表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黄金のドラグレイド  作者: 雨蛙
第4章 獣王国ガルガンシア
92/106

第13話 歪められる純情

 コハルが初めてガレルに会ったときに抱いた印象は、大きい人、だった。

 佑吾やライルよりもガシッとした体で、自信満々な様子はまるで群れのボスみたいで格好良かった。

 その後、佑吾からガレルと仲良くして欲しいとお願いをされた。

 そう言えば、群れのボスはみんなから怖がられちゃうから友達が作りにくいと、前の世界のお散歩友達のハナちゃんに聞いたことがある。

 なら、自分が友達になってあげよう! ちゃんとできたら、きっと佑吾も褒めてくれるよね?

 実際にガレルと話してみると、とても優しい人だった。

 佑吾みたいに優しく話しかけてくれるし、美味しいご飯やお菓子をいっぱい食べさせてくれる良い人だった。

 こんなに優しいのに、何で友達がいないんだろう?


 そして今日、佑吾たちから今日がガレルと仲良くする最後の日だと教えられた。

 ちょっと寂しいけど、自分たちはエルミナを龍王国ってところに連れて行かないといけないから、ここにはずっといられないみたいだ。

 だから今日はいっぱいお話をしよう!

 そう思っていると、あっという間に夕暮れになった。

 みんなの元に帰ろうとしたら、ガレルから夕日を一緒に見ないかと誘われた。

 みんなと旅をしているときに何回も見たことがある。すごく真っ赤でキラキラしていて綺麗だった。

 ガレルと一緒に見たら、きっと良い思い出になる!

 そう思って、私はガレルと夕日を見るために、一緒にお城の一番高いところまで来た。

 夕日はすごく綺麗で、下に見える町も夕日でキラキラ輝いていて本当に綺麗だった。

 これはきっと良い思い出になる。そう思っていたら――


 「コハル、我はお前のことが好きだ。これからもずっと、我の隣に居てくれないか?」

 「えっ……?」


 ――ガレルから好きだと言われた。

 突然の言葉に、コハルは固まった。

 驚くコハルをよそに、ガレルは言葉を――告白を続けた。


 「念のために言っておくが、友人としての好きではないぞ。異性として、我はコハルが好きだ。コハルに、我のつがいになって欲しいのだ」

 「つ、番い?」

 「そうだ。コハル、お前の返事が欲しい。我の番いになってくれるか?」

 「え、ええっとぉ……ええっとぉ……」


 コハルの頭は混乱していた。

 人生、いや前の世界で犬だった頃の生涯を含めても、これが人生で初めての求婚だった。

 顔がカァーっと熱くなり、頬が赤く染まる。

 よく分からないが、何だか気恥ずかしい。

 ガレルは優しくて良い人だ。

 自分の家族みたいに、一緒にいると楽しい人だ。

 もし、ガレルと番いになったらどうなるんだろう?

 想像すると、ガレルや王宮の人たちと楽しく笑い合う日々が、コハルの頭に浮かんだ。

 それは、とても優しく暖かな光景だった。こんな素敵な光景の中で過ごせたら、とても幸せかもしれない。


 そこで、コハルははたと気づいた。

 その光景の中に、自分の大好きな家族の姿が無いことに。

 当たり前だ。みんなはエルミナのために龍王国を目指して旅をしている。もし、自分がガレルと番いになり、獣王国に残ることになったとしても、みんなは旅を続けなければならないのだ。

