無垢な問いかけ
年齢を重ねてある程度1人で出来るようになった頃、俺は保育園に入る事になった。
父さんと母さんは友達作りをしてほしいため、俺を保育園に入れた。
いつも2人が仕事に行く時は世永か近所のミサコおばさんが面倒を見てくれた。
なので、自分と近い年齢の友達はいなかった。
世永「ねぇー…、本当に保育園入れるの?」
勝貴「友達作りは重要だからな。」
世永「俺は樂の永遠の友達だよー?」
勝貴「お前は年齢を考えろ。同い年の子と楽しむことも知らないといけないだろ?」
世永「俺が精神年齢下げればいいの?」
勝貴「違う!」
大人同士で喧嘩してる。
樂「とうさん、おこらせないで。」
俺は父さんの足に抱き、世永を睨む。
世永「怒らせてないよ!勝手に怒ってるの!」
世永が笑顔でそんなことを言い、俺の頭を撫でようとする。
俺は今は撫でられたくない気分だったので、その手を叩く。
勝貴「樂!ご機嫌斜めなのか?」
父さんはそれを見て、大笑いしながら俺を抱きかかえる。
世永「なんでだよー!いつも撫でさせてくれるじゃーん!」
世永の目が潤み出す。
榮「ちょっと、玄関でうるさいよ!」
母さんがいつもより赤い唇でやってきた。
世永「樂が俺のことを叩いたの!」
勝貴「俺のこと怒らせたから、樂は怒ってるんだよなぁー?」
樂「うん。」
世永「怒らせてない!」
榮「ご近所さんに迷惑だから、とりあえず保育園向かおう!」
みんないつもよりピシッとした格好で一度訪れた保育園に向かう。
暖かい陽気の中、桜が吹雪く。
世永「もうだいぶ桜が散ってるよ。昔はこのくらいから咲いてたのにね。」
榮「最近は春になるのが早いからね。」
俺は桜の花びらをつかもうとするが、全く取れない。
父さんは俺がどこかに行かないように、手をしっかり握って離さない。
突然、世永が俺の前にグーで手を出してきた。
その手を開くと桜の花びらがあった。
世永「はい、あげる。」
樂「…おれがとるの。」
勝貴「いつまでもツボに入らないんだな。」
世永「くそぅ!じゃあここのポケットに入れといて。俺からのお守り。」
俺の青いジャケットの左胸のポケットに、一枚の桜の花びらを入れられる。
俺はまた、桜の花びらを必死に掴もうとチャレンジするも保育園に着くまで取れなかった。
保育園に着くと、俺たちのようにピシッとした服の人が数人いた。
榮「結構いるんだね。」
勝貴「そうだな。小さい入園式だから2、3人程度と思ってたけど意外と多いもんなんだな。」
大人が話してる少し遠くで、俺と同じくらいの歳の子が遊んでる。
勝貴「こんにちは。今年からうさぎ組に入る梵唄樂の父の勝貴です。」
「あー!よろしくお願いします!」
大人たちが父さんや母さん、世永と話し始める。
「凛翔!」
と、男の人が子供達の遊ぶ方へ声をかける。
呼ばれた子はすぐにこちらに向かって走ってくる。
「樂くん、こいつは私の息子の冴島 凛翔、君と同じうさぎ組に入るんだ。」
凛翔「よろしく!」
凛翔は握手を求める。
樂「よろしく。」
凛翔「あっちで、いっしょにあそぼ!」
樂「うん。」
凛翔に手を繋がれたまま連れられて、俺は同じくらいの歳の子と初めて遊ぶ。
「だぁれ?」
ほっぺがぷっくりの女の子が俺に名前を聞く。
樂「ぼんばい がくです。」
凛翔「うさぎぐみだって!」
「そうなんだ!ねぇねぇ、がくはなんで、はながまがってるの?」
子供の無垢な質問だったが、俺はそんな事を今まで聞かれたことがなかったので、びっくりして何も答えられなかった。
「なんで?」
樂「…。」
『父さん』が事故を起こしたときに出来たものという記憶があるが、
幼く、まだ言葉を理解し始めた段階でこの難しい話をどう言語化すればいいか分からなかった俺は黙りこんでしまった。
「なんでムシするんだよ!」
樂「…。」
「おい!」
ドン!と左胸を押される。
倒れそうになると、凛翔が握っていた手をグッと力を入れてくれて俺は倒れずに済んだ。
凛翔「うるさい!ひとのみためをトヤカクいうなってパパがいっつもいってるんだ!デブがだまってろ!」
「…うぇぇぇぇぇーん!」
俺の見た目を質問していた子が泣き始めると周りで遊んでいた子はビックリし離れていき、それに気づいた親たちがこちらに走ってくる。
「あらら、どうしたの?」
「りんとくんがデブっていったぁ…!」
「…!。どういう教育したらそんな発言が出るのかしら。違うクラスでよかったわ!」
凛翔父「…申し訳ないです。」
凛翔の父さんは頭を下げる。
おばさんが泣いてる自分の子を抱きかかえて、保育園の施設に入っていった。
凛翔父「凛翔。人の見た目をとやかく言うなって昔から言ってるだろう?何があった?」
凛翔「あいつがずっと、がくのはなのこと、きいてきて、がくがしゃべらなかったから、がくをおしたんだ。だから、おもってたこといっちゃった。」
樂「りんとのとうさん。りんとは、わるくないよ!」
凛翔父「…そっかそっか。凛翔も樂もよく我慢したな。偉い!でもそういう時でも言っちゃいけないんだ。今度から気をつけような。」
凛翔の父さんは笑顔で俺たちの頭を撫でる。
こうして、保育園の初日に親友の凛翔と出会った。