第11話 分かれ道の先で
時折休憩を挟みつつ、佑吾たちは探索を続けていった。
やがて、洞窟内で一番ひらけた広場のような場所に出た。広場の先には次の道があったのだが、その道は二つに分かれていた。
「みんな、聞いてくれ」
ライルが、魔物を呼び寄せないように、洞窟内に響かない程度の声で全員に呼びかける。
「ここから道が二つに分かれている。いつも通り、一つの道に二班ずつに分かれて探索していこうと思う。何か、問題がある奴はいるか?」
ライルが確認するように、全員をぐるりと見渡す。
「よし、問題ないようだな。もし対処できない事態に陥ったら、一旦この広場まで戻り、もう一つのグループに通信魔法を飛ばしてくれ。通信を貰った班は、急いでこの広場まで戻ってくる。班が合流し次第、どのように対処するか、俺がその場で指示を出す」
ライルの指示に、皆がしっかりと頷く。
魔物を討伐する際は、事前の準備と打ち合わせが非常に重要になってくる。
もし、一人が指示と違う行動をした場合、全体に危険が及ぶ場合がある。
この場に居る者は、その危険性を充分に理解している。だからこそ、ライルの指示を聞き漏らさないように真剣に聞いた。
その後、二班ずつに分かれて、それぞれ違う道へと進んでいった。
佑吾の班は、ライルの班とは別になった。
これには理由があり、今回討伐に参加している村人の中で、治癒魔法を使えるのが佑吾とライルの二人しかいないからだ。
またもう一つの理由として、先程ライルが言った緊急時に使う通信魔法が使えるのが、ライルとサチの二人しかいないというのもある。
「しかし、思ったより魔物の数が少なくてよかったな」
周囲に注意を払って歩きながら、一緒になった班の班長が佑吾に話しかけてくる。佑吾と同じく森の巡回を担当している人で、魔物との戦闘にも慣れているベテランだ。
「そうですね。ライルさんの見立て通り、洞窟の入り口が見つかってから、そう時間がたってなかったんでしょう」
佑吾たちが雑談していると、道の先から赤黒い肌をした小人が六匹、口から涎を垂らしてだみ声を上げながら、佑吾たちの方へと近づいてきた。
「赤小人か……ちょっと数が多いな」
隣にいる班長が、嫌そうにぼやく。
今進んでいるこの道は、ここにいる六人が広がって戦える程の広さはないため、戦いづらいからだろう。
赤小人という魔物は、体長が七十センチメートル程度と小柄であるため攻撃が当たりづらく、さらに数匹でまとまって行動し、一つの標的に対して集団で襲いかかる性質を持つ。
そのため現在の状況では、先頭に立つ誰かに赤小人 六匹が群がって襲いかかり、後ろにいる佑吾たちは通路が狭いため回り込むことが出来ず、襲われている人を援護しづらい、という難しい状態になり得る。
「一旦、広場の方に戻りますか?」
「そうだな、安全第一で行くか」
赤小人一匹の戦闘能力は、実はそこまで高くない。
一人が囮になって集団を引き付けている間に、他の者が一匹ずつ倒せば、大きな危険は無いだろう。
そう考えた佑吾と班長は、自分の班のメンバーに指示を出そうとした。
ブゥゥゥオオアアアアアアア!!
その直後、赤小人たちが来ている道のさらに奥、班員が持つ松明の明かりが少しも届かないその暗がりの奥から、腹の底にずしんと響くような、大音量の唸り声が佑吾たちの耳を突き破った。
「みんな、広場まで撤退だ!!」
隣にいる班長が、叫ぶように指示を出した。
班員たちも先ほどの唸り声の異常さを理解したため、素早く撤退行動に移り、来た道を走って戻る。
赤小人のだみ声を背中越しに聞きながら、佑吾たちは先ほどライルたちと分かれた広場まで辿り着いた。
「サチ、ライルさんに通信魔法を飛ばしてくれ!」
「分かってるわ!」
佑吾が指示するよりも早く、サチは通信魔法の準備に移っていた。
それを見届けた佑吾は、先ほどまで自分たちが通っていた道の入り口を注意深く睨み、武器を構えた。
ほど無くして、赤小人の群れが入り口から姿を表し、
「なっ……」
佑吾たちは、驚愕の声を上げた。
それも当然だ、赤小人の数が先ほどの二倍以上になっていたからだ。そして、赤小人の群れから遅れて、ぬらりと巨大な影が分かれ道の入り口から姿を現した。
「でけぇ……」
班員の誰かが呟く。ぽつりと呟かれたはずのその声は、なぜか佑吾の耳によく響いた。
やがて、その巨大な影の全貌が見えた。
体長は三メートル程、赤小人と同じような赤黒い肌に、筋骨隆々な体、そしてその右手には佑吾の腰回りよりも太い無骨な丸太を鷲掴みにしていた。
「赤巨人だと……!?」
佑吾の側にいた班長が、慄きながら呟く。
その名前に、佑吾は心当たりがあった。
実物を見た事は無かったが、以前ライルから、森の巡回の際に発見したら絶対に逃げるように言われた魔物の一つだ。
赤巨人は鋭い牙が並んだ口をガバッと開けて、再び咆哮した。
あまりの音の大きさに、その場にいた全員が反射的に耳を塞ぐ。
やがて咆哮が止むと同時に、赤小人たちが奇声を上げながら襲ってきた。