 ガレルと番いになれば、大好きなみんなと離ればなれになってしまう。

 コハルがその事実に思い至ると、先ほどの暖かな光景は途端にモノクロで寂しいものへと変わってしまった。

 ――私はみんなと、佑吾たちと一緒にいたい。

 告白への返事が決まった。


 「ガレル……ごめんね、私はあなたの番いになりたくない」

 「っ…………理由を、聞いてもいいか?」

 「番いになったら、みんなと離ればなれになっちゃうから……私、佑吾たちと一緒にいたいから……だから、ごめんなさい」


 コハルがそう言うと、ガレルは悲しげな表情のままうつむいた。

 二人の間で、重い沈黙が漂う。

 どのぐらいそうしていたのか、ガレルがうつむいていた顔を上げて、ぎこちない笑みを浮かべた。


 「……その理由ならば、仕方ない、な」

 「ガレル……」

 「一週間、我のわがままに付き合ってくれたこと、そして我の告白に真剣に返答してくれたこと感謝する。コハル、お前と出会えて良かった」


 そう言って、ガレルは優しく微笑んだ。

 正直に言えば、ガレルの中でまだショックは抜けきれていなかった。

 気を抜けば、足に力が入らず、そのまま崩れ落ちてしまいそうだった。

 だが、自分の目の前で、申し訳なさそうな顔をするコハルに、これ以上気を遣わせたくなかった。

 それがフラれた男にできる、最後の矜持だった。 

 風がヒュウと吹き、その冷たさにコハルが身震いする。

 辺りは、いつの間にか暗くなり始めていた。


 「日が落ちるとここは冷えるな。コハル、もう部屋に戻った方がいい」

 「……うん、分かった。じゃあね、ガレル」

 「ああ、じゃあな」


 王宮内へと戻るコハルの背を、ガレルは寂しげに見送った。




 コハルと別れた後、ガレルは執務室へと戻り、レオルドにフラれたことを伝えた。

 レオルドは「そうか」と呟くと、どこかから大量の酒瓶と、幼なじみのオーレルを連れてガレルの元へと持ってきた。

 そうしてレオルドが勧めるままに、ガレルは人生初のヤケ酒というものをやってみた。

 最初は静かに酒を飲んでいただけだったが、酒が進むにつれて心のタガが緩くなり、感情のままに後悔を口にした。

 何がいけなかったのか、どうすれば上手くいったのか、答えの出ない問いをレオルドとオーレルに愚痴り続けた。

 二人とも言葉を挟むことなく、静かにガレルの話を聞いてくれた。

 そのヤケ酒は、レオルドが持ってきてくれた酒瓶が全て空くまで続いた。


 「ふぅ…………」


 自室へと戻ってきたガレルは、ベッドに仰向けに寝転んだ。

 あれだけ大量の酒を飲んだというのに、何故か眠くない。

 アルコールで鈍った頭に思い浮かぶのは、コハルの顔だった。

 自分がこんなに未練がましいとは、ガレルは自嘲した。


 「今まで我が求婚を断った令嬢の中には、今の我と同じ気持ちになった者がいたのやもしれぬな……」


 今まで自分に求婚をしてくる女は全て、自分の地位や財産が目当てだと思って、冷たくあしらっていた。

 しかし、もしかしたら真摯に自分を思ってくれた人もいたのではないだろうか。

 そんな人に、自分はコハルのように真剣に返答するでもなく、どの女も一緒だと適当に断っていた。


 「一体何様だ、バカ野郎……」


 自己嫌悪で胸の中が苦くなる。

 こんな奴フラれて当然だ。ガレルは心の中で、自分を罵倒し続けた。


 「……コハルにフラれたことは悲しいが、良い契機だったのやもしれん。今までの傲慢な振る舞いを反省して令嬢たちに謝罪し、真摯に向き合おう。コハルとの良き思い出は……我の胸の中に秘めるとしよう……」

 「あらあら~? それはいけませんね~?」

 「ッ誰だ!?」


 ガレルの独り言に返事をするように響いた見知らぬ女の声に、ガレルは誰何の声を上げた。

 体をガバッと起こして、警戒しながら室内に視線を巡らせる。 

 すると、部屋の奥の暗がりから滲み出すように、真っ黒な修道服に身を包んだ人間の女が姿を現した。その修道服の胸の部分には、龍の紋章があしらわれていた。


 「お初にお目にかかります、獣王国の王、ガレル・ディー・ローエン・ガルガンシア陛下。私、正神教団でシスターを務めております、キュリー・ロマンシアと申します。以後、お見知りおきを」

