夢
次の日はあいつが自我穿通をするらしく、俺は迎え役。
俺が5日かかった自我穿通をあいつはたった半日でやってしまった。
世永があいつを送った後、嬉しそうにあいつから貰ったおにぎりと頭が作った味噌汁を食っていた。
嬉しそうにしているのはきっと優秀な人材と巡り会えたからだろう。
あいつは今はなよなよしてるが、きっと数ヶ月したら頼れる人間になって俺なんかすぐ追い抜かれるんだろう。
…俺は何も成長できないグズだ。
世永「どうした?樂の好きなねぎ焼き(ネギまの鶏肉なしver)したのに全然食べてないじゃん。」
樂「…なんでもない。」
俺は世永に食事の進みが悪いことを指摘され、普段美味しいはずのねぎ焼きの味がしなくなっていた気づく。
またこの感覚だ。
ご飯を食べても、何にも味を感じれないと俺は本当に生きているのか考えてしまう。
世永「…味、薄かったかな。」
世永が近くに置いておいた調味料が詰められたボックスを俺の前に置く。
でも、そんな事をしてもきっと味はしないんだ。
世永の優しさを無視して、俺はご飯を食べ進めた。
世永「味付いてないんだから、無理しないの。」
世永がねぎ焼きに許可なく塩をかけ始める。
俺はポン酢派なのに。
世永「ポン酢今切らしてるんだよね。ごめんね。」
俺の心の声が聞こえたのか、世永がそう言った。
世永「何か悩んでるんだと思うけど、樂が言いたくないなら言わなくていいよ。
けどね、生きてる証の食事くらい美味しく味わって幸せな気持ちになろうよ。」
世永があいつから貰ったおにぎりを半分にして俺に渡す。
世永「虎雅のおにぎりはきっと味がするから食べてみてよ。」
そう言って、世永はパクパクとそのおにぎりを食べていく。
きっと味はしないけど、世永が満足するならそれでいいか。
俺もそのおにぎりを口に入れる。
樂「ゔぅ…!」
世永「ね?面白い味付けだよね。」
なんだこれ。塩と砂糖、間違えてやがる。
…俺、味を感じてる。
世永「おはぎかなんかかと思ったけど違うよね。梅おはぎ?何この料理?」
世永が笑いながら、おにぎりの料理名を求めてくる。
樂「…こんなの料理じゃねぇ。」
世永「そうかもねー。」
と言って、またそのおにぎりを世永が食べ始めた。
なんでそう不味いものを食えるんだろう。
俺はおにぎりを置いて、他の料理を食べたが味覚は戻ってなかった。
仕方なく生きてる実感を得れるおにぎりと一緒に食べ完食する。
樂「ご馳走さまでした。」
世永「ご馳走さまでした!」
食器を片付けて、
世永は俺の石庭荒らしに嫌気が指したのか、自分で石庭の物を1人で移動すると言っていた。
俺は明日もあいつを迎えに行かないといけないので団地に戻る。
明日会ったら感謝でも言うかと思ったが、早朝インターフォンを鳴らし俺の睡眠時間を5分も削りやがったので帳消しにした。
樂「お前、自分で移動まだ出来ないの?」
虎雅「うん、やり方知らない。」
樂「なんも教わってないの?」
虎雅「自我穿通教わった。」
それは知ってる。半日でやり終えたのを自慢してるのか?
