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青春空手道部物語 ~悠久の拳~ 第1部  作者: 糸東 甚九郎 (しとう じんくろう)
第4章 琉球の風 争奪戦! インターハイ予選!
30/80

30、牛と戦う者達

   ~~~Aコート。男子団体組手準決勝。赤、日新学院高校! 青、県立東照宮高校!~~~


「「「「「 とーしょーぐぅぅぅっ! しゃあああーっ! うううおおおおおああっ! 」」」」」

「「「「「 にっしぃぃぃん! ファイ! ファイ! ファイ ファイ! 」」」」」

「しぇいりゃぁーーーーーっ!」

「赤、中段突き、有効!」

「「「「「 東畑先輩ぃぃ! ナイス中段だ! ナイス中段だぁ! 」」」」」

「あああぁいしょぉー!」

「青、中段蹴り、技有り!」

「「「「「 ナイス中段だぁ! 星野ファイトー 」」」」」

「とうりゃぁぁあっっ!」

「赤、上段突き、有効!」

「「「「「 田中先輩ぃ! ナイス上段! ファイ! ファイ! 」」」」」


 男子団体組手の準決勝戦が始まった。柏沼メンバーのいるコートの隣でも、白熱した試合が続いている。

 ここまで無類の強さを誇り勝ち上がってきた日新学院と、勢いに乗って初のベスト4入りを果たした県立東照宮高校が真っ向からぶつかった。

 両陣営からの声援も、豪雨のように降り注いでものすごい声量。

 先鋒は日新の東畑がまず一勝するも、次鋒は東照宮高校主将の星野が取り返す。中堅戦は日新の田中が10対2の大差で勝利し、日新学院がリーチ。残す副将には主将の二斗。大将には畝松が控えている。

 そして、決勝進出へのリーチのかかった副将戦。


「うるるおおぁぁぁぁーっしゃぁぁいっ!」


   ババババチュンッ! ババババババッ!

   ドパパァン! ズダァン! バシャアアンッ!


「「「「「 二斗先輩ぃぃっ! ナイス一本だぁぁぁ! 」」」」」

「止めっ! 赤、上段蹴り、一本! 赤の、勝ち!」


 響き渡った二斗の気合い。それは明王の怒声か獅子の咆哮のよう。

 しかし汗ひとつかかず、二斗は三つの一本技を含む9対0で圧倒的な勝利を収め、決勝戦へはまず日新学院が登り詰める結果となった。

 

「赤が三勝となりました。3対1、赤 日新学院高校の、勝ち!」


   パチパチパチパチパチ!


「かぁーっ! なぁんで二斗のやつ、あんなに燃えてるんかねぇー?」

「田村君みたく、お腹がすいてるんじゃないの? だとしたら二斗君、午後は眠くなるかも」

「そんなわけねーだろ悠樹! 二斗龍矢。あいつは人造人間だ。腹なんかへらねーよ」

「泰ちゃん、そりゃ言い過ぎでないかい? それにしても東照宮にも結構強いのいたな。あの主将、星野だっけ? ありゃなかなかだ」

「そうだな。おれもビックリした。日新に勝つやつが、あんな小さな県立校にいたなんてな」

「県立私立とか関係なく、どこにどんな強い人が隠れてるかは、誰もわからないってことだねぇー」

「そうだね田村君! それはもちろん、僕たちにも見事に当てはまるんだろうけどさっ!」

「そういうことだろう。おれたちは、一気にインターハイ出場を決めてやろうではないか!」


 Bコートの準備が出来るまで待つ間、ゼリー型飲料をくわえながら中村が発した最後の一言で、男子メンバーは一斉に目が輝き直し、準決勝に向けての集中力と気合いをグンと高めていった。



     * * * * *



   ~~~Bコート。男子団体組手準決勝。赤、県立柏沼高校! 青、県立牛頭高校!~~~


