表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
青春空手道部物語 ~悠久の拳~ 第1部  作者: 糸東 甚九郎 (しとう じんくろう)
第5章 大混戦模様!
PR
39/80

39、闘志を燃やす、森畑奈美

   ~~~Bコート。女子個人形、三位決定兼インターハイ代表決定戦を行います!~~~


「よおぉぉーしっ! 絶対、みんなとインターハイに行ってやる!」

「負けてたまるか! 自分は等星の看板を背負ってる。監督のためにも!」


 森畑は思いっきり頬を叩き、さらには腰と腿を叩いて、気合いを入れ直した。

 対する矢萩も、目をギラリと光らせ、森畑をぐっと見据えている。


「菜美ぃーーっ! がんばれぇぇーっ! もう、楽しんでこいーっ!」

「(真波、ありがと! 全力でやってくるから!)」


 柏沼陣営と真向かいの観客席では、等星女子高のメンバーが形競技を静かに見ている。

 その目は、仲間である矢萩を応援しているというよりも、千尋の谷へ我が子を突き落とした獅子のように、冷徹でただひたすら静かに見下ろしているような目だった。

 主将の崎岡有華を中心に、朝香朋子や他のメンバーも、ただ静かに見ている。


「朋子、これでさらに我々が白星を落とすようなら、監督の鉄槌は免れないね・・・・・・」

「・・・・・・そうね、有華・・・・・・。仕方ないよ。それが、等星だから・・・・・・」

「それが等星、か・・・・・・」


 静かに試合を見つめる崎岡と朝香。

 対して、柏沼陣営からは、後輩達が森畑へ笑顔で声援を送っている。


「「「「「 ファイトーッ! 森畑せんぱーい! 」」」」」


「赤、県立柏沼高校、森畑選手!」

「はぁいっ!」

「青、等星女子高校、矢萩選手!」

「はあいっ!」


 両者、凛とした表情で一礼。

 森畑は、相手の矢萩に対して眼力で圧をかけ、余裕の気迫を見せてコート内へ進む。

 

「正直言って、どちらが名門校の選手なのかわからないくらいだ! 森畑さん、貫禄あるなぁ!」

「前ちゃん。こりゃあ、もしかすっともしかするぜ! 森ちゃん、ファイトー!」

「森畑、ここまできたらインハイ行かなきゃねぇー。 ファイト! 自分を信じて形をやれば、だいじだー」


 前原、神長、田村の三人は、拳に力を込めて試合を見つめる。


「(矢萩っ・・・・・・。等星としての誇りを見せろ! 格の違いを見せつけな!)」

「(くすっ! さぁて、お手並み拝見ッ、森畑奈美! 糸恩流だっけ? 何やるんさー?)」


 決勝を控えた諸岡と小笹も、この決定戦を黙って見つめている。

 小笹は口笛を吹いているかのようにアヒル口となって、余裕綽々の様相だ。


   スゥ すうぅっ・・・・・・


 いよいよ始まった、柏沼女子最後の砦、森畑奈美の形試合最終決戦。


「マツムラァァーッ・・・・・・バッサァァイッ!」


 なんと、森畑が選んだのは、これまた得意のバッサイシリーズの一つ、松村抜塞マツムラバッサイ

 抜塞大や泊抜塞と並んで、切れ味と緩急を信条とした、バッサイの一種だ。

 

「ほぉー! 森畑、マツムラバッサイとはねぇー。勝負にでたねぇー」

「田村君。バッサイって、どれも同じような技が折り込まれているのに、森畑さんはよくごちゃごちゃにならないなぁと感心してしまうよ」

「そこが、森畑が森畑たるところなんだろうねぇー」

「きっと、僕なんかとは、形を習得する脳機能や身体機能が違うのかもしれない。そう思えてしまうほどだよ」

「俺も、そこまで形にのめり込んで覚えたことないからねぇー。ま、森畑はこりゃ、本気中の本気で挑んでるってことだねぇ」


 田村と前原が話す隣では、神長が後輩達に何やら形の説明をしている。

 別な場所では、川田が阿部と一緒に森畑の試合を見つめていた。 


「松村バッサイ!? 菜美、泊バッサイと同等の持ち形をやるんだねっ! アタシも中学時代に、あの形にやられたんだ!」

「え? 中学時代の川田先輩を、森畑先輩はあの形で倒したっていうんですかっ?」

「・・・・・・そう。全国中学生大会出場権をかけた試合だった。優勝すれば全中出場。負ければ関東止まり。そんなときだったね」

「えー! 想像しただけでも、すごいカードですね・・・・・・」

「アタシはその時、周囲から絶対優勝間違いないと言われててさ。決勝で松楓館流の五十四歩小(ゴジュウシホショウ)を演武して、菜美はあの形をぶつけてきた。あれは、泊バッサイより前の、菜美の必勝形なんだ!」


 川田が阿部に説明している間に、森畑の目がきらりと力強く輝いた。

 いよいよ、森畑の松村抜塞がベールを脱ぐ。


   スゥッ シャアッ ズタァン!  サッ パアアアアッ シャッ パパァンッ!

