する、凜とした種目だ。


「道太郎。もし決勝残ったら、なにを演武するの?」


 森畑は、形競技に関しては組手よりも力を注いでいる。神長に、どんな演武をするか聞いている。


「サンセールーか、スーパーリンペイかな」


 形には、各流派毎に、様々な種類がある。

 競技ルールにあるリストでも四十種類以上はあるだろう。元々が中国から伝わった拳法の技術に沖縄の武術がミックスしたらしく、形の名称は、中国の福建語が沖縄訛りになったようなものも多い。いまだに、ルーツ不明のものもある、空手の中でも謎が多い部分だ。


「頑張ってね。剛道流の重厚な形は、道太郎にはよく合ってるからね。しっかりね!」

「だははっ! 森ちゃんにそう言われちゃぁ、ほんと、しっかり演武しないとなぁ!」

「落ち着いてやれば、大丈夫だよ。私と真波も、全力で演武するから」

「しかし、女子の組み合わせっちゃ、いつも思うけど・・・・・・どこに入っても等星が壁だよなぁ」

「私も真波も、等星の選手を超えない限りは、上位進出できないからね。やれるだけの演武をするわ」

 

 会場に着くまでに、みんな組み合わせ表を見て臨戦態勢は十分なくらい整っているようだ。

 神長と森畑の会話に、自信満々な顔をした川田が割り入った。


「そういうこと! 形も組手も、アタシはいきなり等星。全力で、出し惜しみしてる場合じゃないね」

「相手にとって不足なし、ってことだね。等星なんか蹴散らしてやろうよ、真波っ!」

「あったりまえよ! アタシらの実力、とくと思い知らせてやるんだから」

「柏沼高校に、等星以上の私と真波がいるってこと、見せてやろうね!!」


 腕組みをした川田のポニーテールが揺らぐ。

 森畑は、川田と目を合わせて、にこっと微笑んだ。


「わー。先輩達、すごく気合い入ってる。大会って、こういう空気になるんだぁ」

「すごいね。これは、こっちもエネルギー入っちゃうね!」


 一年生達も、目に炎を浮かび上がらせた三年生達の気迫を目の当たりし、制服姿のままで小さくガッツポーズを真似ている。


「よし。組み合わせ確認は、もういいよね? 気合い入れて、いくぞ!」

「「「 よっしゃぁ! 」」」


 凛とした眼の田村が発した掛け声に、部員一同、気合いを天に響かせた。


「いいねいいね。懐かしいよ。こんなだったねぇ」

「新人大会やインターハイ予選をみんなで戦った頃が、いい思い出だ」

「さぁ、電車の時間も迫ってるし、みんな、出発しようかねぇー!」


 柏沼高校空手道部ご一行様は、気合い十分のまま電車に乗って会場へ向かった。

 会場の最寄り駅に近づくにつれ、各駅からどんどん他校の空手道部も乗ってくる。

 車内は呉越同舟。ピリピリとした火花が、車内では静かに飛び交っている。

 さぁ、いよいよ春季大会の会場入りだ。


「(頑張るぞ! 僕たちの力を、存分に発揮して戦うんだ!)」


 前原は、ドキドキする鼓動を感じながら、小さく拳を握っていた。

 いつの間にか、空が薄曇りになっている。

 「雨具、持ってくるの忘れたなぁ。ま、いいか」と、前原は車窓から外を眺めていた。


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