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青春空手道部物語 ~悠久の拳~ 第1部  作者: 糸東 甚九郎 (しとう じんくろう)
第3章 ほのぼの日常から・・・
19/80

19、柏沼高校生の日常

 楽しい中にも真剣な会話が飛び交う反省会。

 森畑と川田はドリンクバーのサイダー系飲み物をブレンドし、交換しながら一緒に味わっている。


「尚久。そういやさ、今年のインターハイってどこでやるんだっけ? 千葉だったっけ?」


 井上は、しらばっくれて川田の頼んだ料理を食べながら、田村へ問いかけた。


「そりゃ国体じゃなかったか? インターハイって、各県開催でやるのって今年が最後だったような。どこだったかねぇー? 来年度からは確か、各地方ブロック開催なんだよねぇー」

「どらっ。二人ともちょいと待ってみ? 見てみるからな!」


 神長は携帯を出し、ささっと検索して調べた。すると、その画面には・・・・・・。


   ――― 青空届く皆の声 わきでる闘志が夏に燦めく  美ら海沖縄総体2010 ―――


「「「「「 お、沖縄だったぁぁっ! 」」」」」


 部員一同、目が輝く。インターハイの各県別開催は今年で最後。翌年からは地方ブロックごとの開催に切り替わるのだ。

 その区切りの節目となる開催地はなんと、空手発祥の地、沖縄県。

 部員の中では、修学旅行などでもまだ誰も行ったことがない、栃木から遙か遠くの日本の南国リゾート地。ちなみに次年度は、青森県を中心としての北東北ブロックでの開催らしい。


「なになに! インハイ、沖縄なの? アタシまだ沖縄行ったことない!」

「私、勘違いしてた。青森だと思ってたけど、そりゃ来年だったか」

「これは・・・・・・団体で出られたら、みんな沖縄行けるぜ! やったな道太郎! 先生、そうっすよね? 沖縄、全員行けますよね?」

「まぁー、部費との絡みもあるけど、県の高体連から遠征助成金が出るだろうから、それを足せ

ば、なんとかみんなで行けるかもしんないね」

「うおっしゃぁ! いいぜ! 沖縄かー!!」 

「ちょっと井上!! アタシが頼んだやつじゃん! 食べないでよー!!!」


 井上は、さらにハイペースで料理を頬張ってゆく。


「ただ、出られたらの話だからね? まずは予選通過して、それからだ。狸の皮算用にならないようにしなきゃ」

「そうですね。インターハイは、団体は予選で優勝した学校のみ。個人は二位までしか行けないしね。春季大会の時よりも、狭き門だね」

「そうだねそうだねー。インハイ予選は、厳しいもんね」


 井上を諭す早川先生の言葉に、松島と新井も頷いている。


「あ、そうそう。それで、今年の要項に書いてあったけど、女子に関しては個人組手は等星の朝香選手、個人形も等星の諸岡選手が去年のインターハイを優勝してるから、今年は前年度優勝者枠のほうでその二人は推薦決定してるらしいぞ」

「え! じゃあ、アタシ達の種目って、県代表の枠というか、そこらへんはどーなんのかな」

「朝香朋子と諸岡里央は、別格ってことか。インハイの出場枠、確かにどうなるのかな」


 川田と森畑は、神妙な表情。


「まぁ、その選手達は県の予選大会はあくまでひとつの大会として出るだろうけど、インターハイの切符は、等星の朝香選手と諸岡選手以外の上位二名へさらに与えられるってことらしいね」


「「 !!! 」」


 森畑と川田の目がキリッと大きく輝いた。

 あの絶対女王である朝香朋子と、昨年度のインターハイ個人形女王の諸岡里央「以外」の二名に出場権が与えられると言うことは、勝ち上がればインターハイ出場の可能性がこれまでよりぐっと上がるということ。二人は、静かに今、燃え始めていた。


「インハイ予選、どんな組み合わせが来るかはわかんないけど、残り一ヶ月でみんな強化して、今度こそひっくり返してやろうじゃないの! アタシ、中間テストはもう捨てるー!」

「空手道発祥の地、沖縄か。行ってみたいなぁ。これは、勉強だのテストだのやってる場合じゃないですよね先生? 私ら、去年の修学旅行、広島→大阪→京都でしたもん。沖縄いかなきゃ!」


 既に意識が沖縄へと向いている川田と森畑に、早川先生は「やれやれ」といった顔。


「いや、勉強もテストもきちんとやってくれ頼むから。『早川先生! また空手部は』とか他の先生に怒られたくないんだよぅ。それと、川田はまず足を完治な。森畑はもう少し学力上げなきゃなぁ」