俺は準備しながら会話を続ける。
樂「毎回ここに帰ってくるのめんどくないの?俺クソめんどいんだけど。」
お前とこうやって、毎朝だるい会話をするのが苦痛だ。
虎雅「いや?部屋に4人一緒に暮らしてる子いるから会いたいんだ。」
それがお前大切な人たちか。
樂「ふーん、そういうのめんどいだけなのにな。」
失った時、俺は耐えられない。
虎雅「そうかな?いいものだと僕は思うけどなぁ。せいさんといる時、楽しいって思ったりしないの?」
俺がそういう事を思った時点で、あいつは死ぬんだよ。
樂「ただのオヤジだと思ってるけど。」
虎雅「でも、家でくつろいでたじゃん。」
樂「普段ならあっちで寝泊まりしてるからな。」
虎雅「そうなんだ!だからあまりこっちにいないんだな。」
樂「ここにいてもやることないしな。学校の登校日くらいしかいない。」
虎雅「友達いないの?」
樂「いらないだろ。作ってもいなくなる。」
虎雅「え?僕は?」
お前は何様なんだ。
俺の何を知って友達と思ってんだ。
樂「知り合い。」
虎雅「え…っと、知り合いと友達の違いは?」
顔を知ってるか、大切と思えるかの違いだ。
これ以上命張り続けたとしても、俺はお前を救える自信がない。
だから、死神の俺に関わるな。
樂「俺の基準。お前はただの知り合い。時間だ、行くぞ。」
虎雅「えー…、友達になれたと思ったんだけどな…。」
と、肩を落としながら呟くこいつの手を掴み、
世永の屋敷に飛ぶ。
虎雅「あ、今日は石庭じゃないんだね。」
樂「いや、ここいつもの場所。昨日世永が1人で違う庭に石運んでた。」
俺は世永を起こしに、世永が寝ている部屋に向かい襖を開ける。
俺は足で世永を突く。
前に肩を手で揺すったら、抱きつかれたので予防策だ。
世永「ん…あ、今日早いね。もうちょっと寝たいんだけど。」
樂「年寄りなんだから朝早く起きろよ。」
世永「いや、まだお兄さんだぞ。」
と、シワの増えた顔でそんな事を言い出した。
世永「いやぁ。昨日はまぁまぁ身体動かしたから眠いんだよなぁ。一旦3人で寝る?」
樂「無理。」
虎雅「大丈夫です。」
世永「えぇー…じゃ俺の代わりに石庭作っといて。」
と言って世永がまた布団に寝そべる。
樂「なんで?お前の趣味だろ。」
虎雅「やります!せいさんは出来るまで寝ててください。」
世永「ありがとう、虎雅…。2人ともおやすみ。」
世永は目をつぶる。
樂「はぁ!?俺はやらねーぞ。」
虎雅「いや、石庭の石動かしたのは、樂のせいなんだからやろう!」
と言って、服を引っ張って石庭の石がある庭と逆方向に向かい始める。
虎雅「あー…どこにあるの!?」
こいつ…、イかれてるな。
樂「ッチ。めんどくせぇ。」
俺は最短距離でいける襖を開け、ささっと鍛錬が出来るよう石庭を作った。
けれど、あいつはのろますぎて8割方俺が作った。
あいつは相変わらず、ベラベラと話しかけてくる。
適当に答えて、ささっと終わらせちまおう。
「おはよー…んぐぅ…!」
しばらくすると世永が背伸びしながら起きてきた。
虎雅「おはようございます!眠れましたか?」
世永「ううん。作業の音で全く寝れなかった!」
なんだそれ。俺が石庭作りする意味ないじゃねぇか。
世永「樂、虎雅と仲良くなった?」
樂「なるわけなねぇだろ。」
世永「えー?同級生なんだからもっと仲良くすればいいのに。」
虎雅「僕も仲良くしたい!」
樂「しねぇって言ってんだろ!俺もうやめた。」
俺は持っていた道具を投げ出し、屋敷の中に入る。
虎雅「ごめんって!行くなって!」
これ以上仲を深めたら俺はお前を死なせてしまうんだ。
近づかないでくれ。
俺はあいつの声を無視して、人が寄り付かない部屋に入り寝そべる。
俺の大切な人はもういない。
最後の大切な友達だった世永も俺が執着を手放してから死に際に会ってない。
だから俺は、記憶の夢の中の大切な人に会いに行った。
・
・
・
父さんに手を引かれて桜並木を俺は歩いてる。
今日は凛翔に会えた時の記憶の夢。
ここで俺は凛翔と友達になってしまったばっかりに死なせてしまった。
だけど記憶の夢ならもう死なせることは無い。
俺はまた桜の花びらを掴もうとするが、取れなくて世永にあのお守りをもらう。
そして凛翔の父さんに凛翔を紹介してもらって、あのほっぺがぷっくりな子が…。
あれ…?なんで累がいるんだ?