   シャッ パァンッ!  ススゥーッ  パンパァン! パァン! シャッ バシュンッ!

   バシィ ドパアァン! バシィ ドパァン!

   ガシュ ガシュ ガシュ  フワアッ  

   クルッ ババッ  シュバアッ! パァン! ええぇーいっ!

   フワァーッ フワァーッ フワァーッ シュバシッ!

   グググウーッ・・・・・・ タン タタァン  

   ババッ  ススウゥゥ パァァン!

   フワッ バッ ギュウッ ダァン!  パアァァン 

   パパァン ギュッ ババッ! スゥ ババッ! スゥ ババッ!


「松村抜塞・・・・・・すごい! 森畑さん凄まじい気迫だ。技もノーミス! すごいすごい!」

「ほんとだねぇ。こりゃ、とんでもない出来だ! いいぞ! 森畑、さすがだねぇー」

「森ちゃん、気迫がすげぇや! だははは! こりゃ等星も、無理だろうなぁ!」


  バシ  パチィン パチィン!

  フワァァ  タッ  フワァァ  ススゥゥゥ・・・・・・


「「「「「 きまったぁーっ! 」」」」」


 森畑が形を終えると、柏沼メンバーからは同時に声が上がった。


「前半はもちろん、後半も最後も文句なし。菜美、隠れてこの形もたくさん稽古してたんだね!」

「すっごぉい! 森畑先輩、さすがです! これ、行けますって!」

「見てよ恭子。あの、菜美の目。本当にやりきったという感じだね!」


 演武を終えた森畑は、ゆっくり一礼し、コートから一旦出る。


「(ふぅ。さぁて、等星の一年生、このあとどう向かってくるの? お手並み拝見!)」


 森畑の演武後、審判の数名が軽く頷くような仕草を見せた。

 そして、森畑と交代し、矢萩がコートへ堂々と入ってくる。

 コート中央近くで足を止めた矢萩は、目をくわっと見開いて、大きく息を吸った。


「サンセールーッ!」


 なんと、矢萩が宣告したのは、剛道流の三十六歩サンセールー。森畑と先程対戦した、諸岡が演武をした形だ。


「(や、矢萩っ! 何でその形をっ!)」


 決勝を控えた諸岡は、矢萩の形名を聞いた後、表情を厳しくし、その決定戦を見守っている。


   スウウ フゥ ハァァッ  グゥ  ギュ パアンッ!

   グゥ ギュ シュパッ!  グゥ ギュ シュパッ!

   シュワァ スッ グウッ シュパパン! シュバッ! バッ!

   シュバッ! パンパァン!  シュバッ! パンパァン!

   シュバッ! パンパァン!  シュバ! パパァン! シュッ!

   ダン! ギュッ! ギュル パァン! ああぁい!

   ギュッ! ギュル ズパァン! ああぁい!

   シュッ シュアッ パッ  スッ・・・・・・


「「「「「 きぃまったぁーっ! 」」」」」


 等星陣営から大きな声が響いた。しかし、崎岡と朝香は、瞬きもせず黙って見つめたまま。

 会場はその結果を待つのみ。時が止まったかのように静まり返っている。

 判定を待つ森畑が、ゆっくりと矢萩の横へ並び立つ。

 両者、主審へ向かい一礼。そしてそのまま、判定を待つ。


「へぇ。森畑菜美って、勝負形いくつもあるのか。驚いたなぁッ。松村バッサイ? あれ、元々はワタシの得意な省林(しょうりん)流のパッサイじゃんーッ! 動きは、糸恩流アレンジかぁー」


 小笹は、森畑の形を見て、何やら思うところがあるようだ。


   どきどき  どきどき  どきどき  どきどき


「た、田村君、神長君・・・・・・。ドキドキだね・・・・・・」

「森畑ぁ、頼むよぉ。あとはもう、運任せだねぇー。勝てると良いねぇー! 勝ってくれー」

「し、心臓に悪いぜぇ。こりゃ、バクバクもんだなぁー」


   どきどき  どきどき・・・・・・


「(真波、見てる? 最後まで、目をそらさずに、見てて頂戴よ!?)」

「(はぁ、はぁ。や、やりました! 等星の空手が一番というのを、見せます!)」


 間もなく、運命の判定。

 審判五人が、巻かれた赤と青の旗をクルクルと解き、主審は合図のホイッスルに手をかける。


「森ちゃん、すごい演武だったんだから。・・・・・・たのむ、たのむー」

「も、森畑さんに、清き一票を」

「神長はそれ、初詣かよぉ。前原は前原で、選挙じゃないんだかんねぇー」


 主審が、両選手をぐっと見つめ、背筋をぐっと伸ばす。


「判定っ!」


   ピィーーッ!  ピッ!