 女子二人は、早川先生にぐいぐい詰め寄られ、ものすごく困り果てている感じの顔に変わった。

 確かに、一応受験生なので中間テストは捨ててはだめだろう。だめではあるのだが、インターハイともなればそこまでの気持ちになるということか。


「うーん、いいねいいねー。インターハイ沖縄なのかぁ。南国だねー。いいねー」

「新井君、夏のボーナスから沖縄行く費用、積んでおかない? 一応」

「そうだねー。そうしようそうしよう。みんなで行けるといいねー」

「新井さん。これ、『ピータンの鰹節醤油ソース』食べました? うまいっすよ! ほれ、尚久も食ってみ」

「んー・・・・・・。もちっと美味いの知ってる!」

「井上、食いすぎ。もーちっと考えて食わないかねぇー」

「新井先輩、アタシ、中華クラゲ大好きなんですけど、ここのより美味しいのって知ってます?」

「んー・・・・・・。もっと美味いの知ってる!」


 メンバーはみな、春季大会の反省会で新たな目標「沖縄インターハイ出場」ができた。

 約一ヶ月後に控えたその予選会に向けて、みな気が引き締まった。

 前原は「沖縄、行けるといいな。行きたいな」と呟く。その横で、神長が「沖縄で焼くぞー」と叫んでいた。

 そんな中、中村は静かに「それにしても、新井先輩がもっと美味しいの知ってるというのは、どこだ!」と腕組みをして考え込んでいた。

 


     * * * * *



「はーい、解答用紙を回収! 学級委員、号令!」


 中間テストは、文系の前原、川田、森畑、田村の四人は英語が赤点だった。こりゃまずいということで、放課後、居残り追試を終えてなんとか中間テストはクリア。井上はなんと、日本史で満点を取っていた。

 理系の神長と中村は、数学や物理で驚異的な高得点を取ったようだ。

 

「沖縄行くことばかり考えてたらさ、アタシ英語よりも『めんそーれ』の沖縄言葉を覚えるのが優先になってたんだもん」


 川田は追試後、前原と田村に意味不明なことを言ってきた。よほど沖縄に行きたいようだ。


「めんそーれって、沖縄の言葉だっけ?」

「そうだよ田村君。川田さん、英語はダメなのに沖縄言葉はだいじなんだね・・・・・・」

「だってさ、もう、そういう自己暗示かけなきゃ! アタシは絶対、沖縄いくんだーっ!!」

「すげぇテンションだねぇー川田は。まずは、インハイ予選までに、ケガを治さないとねぇー」

「わーかってるってば! アタシは、負けないのっ!」

「はいはい。それよりもとにかく、追試でクリアできてよかったよね」

「前原のノートがだめだから、アタシもテストだめだったんだからね!」

「だからぁ、川田さん!? 僕のノートのせいにしないでよー」


 放課後は、テストの話題で三年生たちは盛り上がっていた。


「井上。文系メンバー、盛り上がってるじゃないか」

「まーったく、しゃーねぇよな! みろよ、俺の日本史の成績を!!」

「だははっ! 聞いたぜ聞いたぜ? そっちは何かと大変だったんだってなぁー?」

「聞いてよ理系のお二人さんー。アタシ悪くないのに、前原ったらね・・・・・・」


   わいわい  がやがや


「ねぇ田村? とりあえず真波と前原はほっといて、明日からはさ・・・・・・」

「そうだねぇー。森畑お察しの通り、明日からは体育大会。みんな、はしゃいでケガしないようにしないとねぇー」


 テストも無事に終わり、明日からは校内体育大会が二日間行われる。

 種目は全学年クラス対抗のサッカーやバスケ、バレー、卓球などがあり、昼食後に大縄跳びという、食後に胃下垂になりそうなきつい競技もある。大半の人が、跳びすぎて気持ち悪くなるのが恒例だ。