 いよいよ、ここを勝てば日新学院との頂上決戦となる。インターハイに行くためには、絶対負けられない思いは誰も同じだ。


「男子、無事に準決勝まで勝ち上がってきたね! 相手は県東地区の県立牛頭かぁ。アタシ、あんまり印象にないのよねぇー」

「牛頭は女子部が無いから、私たちは縁の無い相手だしね。主将の鈴木ってのだけが、ちょっとあの中でも雰囲気がなかなか頭一つ抜けてるね。ありゃ、強そうだわ」

「でもさ菜美、他のやつもたぶん侮れないよ。ここまで勝ち上がってきたんだし」

「そうだね。さて、誰が誰と当たることやら・・・・・・」


 最近になって団体を組めるまで復活した県立牛頭高校空手道部は、茨城県との境に位置するためか、練習試合を茨城県や福島県の強豪とよくやっているそうだ。

 情報があまりない選手が多いので、これは油断ならない。

 その注目のオーダー発表が、係員によって行われた。


先鋒   赤 柏沼  神長道太郎 ―  青 牛頭  本場政近

次鋒   赤 柏沼  中村陽二  ―  青 牛頭  堀江 涼

中堅   赤 柏沼  田村尚久  ―  青 牛頭  平野友松

副将   赤 柏沼  前原悠樹  ―  青 牛頭  斎藤有志

大将   赤 柏沼  井上泰貴  ―  青 牛頭  鈴木雄次郎


   ワアアアアアア   ワアアアアアアアア


「「「「「 ぎゅうとうこうこうー ひっしょーうっ! 」」」」」


 牛頭陣営が、湧きに湧く。その声の雨あられの中、先鋒の神長はメンホーを冷静に装着。


「神長君。先鋒の相手、だいぶ背が高いからリーチ差には気をつけて」

「まず一勝を景気よく頼むぜ、道太郎! なるべく俺までは回らないようにしてね」

「おれも次に控えている。先鋒だからと気負いすぎず、安心して戦ってくれ」

「ま、主役は牛頭じゃない。俺たちだからねぇー。自由に暴れてきてくれよぉ神長ー」

「だっはっは! そうだなそうだなっ!! よぅし! いっちょ、やってやらぁ!」


 神長はメンホーを掌でばしんと打ち、足で数回床を叩き、帯を締め直しながら勢いよくコートへ入った。


「「「「 ファイトォーッ! 」」」」

「勝負! 始め!」

「「 さああぁぁーっ! 」」


   ダダァン!  ダッ ババッ シュバシッ! バシイィッ!


 開始から五秒以内で、お互いの技が数発交錯する。

 神長の上段突き。相手の上段突き。お互い同時に放つ蹴り。どれも決め手にならず、コート内を動き回り、両者が激しく鎬を削り合う。


「(さすが、突っ込み型! 準決勝くらいの相手ともなると、これくらいは普通か・・・・・・)」

「(柏沼の神長。打ち技だけでなく、突き蹴りどちらも迅いな!)」


 試合時間、一分経過。まだ、両者ポイント譲らず0対0。


「せあああああーっ!」


   バシュウンッ!


「止め! 赤、中段蹴り、技有り!」

「「「「「 いいぞぉ! 神長せんぱぁい! 」」」」」

「「 道太郎! ナイス中段蹴り! 」」


 相手が横にステップしたところを、神長がタイミングを合わせて放った右中段回し蹴りが見事にヒット。まず技有りを先制し、試合の流れをつかんだ。


「続けて! 始め!」

「うおっしゃああぁぁい!」


   シュタタタッ バシュウンッ!


「止め! 青、中段突き、有効!」

「(くっ!・・・・・・あんな遠い間合いからも飛び込めるのか)」


 相手が速攻で仕掛けた中段逆突きは、なんと神長の射程距離を超えたところから届いた。

 手足の長さを活かした長距離攻撃だ。


「どああああーーーーーっ!」


   ドガアァッ!


「止め! 赤、忠告! 当てないように!」


 神長が放った上段突きはうまく相手の出鼻をカウンターで捉えたかに見えたが、深く入りすぎてしまい、忠告。

 有効か反則打かが見た目ギリギリだったが、相手がよろけてしまったために主審は当てすぎと判断したようだ。技としては見事だったが、ルールとしては惜しかった。


「せああああーっ!」

「ああいしょぉい!」


   ズバババァン ババッ  バババッ ダダッダァン!


「止め! 青、中段蹴り、技有り!」


   ピー! ピピーッ!