   バッ!  バッ!  バッ!  バッ!  ババッ!


   ウゥワアアアアアアアアッ  オワアアアアアアアアアアアッ

   がやがやがや がやがやがや がやがやがや がやがやがや


 赤旗、四本。青旗、一本。

 それが上がるのと同時に、会場は無数の歓声に包まれていた。


「「「「「 (等星が敗れた! 柏沼がインターハイとったぞぉぉ!) 」」」」」

「「「「「 (すごいレベルの戦いだったなぁ! 県内戦とは思えない!) 」」」」」


   ワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!


「赤、4! 青、1!  赤の、勝ちっ!」


 その判定が聞こえた瞬間、森畑は一瞬遅れて相手へ一礼し、目をつぶって天を仰いだ。

 そして、大きく深い溜息をつき、そのまま、まなじりからは光る線が二本、つつぅっと頬を伝って流れたのだ。


「わああ! やったやったやった! 森畑さん、とったとったとったぁぁぁ!」

「やっ、やりやがったなぁ! 第一号だねぇー!! 前原、俺らも、続いてとるぞぉぉ」

「うっおおおおお!! 森ちゃん、すっげぇ! もう、このまま全国も上位いけるぜこれはっ!」


 隣のコートでも、その結果を見て井上と中村が力強くガッツポーズ。


「なっ、菜美のやつ! やりやがった!! 等星を倒してインターハイ行き、決めやがった!」

「すごい! いいぞっ! 森畑のおかげで、こっちも気合いが乗ってきた!」


   ワアアアアアアアアアアア!  パチパチパチパチ!!


「おーいっ、菜美ーっ! やったね! やったねぇ!」

「森畑先輩ーっ! おーいおーい!」


 川田と阿部は、フロア入り口のところからBコートに向かって、何度も何度も手を振ったりタオルを振ったり。二人とも、口には笑みを、目には涙をと言った感じだ。

 数秒後、森畑はそのまま、目元がゆるみ、口元もゆるみ、時間をおいて大きく叫んだ。


「やあーーーーーったぁぁぁーーーーーーーぞぉーーーーっ!」


 森畑は右拳を強く握り、胸へぎゅうっと押し当て、上を向いたまま歓喜の涙を流していた。


「「 森畑せんぱぁぁぁいっ! やったぁーっ! 」」


 観客席のメンバーもみな、狂喜乱舞。森畑の母も、拍手しながら何度も頷き、大喜びの様子。

 一年生二人は抱き合って、社交ダンスのように喜んでいる。大南は歌いながら踊り出していた。


「菜美さんのお母さん、おめでとうございます! 沖縄行き、決まりましたよ!」


 早川先生も、目を輝かせて喜んでいる。川田の父も嬉しそうに、森畑の母へ「おめでとうございます」と言って握手をしている。柏沼陣営はまるで、優勝したかのような騒ぎだ。


「ほんと、嬉しいです! お父さんに、素晴らしい父の日のプレゼントになりましたよ。あ、沖縄に応援行くお金、なんとか工面しなきゃいけませんよねぇ」


 森畑の母は、うっすら涙しながら、周囲に何度も頭を下げている。


   パチパチパチパチ  パチパチパチパチ


 だが、終わってみれば森畑にとっても楽な試合ではなったのは言うまでもない。相手もかなり強かった。苦しい戦いだった。簡単に済むことは一つもなかった。

 森畑は、日々の厳しい稽古を積んだ上で激戦を戦い抜き、見事、沖縄インターハイ女子個人形の代表権を勝ち取った。

 館内からはまだ、拍手が雨のようにBコートへ降り注いでいる。

 相手の矢萩も四位入賞だが、インターハイ出場と県内大会入賞というその線引きは、上を目指す競技者にとっては雲泥の差だろう。


「菜美、ほんと、おめでとう! アタシは、組手で菜美に続くからね! 絶対!」


   パチパチパチパチ  パチパチパチパチ


 川田は、涙を光らせながら笑顔で森畑へ拍手を贈り続けていた。

 歓喜の雨はまだ、降り止まない。本当に、素晴らしい勝負だった。

  


 【 森畑菜美  全国高等学校総合体育大会 空手道競技  出場決定! 】


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] まず一人、沖縄行き決定ですね!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