累「樂、逃げるなよ。」
なんで、いつも通りの記憶の夢じゃないんだ?
凛翔「そうだよ。なんで逃げてんだよ。」
隣で手を繋いでいたはずの凛翔が累の手を繋いで、俺に怒った声で言葉をぶつける。
その声を聞きつけて、大人と子供たちが走ってきた。
凛翔の父さん、凛翔のおじさんおばさん、ミサコおばさん、学校で出会った人たち、聖歌隊のみんな、眩、そして生みの父さん母さん、育ての父さん母さん。
なんでみんないるんだよ。
俺もそっち行きたい。
そう言いたくても声に出せない。
あの時、ぷっくりほっぺの女の子に質問されて答えられなかった時と同じだ。
「大切にしてくれる人たちのこと、見ないふりしちゃダメだよ。」
「「そうだよ!」」
聖歌隊のみんなが言う。
「巡り会えた仲間を大切にしないと、後悔するよ。」
「「そうだよ、樂。」」
学校で出会った人たちが言う。
「私たちは樂のせいで死んだんじゃない。私たちの判断が遅かっただけなの。辛い思いをさせてごめんね。」
涙目で凛翔のおじさんとおばさんが微笑む。
「樂は諦めないで俺を助けてくれた。俺、最後に父さんたちに会えて嬉しかったんだ。死んで会えない姉弟もいたから…、ありがとうな。」
相変わらず半裸で太陽光をひしひしと浴びている眩。
「生きてる限り、感情を抑え続けることは出来ないわ。感じた事を感じたまま、表現していいの。」
あの懐かしい声で俺の耳を撫でるミサコおばさん。
「樂はオレよりも、強く生きている。それだけで凄い事だ。自分を責めるな。樂はオレを超えた!」
あの時頭を撫でてくれた笑顔で俺を褒める、凛翔の父さん。
「樂の名前は、こんな辛い事が起こる世の中でも人生を樂しんで、のびのびと樂びを感じて、あなたの愛する人の願いもあなたの願いも全て叶うようお父さんと考えた名前なの。」
もやがかかって顔が見えない産んでくれた母さんがそう言う。
「樂の笑顔はあの時の陽気のように、私の心を温めてくれたんだ。ありがとう。大好きだよ、樂。」
笑顔で涙をボロボロと流す、産みの父さん。
「樂が努力家なのはみんな知ってる。まだ力が及ばない事があっても樂なら超えられる。大丈夫!」
いつもの明るい母さんが俺を励ます。
「人はいつか死ぬんだ。樂、お前もだ。けど、お前の心が生きている限り、俺たちみんなお前のそばにいる。樂は独りじゃない。」
あの時、俺の腹をくすぐった時の微笑みをしながら父さんが言う。
「樂は自分の生きたいように生きればいいんだよ。」
累が夢を叶えるために応援してくれた時と同じように笑う。
「そうだよ。オレたちの夢は叶えなくていい。背負わなくていい。樂、お前が望んだ未来を俺たちみんな見せてくれ。これからの未来、樂たちに託す!」
凛翔が晴れやかな笑顔をして親指を立てる。
「「「樂、いってらっしゃい。」」」
みんながお守りが入った左胸をトンっと優しく押す。
俺は逆らおうとしたが体に力が入らず、そのまま地面に倒れる浮遊感を感じ、目が醒める。
俺は記憶の夢の時は泣かないと決めたのに、涙が出てきてしまった。
「…ぁく!がーく!おーい!樂!いたら返事してくれー!」
あの能天気がまたやってきた。
俺は涙を飲み込み、深呼吸をする。
「がーくー!」
俺がいる目の前の障子に、あいつのシルエットが映る。
樂「うっせーぞ!」
俺はその障子を勢いよく開ける。
虎雅「いたいた!よかったぁ。」
樂「石庭作り終わったんだろうな。」
俺は普通の話をして、ざわついた心を鎮める。
虎雅「終わったよ。一緒に訓練しよ。」
樂「ならいい。」
