表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黄金のドラグレイド  作者: 雨蛙
第3章 正神教団
66/106

第28話 公都リーシェンにて

 市長モルドと会った翌日、佑吾たちは彼が用意してくれた馬車に乗り、リートベルタ公国の中心都市、公都リーシェンを目指した。

 道中、佑吾がひどい馬車酔いに悩まされたこと以外で大きな問題はなく、二日かけて佑吾たちは無事に公都リーシェンへと到着した。

 街中を馬車が駆け抜ける間、佑吾は馬車の中からリーシェンの街並みを眺めた。

 リーシェンは、古い煉瓦造りの家屋がずらりと並んだ街だった。

 佑吾たちが以前訪れた帝都ヴァルタールは、人々で賑わい、喧騒に満ちていたが、それに対してリーシェンは静かな街だった。

 しかしそれは、活気がなく寂れていると言うことではなく、歴史を感じさせるような落ち着いた静けさだった。


「すごく大きな街だねー!」

「あ、コハルお姉ちゃん、あっちに美味しそうなお店があったよ!」

「えっ! どこどこ?」


 エルミナとコハルが、窓から身を乗り出して街を見ながら、きゃっきゃと楽しそうに話している。

 コハルに至っては、自前の白い尻尾をブンブンと嬉しそうに振られていた。

 その柔らかそうな尻尾の先が、ペチペチとうたた寝しているサチの顔に当たり、時折サチが「むうぅ……」とうめいていた。


「もうすぐ大公城へ着きますよー」


 そんな三人の様子を佑吾が微笑ましく眺めていると、御者からそう告げられた。

 するとエルミナとコハルが視線を街から馬車の進行方向へと移し、「うわぁ……!!」と感嘆の声を漏らして、二人ともその瞳を輝かせた。

 二人の様子に釣られて、佑吾も反対側の窓から馬車の進行方向を見た。


「これは……すごいな…………!!」


 佑吾の目に飛び込んだのは、御者が先ほど言った大公城だった。

 まるで御伽話から飛び出したかのような荘厳な佇まいの石造りの城が、佑吾たちの眼前にそびえていた。

 やがて馬車は大公城へと近づいていき、城門へと到着した。

 門の左右に立つ見張りの兵士二名に御者が話しかけると、見上げるほど大きな両開きの門がギィィィと重々しい音を立てて開き、馬車を城の中へと招き入れた。

 馬車が門をくぐり抜けて城の入り口へと近づくと、入り口の前に立つたくさんのメイドと、そのメイドたちの前に立つスーツとベストをかっちりと着込んだ中年の男性が佑吾たちを待ち構えていた。


「佑吾様御一行ですね? 私は皆さんの案内を仰せつかった大臣のガストーニと申します。本日は大公城へとお越しくださり、誠にありがとうございます」


 馬車から降りた佑吾たちに、ガストーニとその後ろに控えるメイドたちが恭しく頭を下げた。


「え、ええと……」

「これはご丁寧にありがとうございます、ガストーニ殿」


 突然の過剰に丁寧なお出迎えに佑吾が困惑していると、ライルがすかさず助けてくれた。


「本日はこちらまでの移動でお疲れでしょうから、大公様との謁見は明日の予定となっております。本日は我々が用意したお部屋で、ゆっくりと旅の疲れを癒してください」


 ガストーニがそう言うと、後ろに控えていたメイドたちがそれぞれ自分の持ち場へと動き出して、佑吾たちをガストーニが用意したという部屋まで案内した。

 そう、部屋まで案内されたのだが──


「…………落ち着かない」


 ——その案内された部屋というのが、佑吾たちにとってあまりに豪華すぎたのだ。塵一つ落ちていない綺麗な部屋、一目で寝心地が良いことが伝わる柔らかそうなベッド、足が沈むのが分かるほどふかふかなカーペット、高級そうな絵画にツボ、とにかく部屋に高級品が溢れていた。


「気持ちは分かるが、そう緊張していたら疲れは取れんぞ?」

「そうは言いますけど……逆に何でライルさんは落ち着いていられるんですか……」

「年季の差だな」

「そんなのずるいですよ……」


 ため息をついて頭を抱える佑吾を見て、ライルが苦笑する。


「しかし佑吾、お前さんは何をそう緊張しているんだ?」

「何って……ライルさん、確認なんですけど、大公様ってこの国で一番偉い人ですよね?」

「ん? 何だ急に。そりゃそうだろう」

「ですよね……。その、俺は大公様みたいな身分の高い人に会ったことがなくて……。だから、何か粗相でもしてしまったらどうしようかと…………」


 粗相をして自分が捕まってしまうのは仕方がなくても、一緒に家族やライルさんまで捕らえられてしまったら──それが、佑吾の不安の種だった。


「なるほどな……だが、そう緊張せんでも大丈夫だろう。大公様も俺たちが平民だということは知っているだろうからな。そこまで、過度な礼儀は求めんさ」

「ああ、なるほど……でも、それでも緊張しちゃいますね……」

「それなら、詳しくはないが俺が簡単な作法を教えようか?」

「本当ですか!? 教えてください、お願いします!!」

「お、おう、すごい食いつきだな。それならついでだ、隣の部屋の三人にも教えるか」

(助かった……ライルさんは本当に頼りになるなぁ。でも、何でライルさんはお城の礼儀作法を知っているんだろう?)


 はたと浮かんだ疑問に、佑吾は考え込む。

 ライル・アルゴーという人物には、不思議な点が多い。

 一つはその戦闘能力だ。

 ライルが暮らしていたアフタル村では、狩りで森に入る者は魔物と遭遇する危険があるため、多少の戦闘能力が求められる。

 その中でライルは、他の狩人たちと比較して抜きん出た戦闘能力を有していた。辺境の村で暮らすには過剰と思えるまでに。

 しかも狩人が扱う弓よりも、剣を使った戦闘の方が得意というのも奇妙な話だった。まるで弓を扱うより前は、剣を振るっていたかのようだ。

 もう一つの不思議な点は、その知識だ。

 この世界における情報の伝達方法は、書籍や新聞の紙媒体か人による伝聞の二つが一般的だ。アフタル村のような田舎には当然新聞なんてものは来ないし、書籍は何度も読まれて擦り切れた古い本が数冊あるくらいだ。さらに村の外から来る人は、数ヶ月に一度訪れる行商人くらいしかいない。

 そうなると、必然的に村の知識水準は低くなる。

 それなのに、ライルは魔術や氣術に関する基礎的な知識や薬草の種類と効能、今回のような礼儀作法の知識まで幅広い知識を有しており、村人たちから頼りにされていた。

 彼は一体、どこでそんな知識を手に入れたのだろうか──


「──吾、おい佑吾」

「────わっ!? ど、どうしたんですか、ライルさん」

「どうしたも何も、アイツらを呼んで来たから、礼儀作法について教えるぞ。お前さんが知りたがっていたんじゃないか」


 どうやら佑吾が考え込んでいる間に、ライルがエルミナたちを呼んで来てくれたようだ。いつの間にか部屋に三人の姿があった。


「すみません……考え事してました」

「別に怒っとらんさ。さぁ、夕食前までには終わらせるぞ」


 そうして夕食でメイドに呼ばれるまで、ライルによる礼儀作法のレッスンを佑

吾たちは受けた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