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青春空手道部物語 ~悠久の拳~ 第1部  作者: 糸東 甚九郎 (しとう じんくろう)
第5章 大混戦模様!
36/80

36、台風爆弾娘、小笹

「(くすっ。柏沼高校三年、川田真波か。ワタシにとって、ある意味、等星より面白いねッ!)」


 呼び出しを待つ小笹は、不敵な笑みを浮かべる。


「赤、海月女学院高校、末永選手!」

「はぁぁいっ!」

「青、県立柏沼高校、川田選手!」

「はぁいっ!」


 柏沼メンバーには、この勝負は決勝戦並みに注目の一戦となった。

 井上と中村も、別なコートからFコートを眺めている。コートに入る川田へは、観客席から前原たちも声援を送っている。


「「「 川田先輩、ファイトでぇす! 」」」

「真波、思いっきり演武してね! 待ってるから!」


 後輩達も森畑も、固唾を呑んで見守っている。

 川田が後攻のため、まずは一礼した後に一旦コートから出た。先攻は小笹だ。


「神長君。田村君。あの末永さんて子、次は何をぶつけてくるだろうか?」

「初戦がチントウ、二回戦がニーセーシーだろ? なら、もう一つの和合流第二指定形のクーシャンクーだろうなぁ」

「川田は第一指定形で、ものすごいキレのカンクウ大を審判に見せつけた。ならば、同じ系統のクーシャンクーは印象度だったら川田に分があるはず。川田はたぶん、エンピを思いっきりぶっつけるだろうねぇー」


 神長や田村も、これは注目の一戦のようだ。


   ざわざわ  ざわざわ  ざわざわ


   スッ  スッ  スッ   ぺこり   すうぅぅ・・・・・・っ


 小笹はコートに入り、ゆっくり一礼。

 主審と目を合わせ、大きく緩やかに、歓声ごと息を吸い込んだ。


「クルルンファァーーーーーッ!」

「「「「「 な、なんだとぉっ! クルルンファだと? 」」」」」


 一同騒然。一回戦から、非の打ち所のない和合流の形を演武してきた小笹だったが、ここにきていきなり剛道流の久留頓破クルルンファに切り替えてきた。流派を超えた演武をしてくる選手。

 田村達はみな同じことを思った。「こんな選手は、出会うのすら初めてだ」と。


「あの子、どういうつもりなんだ? 和合流と剛道流では、基本も技法の系統からしてもまったく違うぜ、前ちゃん! 俺は剛道流だからわかるが、この形の選択はちょっと信じられんぞぉ!?」

「い、いったい、どういうことなんかねぇー」

「僕もわけがわからないよ。そんなくらい、器用だってこと?」


   ざわわわ  ざわざわざわわわ


「・・・・・・な、なんですって? いったい、どういうことよ!」

「なんで!? 剛道流のクルルンファなんか、できんの!?」


 川田も森畑も、さすがに今の状況が飲み込めない様子だ。


   スゥゥ ハアアァァァッ

   サアアァ シュバアァァッ! サアアァ シュバアァァッ!

   ササアァ ヒュバシッ パパァン! ササアァ ヒュバシッ パパァン!

   ササアァ ヒュバシッ パパァン!

   シュッ ススッ パパパァンダァン!

   スウゥゥ シュッ ススッ パパパァンダァン!  つえええーぁぃっ!

   サアッ クルル ハアアアァァァッ

   パァン! ガッ! ババシュッ! パァン!

   ガッ! シュバシイィッ! フゥ スゥウ サアア

   パッ ググゥ ババシュウッ!


「(な、なんなのこの子は! このクルルンファ、演武に慣れすぎている!)」


   パパパッ バシッ! ササッ パパァン! ササッ パパァン!

   ザザッ バッ ヒュバアァッ フアアアアァァッ スッ ススウゥゥ


 いつの間にか、会場内の人はみな、その演武に魅入っていた。

 この形が得意な神長でさえも、唸るほどの出来栄えだった。


「あ、あれは完全に、どっからどう見ても剛道流をやりこんできた動きだ!」

「どういうことなんだかねぇー? さっきまでは見事に和合流だったぞ? 何者なんだ、あの子!」


 小笹は、文句なしでやりきったと言わんばかりの笑みを浮かべ、川田と入れ替わる。


「川田のやつ、今の後に演武か。気負いすぎなきゃ良いけど・・・・・・」


 心配そうに見つめる田村をよそに、川田は刃物が光るような目に力を込め、一気に気を爆発させた。


「エンピィーーーッ!」


   スッ ダダァン! ババッ ヒュババアッ

   バッ トォン ダダァン ババッ

   トォン ダダァン ババッ! スウゥゥゥ

   サアァァッ パパァン! ああーぃっ!