     * * * * *



     ざわざわざわ  わーわーわーわーわー


 体育大会も大詰め。最後はアトラクション種目の「部活動対抗リレー」で締めくくられる。

 各部から四名選抜し、それぞれの部の特徴を前面に出した姿と、特有の何かをバトン代わりにするユニークなリレーだ。

 空手道部は当然、道着に裸足。そしてメンホーがバトン代わり。井上、前原、森畑、二年生の阿部の順で四人出る。


「よぅし、これで体育大会も最後だ。とことん楽しく走ろうぜっ!」

「井上君、張り切ってるね。第一走、たのむよ!」

「真波も、足痛めてなかったら走れたのにね。代わりに恭子が頑張るからね!」

「なんということだ。走りたかったぁ。朝香朋子の足払いの呪いが、こんなところにまでとは」

「川田先輩の分まで一生懸命走りますんで! 先輩方、見てて下さいね!」

「いいぞぉ。空手道部の元気良さを、思いっきり発揮してやるといいんじゃないかねぇ」


 田村は今回、体育大会の実行委員のため部活対抗リレーには出ない。その代わり、放送部と共に実況担当をやるんだとか。


   ~~~ ただ今より! 部活対抗リレーを開始します! 各部、用意して下さい! ~~~


 校庭のトラックには、各部、見事なまでに「本職」の装いをして並んでいる。

 井上はメンホーを抱えたまま野球部と美術部に挟まれ、なにやら威勢良く話しているようだ。

 その隣では、茶道部長である生徒会長が、微妙な表情で佇んでいた。


「ふっふっふ、今年こそはウチの部、空手部越えをしてやるわ! このために猛特訓したのよ!」

「なめんな美術部! 常日頃、厳しい稽古を積んでる俺らが、負けるわけないだろーが!」

「空手部も美術部も勝手に争ってやがれ。うちら野球部が、本物の運動部としてのポテンシャルを見せてやんぜ! 今年は秘策ありだ!」


 美術部と火花を散らす井上の間に割って入ってきた野球部。

 その姿を見て、井上が異議を申し立てた。


「待てよおい、野球部! なんで今年はバトンがバットなんだ? 長ぇし、ずるいじゃないか!」

「剣道部だって竹刀だし、いいだろうが! 弓道部なんか見ろ。弓がバトンだぞ!」

「・・・・・・あいつら、ずるいな。てか、弓は反則だろ弓道部! 剣道部も、面持てよ!」

「いいだろ、これが部の象徴なんだから。空手部こそ、空手なんだから、手でタッチしろよ?」

「だいたい、茶道部も長い柄杓とか、ずりぃ! くっそぉ。武器はねーのか、空手はぁ!」


 第一走者である井上は、どう見ても周囲の部と大荒れにモメているように見える。

 並んでいる他のテニス部やパソコン部、料理部にフィールドホッケー部などは、みんな苦笑い。

 麦茶配給コーナーのテントにいる中村、川田、神長の三人も、タオルを首に巻いて呆れ顔。


「いったい・・・・・・何をやってるんだ、泰ちゃんは?」

「さぁ。アタシにもよくわからんが、なんか、もめてるね・・・・・・」

「まぁ、下らんことだきっと。本気でケンカしてるわけじゃなさそうだがな。やれやれ、おれが出ればよかったかな」


   ~~~ 位置について! 用意! スタート! ~~~


「とりゃああああああーーーーー」


   ~~~ おおっと! まずトップに躍り出たのは美術部だ! これは速いぞ! ~~~


「「「「「 な、なんだ美術部ー? 」」」」」

「ふざけんな、漫画じゃあるまいし。・・・・・・くそっ。お、追いつけん!」


 予想外の展開。各運動部は、誰も美術部のロケットスタートに追いつけない。

 そして、そのまま追いつけずに第二走者へ。

 井上は十五部中、五位で前原へ繋いだ。順位は美術部、弓道部、剣道部、陸上部、そして空手道部だ。その後に料理部とバスケ部が迫る。


「はぁ、はぁ、はぁ・・・・・・。ゆ、悠樹! あの謎の美術部を止めろーっ!」

「まかしといて、井上君。・・・・・・美術部ー、停まって下さいよぉー! お願いします!」


   ~~~ 美術部を空手道部が猛追! 前原大先生、陸上部と剣道部を抜いたぞ! ~~~


「なんだ、田村のあの奇妙な実況は・・・・・・。前原大先生って・・・・・・なに?」

「たまにあいつ、よくわかんないこと言うよな・・・・・・」

「道着の時とキャラが違うよな。尚ちゃん、放送部のマイク奪って独占してるぞ・・・・・・」


 前原は必死に走り、森畑へメンホーを投げるように手渡した。

 そして、森畑からアンカーの阿部にメンホーが渡ったとき、ほぼ同時に弓道部と料理部が並んでくる大混戦の末、空手道部は四位という結果で楽しいリレーは完走された。

 こうして、あっという間に中間テスト期間から校内体育大会の時間が足早に過ぎ去っていったのだ。

 時は待ってはくれず、どんどんと、インターハイ予選に向かって流れてゆく。

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