 「正神教団……? リートベルタでテロを起こした、あのカルト共か!!」


 女が口にした組織について知っているガレルは、警戒心を最大限に引き上げ、臨戦態勢に入った。


 「外の警備兵はどうした?」

 「邪魔をされては困りますので、少々眠っていただいております」

 「邪魔だと? 貴様、何をするつもりだ」

 「私は、この国に愛の素晴らしさを説くために参った次第です」


 キュリーの言っていることが分からず、ガレルは怪訝な表情を浮かべる。

 もう捕らえて、話は牢屋で聞くか。そう行動に移ろうとしたガレルに、キュリーが淡々と話し続けた。


 「申し訳ありませんが、先ほど陛下の独り言を聞かせていただきました。せっかく芽生えた愛を諦めてしまうなど、愛の教えを広める者として見過ごすわけには参りません」

 「さっきのをき、聞いていたのか!? 貴様には、関係の無い話だろう!?」


 思い人にフラれ、グチグチと独り言を言っていたのを見知らぬ人間に聞かれてしまった羞恥心で、ガレルは酒とは別の原因で顔を赤くしながら吠えた。

 その際、ガレルは無意識に警戒を緩めてしまった。

 予想外の話に動揺したことと、目の前の女から明確な危険が感じられなかったことが理由だ。

 この前に、酒を大量に飲んでいたのも原因の一端かもしれない

 とにもかくにも、ガレルは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()の前で警戒を緩めてしまったのだ。


 「あなた様はその女性の事を心から慕っていたのでしょう? それなのに諦めてしまうのですか?」

 「それは……我だって諦めたくない。だが、コハルの意思を尊重しなくては……」


 目の前の立つ女を先ほどまで警戒していたはずなのに、ガレルは素直に自分の思いを打ち明け始める。

 ガレルの言葉に、キュリーはうんうんと頷きながら言葉を続けた。


 「なるほど、あなた様はそれほどまでにそのコハル様を愛していらっしゃるのですね」

 「……ああ、そうだ。我は、コハルのことが好きだったのだ……」


 キュリーの言葉が、ガレルの耳にするりと優しく入ってくる。

 彼女の声を聞いていると、夢見心地で体がふわふわとするようだった。どことなく安心するような……

 キュリーが優しく微笑み、話を続ける。


 「ならば、尚のことあなた様はその方を手放してはいけません」

 「…………なぜだ?」


 キュリーが一歩、また一歩とゆっくりガレルに近づいてくる。

 見知らぬ人間の女が近づいてくると言うのに、ガレルはそれを止めること無く、ぼんやりと焦点の定まらぬ目で見ていた。

 ガレルは、キュリーの言葉の続きを聞きたいと思った。


 「その方――コハル様を一番愛しているあなた様こそが、コハル様を一番幸せにできるからです」

 「………………我が……コハルを……幸せに……」

 

 霞がかかったようにぼんやりとした頭で、ガレルはキュリーの言葉を反芻した。

 キュリーの言葉を聞けば聞くほど、何故かガレルの意識は遠のいていった。

 それなのに、不思議と気分は悪くなく、キュリーの言葉が頭の中にじんわりと染みこんでいく。

 そうだ。我ならコハルを絶対に幸せにできる。

 だが……それでいいのだったろうか。


 「何も思い悩むことはありません。あなた様はコハル様を傷つけるためでも、悲しませるためでもなく、幸せにするために行動なさるのですから。さあ、芽生えた愛を諦めるなどという愚かな考えは捨て、コハル様をあなた様のお側に置き、お二人の素晴らしき愛を育んでいきましょう」

 「…………………………そう、だな。コハルと一緒に、愛、愛を育まなくては、な。」


 ガレルの頭の中で、キュリーの言葉がオーケストラのように響き、反響していく。

 そうだ。我は、コハルを幸せにしたいのだ。

 我にしか、それは、できんのだ。

 我がコハルを愛するのだ。愛して、愛して、愛して、愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛して愛し、て、愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛――


 「――そうだ、コハルを幸せにするために我が愛さなくては。ハッ、ハハッ、ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ」


 キュリーの言葉を聞き終えたガレルは、虚空を見つめて音の狂ったオルゴールのように笑声を響かせた。

 頭の中では、ただコハルを愛せ、という得体の知れない声が響いていた。

 ガレルの目にはもう、自分とコハルが仲睦まじく過ごす夢想しか映し出されていなかった。

 そんなガレルの豹変を見届けたキュリーは、満足げな笑みを浮かべた。


 「<催眠音ヒュプノリア>による洗脳が効いたみたいですね。ふふっ、この男がどんな愛を紡ぎ出すのか、仕事の傍ら見届けるとしましょうか」


 そう言い残して、キュリーは登場した時とは反対に、暗闇に溶けるようにガレルの自室を後にした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