   サッ パパパァン!  シャシャアッ 

   バッ ババッ バシュッ バッ クルウッ

   バッ トォン ダダァン! ババッ・・・・・・


「おおおっ! 川ちゃんの燕飛、すっごいキレだ! これは・・・・・・すごい!」


 川田の鬼気迫る演武は、まさに、燕が高速で空間を切り裂き飛び回るよう。

 地力を鍛えるための強化稽古からくる、以前より数段パワーアップした形だった。


   ススウウ スススゥ ススゥ

   シュババッ ガッ! クルウッ タタァン! ええぃっ!

   シュバッ シュバッ  スウッ・・・・・・

 

「「「 きまったぁーっ! 」」」

「阿部せんぱい、川田先輩も森畑先輩も、かあっこいいですねぇっ!」

「真衣も形、おぼえようね? わたしもはやく、ああいう形ができるようになりたいなぁ」


 森畑が白鷺なら、川田は燕。二羽の鳥がコートに舞った。

 どちらも文句のつけどころのない、素晴らしい形だった。


「(ふぅっ・・・・・・どうだぁっ、小娘小笹! これ以上ない出来のエンピだったと思う! どーだっ!)」

「(へー。この柏沼の川田真波ってひと、松楓館流だったのか。まぁ、ワタシは興味ないケド)」

「判定っ!」


   ピィーーッ!  ピッ!

   バッ!  バッ!  バッ!  バッ!  バッ!


   ワアアアアアアアア おおおおおおおおっ


 審判五人、揃って赤旗五本。判定が出されると、観客席からは大きなどよめきが起きた。


「うっ、うそでしょう! 真波を完封って・・・・・・。真波も、文句ない形だったのに!」


 判定結果に、森畑は見ていて表情を固めてしまった。


「ま、まじか! 川ちゃんの形だって、すごかったのに! 相手はそれ以上だったのか!」

「な、なんてこった。こんなことがあるとはねぇ・・・・・・」


 神長と田村はお互いに顔を見合わせ、何とも言えぬ表情で川田を見つめていた。


「「「「 (すごいぞあの海月の子! なにもんだ? 柏沼の川田を完封だって!) 」」」」

「「「「「 (等星も完封したし、異常なキレと形の表現力だ! すごい!) 」」」」」

「「「「「 海月女学院って、空手部ないよね!? どういうこと!? 」」」」」

 

 館内も、小笹の勝利にあちこちからどよめきが絶えない。


「か、川田先輩が、負けちゃった・・・・・・。同じ二年生が、川田先輩を完封なんて。信じられない・・・・・・」


 阿部は、目の前の光景を受け止めきれずにいた。

 互いに一礼し、川田は待機場に戻ると、目をつぶったままタオルを顔に当てそのまま静かに座り込んだ。かすかに、肩を震わせながら。


「くすっ。なかなか楽しかった! 川田真波セーンパイ、楽しませてくれて、サンキュ!」


 小笹は、屈託のない顔と白い歯をきらりと輝かせ、ケラケラと笑っている。

 もう一試合は、等星の矢萩が日新の笹崎に難なく4対1で勝利。これで女子はベスト4が出揃った。

 準決勝第一試合は、諸岡 対 森畑。第二試合は、小笹 対 矢萩だ。


   ~~~Aコート。男子個人形、準々決勝戦を行います~~~

   ~~~Bコート。女子個人形、準決勝戦を行います~~~


 川田の個人形は、ベスト8で散った。女子で残るは森畑のみだ。

 インターハイ行きの切符は、二枚。それを巡ってここからは三人で奪い合うことになる。

 同士の涙を弾ける汗に変え、森畑が間もなく出陣する。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 和合流は、和道流。剛道流は、剛柔流。糸恩流は、糸東流。松楓館流は、松濤館流。 流派名もアレンジされてんすね。 しかし、いきなり、とんでもないキャラが出てきたな。 現実には和道の形を使いこ…
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