「止めっ! 青の、勝ち!」


 健闘むなしく、神長は追いつくことが出来ずに惜しくも2対3の僅差で敗れてしまった。

 あの忠告が勝負の分かれ目だったようだ。


「なんてこった! 先鋒の道太郎、負けちゃったよ。アタシの見た目では、もっと攻められそうだったけど、相手のプレッシャーもなかなかだったということか」

「まずいですね、川田先輩。準決勝で先鋒落とすのは、流れが・・・・・・。でも、中村先輩が取り返しますよきっと!」

「だね! 恭子、声出すぞっ!!」

「はい!」


    ワアアアアアアア  ワアアアアアア


「「「「「 ぎゅうとう! ぎゅうとう! ぎゅう! ぎゅう! ぎゅうー 」」」」」

「「「「「 ぎゅうとう! ぎゅうとう! ぎゅう! ぎゅう! ぎゅうー 」」」」」


 川田と阿部が声を張り上げようとした瞬間、牛頭陣営からは不可思議なリズムの声援が多数飛んできたのだ。


「なっ、なんだあの声援!? 変わってんなぁ、あっちさん。アタシにはよくわからん応援だ・・・・・・」

「かしぬま、かしぬま、かしかしかし、って言うようなもんですよね?」

「真波、私らもやる?」

「やんないよ、そんなダサいの! よし、アタシらもいつも通りの応援で、もっと声出すぞ! ファイトー、男子!」


 試合を終えた神長は、ものすごく悔しそうに天を仰いで、一言「すまない」と告げた。

 その姿は、まるで、釣り上げる直前で大物の魚を逃がしてしまった釣り人のようだった。


「ぬおおぉ・・・・・・。1ポイント差で敗れるのは、大差よりきついな。くっそぉ!」

「なぁに、神長はよくやった。だいじだー。中村が取り返してくれっから!」

「そうだよ、大丈夫だから。あとは、次鋒の中村君に委ねようよ」

「ごめんな陽ちゃん。なんとか、頼むよ・・・・・・」

「まかせろ。さくっと斬り伏せてくる! 井上、眼鏡を、持っててくれないか?」

「あいよ! あずかっとくぜ」


 中村は眼鏡を外してメンホーをかぶり、田村たちは肩や背中をパンパン叩いて送り出す。


「「「「 ファイトォーッ! 」」」」

「勝負! 始め!」

「さああーっ!」


 中村はいつものように、力みのない自然体で構え、今までよりもややテンポの速いステップで動く。

 それに対し、相手は大きく前後に開いた足幅で、振り子のようなリズムを刻む。


「(ふん。これは読みやすいリズムだ!)」


 にやりと笑う中村。そこへ、相手が一気に突っ込んでくる。


「おああっしゃ・・・・・・」


   ヒュラッ ・・・・・・ズパアアァン!


「止め! 赤、上段突き、有効!」

「「「「「 ナイス上段ーっ! 」」」」」


 しかし、相手が動いた瞬間にはもう、中村の拳は相手の上段を捉えていた。


「相変わらず、中村は目が良いね。今のは完全にドンピシャのタイミングだったよ」

「菜美のカウンターと中村のカウンター、どっちもアタシは一級品だと思ってるよー」

「あの相手なら、カウンターで対処しきれそうだね」

「そうだね。これは相性が良い相手だ。中村ぁ、その調子! ファイトー」

「「「「「 中村せんぱぁぁい! ファイトでぇす! 」」」」」


 女子メンバーも、観客席から声を揃えて応援し続けている。


「止め! 赤、中段突き、有効!」

「止め! 赤、上段突き、有効!」


   ワアアアアアアアーッ  ワアアアアアアーッ


 中村のカウンターが面白いように決まってゆく。それでも相手のリズムは変わることなく、また大きくステップを踏んでいる。試合時間はあと三十秒ほど。


   ~~~三十秒前です!~~~


「あとしばらく!」


   ・・・・・・ぴたりっ


「(なにっ!?)」


 ここで、相手はまったく仕掛けてくる気配がなくなった。電光掲示板に記された試合時間は残り二十三秒だ。ポイントは中村が3ポイント、相手は0ポイント。


「(止まった? ・・・・・・なんだ? 諦めちまったのか?)」


 相手の不可解な動向に、中村もやや動揺している。


「中村! 自分から自分からー! 決めちゃえ! 迷う必要ないねぇー」

「陽ちゃんはこのまま待っても勝てるが、なんなんだこの相手は? このままじゃ相手は負けるだけなんだが?」


   ・・・・・・ダダァン! バババッ


 残り十六秒で、相手がいきなり動いた。思いっきり踏み込み、上段突きのフォームに入るところなのか、左肩と左肘をぐいっと大きく溜めるモーションを見せている。


「(上段刻み突きか! もらった!)」


   ギュンッ!


 中村は相手のモーションを察知して、中段逆突きをカウンターで返す姿勢に既に入っていた。

 カウンターの専門家にとっては、大きなモーションを見せてくれるということは、技を返すには絶好の合図だ。

 

   ・・・・・・パシャアアアァァァンツ!


 その時、副審の青旗が一斉に三本きれいに真上へ揚がった。


   ウワアアアアアアアアアッ   オオオオオオーッ


 「止め! 青、上段蹴り、一本!」


 迎撃態勢で腰を深く落とした中村の左側頭部に、普段なら中段の高さで上段回し蹴りが入ってしまった。先程の大きなモーションは、中村の姿勢をあえて低くさせるためのフェイントだった。


「(な、なんてこった! やらかしちまった! く、くそっ! おれとしたことが・・・・・・)」


   ピーッ! ピピーッ!


「引き分けっ!」


 団体組手では、個人戦のように判定や延長戦はなく、同点の場合は引き分けとなる。

 終了間際、相手の巧みな駆け引きにより中村はポイントが追いつかれてしまい、3対3で引き分けになった。


「ちくしょう! 油断した。最後の最後で誘い出されてしまった・・・・・・」


 中村も神長と同じく、天を仰いで戻ってきた。前原と井上は「なんとか流れを取り戻さなきゃ」と焦っている。田村は「だいじだー」と、飄々としたいつもの顔だが。

 手に汗握る準決勝戦。男子メンバーは一敗一分で、これから中堅戦を迎える。


   ひょおおおぉぉぉ  ひゅううぅぅー


 県北体育館を、夏では珍しく山から吹く北の風が包む。

 会場の窓からは、その涼しい風が大量に流れ込んできていた。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 私の時代は、空手部のある高校は少なかったように思います。 本当に羨ましい! 試合の行方が気になりますね!
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