俺は話を無視して、1人稽古用の道具を取りに行こうとする。
虎雅「待ってよ。置いていくなよ。」
樂「お前と俺はやる事が違うんだ。ついてくんな。」
俺が駆け足で逃げようとした時、ガシっと手を掴まれる。
その手は凛翔が握ってくれていた手を掴んでいる。
樂「なんだよ。触んなよ。」
俺はその手を振り払おうとするが、全く離してくれない。
虎雅「僕、樂のこと友達だと思ってる。」
なんで今そう言うこと言うんだよ。
やめろ、俺は友達は作らない。
樂「はぁ?何言ってんの。キモ。」
強めに俺は言葉を投げる。
けれど、その手の力は緩まずに離してくれない。
「キモくても、グズでもなんでもいい。僕は樂の友達。どんなに嫌われても僕はそう思う事にした。」
なんなんだよこいつ。いつにも増して暑苦しい。
樂「はいはい。勝手に言ってろ。」
虎雅「樂も僕のこと友達だと思ってくれる?」
樂「無理。こんなキモグズが友達なんて思いたくない。」
虎雅「じゃあキモグズじゃなくなったら友達と思ってくれるの?」
何を勘違いしてるんだ。
何があろうと友達って思ってないって言ってんだろ。
樂「いいや、さっきから言ってんだろ。お前らは知り合い。それ以上でも以下でもない。喋る時は喋るし、あったらとりあえず挨拶する仲。なんの感情もない。」
そう、俺はなんの感情も生まない。
虎雅「じゃあ僕のことどんなに愚痴っても憎まれ口叩いてもいいから一緒にいてよ。」
なんでそんな相手と一緒にいないといけないんだ。
樂「それをして何になる?」
虎雅「愚痴ってる時僕のこと思い出すだろ?僕の存在が樂の中にあるってだけで僕は嬉しい。」
俺の中の存在…。
樂「…きもいって。」
俺はその場から逃げたくなり、腕を振り払おうとするが馬鹿力で離してくれない。
虎雅「僕がいつ死のうが僕の勝手。僕が樂の友達と思うのも僕の勝手。思っただけで現実には影響しないよ。ただ本人が行動した結果で今があって未来が生まれる。思うだけだったら誰にも迷惑かけないよ。」
みんな。こいつの言うこと…、信じていいかな。
俺は大切な仲間、増やしても良いのかな。
俺が振り払おうとしていた手を止めると、ポケットに入っていた凛翔のアクセサリーケースに手が当たる。
…俺、もう一度だけ仲間の事想ってもいいかな。
俺の望む未来にするためには仲間がどうしても必要だ。
1人じゃ出来ない事がたくさんありすぎる。
だから手を貸してもらう。
仲間がピンチになったら助けるから、最後にもう一度やってみる。
俺は虎雅にわからないよう深呼吸をする。
樂「俺はお前が嫌いだ。俺は自分自身の考えで行動する。ついてくんなら勝手にしろ。」
その言葉を言うと、虎雅は動きを固める。
樂「いい加減離せよ。ついてくんのは勝手だが俺に触るのはやめろ。」
俺はさっきより力強く手を振り払い、馬鹿力の虎雅の手から逃れられる。
俺は先に歩き、気持ちを落ち着かせているとすぐ横にピタっと虎雅がついてくる。
虎雅「今日何するか、樂わかるー?」
なんでこう言う奴はいつもこう言う時にニヤつくんだ。
樂「知らねぇよ。やる事違うって言っただろ。」
虎雅「そっかそっかー。」
と、呑気に笑い俺の隣から離れない虎雅。
これから俺にまた大切な存在が増えるだろう。
けど、今の俺は無力じゃない。
世永や眩たちが教えてくれた術がある。
あの頃の俺が助けられなかった人たち以上に、
こいつらを大切に思い、死んでも守る。
それで俺たちが望む、あの世界を俺たちが手に入れる。
それまでは死ねない。
みんな。俺が見る夢の景色、見せてやるから待っててな。




