真実
次の日、いつも昼ごはんを食べる時間に俺は屋上の踊り場で待つが一向に来ない。
なんであいつはこんなにも人を待たせるんだよ。
この時間で俺は鍛錬できるつーのに。
待って2時間後、あいつはのこのこやってきた。
俺の苛立ちは久し振りに腹にきた。
樂「遅い。」
虎雅「え?でも昼休み始まってすぐなんだけど。」
樂「昼って言ったら10時からだろ。お日様てっぺん登って来てるだろうが。」
虎雅「えー…ごめん。」
若干不服そうに謝っているのが、またイラつかせる。
そして俺はこいつと2人、世永の屋敷に飛んでいった。
酔わないように瞑らせていた目を開けさせて、世永の石庭を歩き玄関に向かう。
[バンッ!]
と、勢いよく玄関の扉が開き、世永がまた石庭の事でグチグチ言い始めたので俺はさっさと中に入り、世永があいつに慰撫団の説明をするのを待つために携帯で怒りの鎮め方ついて調べていると世永たちが部屋に入ってきた。
世永「ねぇ、今日は仕事できたんでしょ?」
樂「うん?そうだけど?」
まあ、鍛錬のためにきたけどな。
世永「じゃあちゃんとしようよ。虎雅が見てるよ。」
俺は起き上がるのが怠かったので同じように寝っ転がる仲間を作るためにあいつを呼ぶが、世永が俺の足元の座布団を取り上げてあいつに渡した。
そして世永があいつに凶妖やこの慰撫団の事、先祖の事を話し、あいつの頭の傷についての話になった。
世永「凶妖が触れた場所は妖力を持つようになるんだ。人それぞれ噛まれた場所によって出来ることは違うんだけど虎雅はどこ?」
虎雅「頭です。」
世永「え!珍しい!頭と同じ箇所だね。あとで紹介しなくっちゃ!」
世永が少し嬉しそうにして、虎雅は色々気になる事を質問して世永が答える。
世永「樂も腹方だよ。」
虎雅「だから団地に帰ってこないんだ。」
樂「まあな、そっち帰ってもやる事ないからな。」
質問が終わると頭の家に行くことになり、俺はあいつの手を掴む。
虎雅「え?何?」
樂「え?飛ぶだろ?」
俺はまだ頭に会ったことがなかった。
今頭に会えるのは、頭専属の腹方の白露 愛芽李と一握りの団員しかいない。
頭があまり自分の傷を人に見せたくないからだそうだ。
世永「いや、飛ばないよ。10分歩いた所にあるから。」
ッチ。世永がニヤついてやがる。
俺はあいつの手を払いのけ、そのまま世永が行く山道についていき、初めて頭の屋敷に行った。
頭の屋敷の正門をくぐると世永の屋敷よりも何倍も大きい屋敷と庭があった。
正門のそばには白菊が咲き乱れ、白露 愛芽李が花の手入れをしていた。
愛芽李は俺の1つ下で、俺が入る約一年前に慰撫団に入り半年で腹方になった。
腹方の5人には俺が任命された時に会ったがみんな気迫がそこらにいる団員と違った。
これが世永が言ってる動けるリーダーたちなのかと理解した。
駆け寄ってきた愛芽李が縁側に案内してくれ、頭を呼びに行った。
世永「2人ともこっち座って俺の真似しといて。」
さっきまで寝っ転がっていた世永が起き上がり、3人で並んで座り頭を下げた状態で頭を待つ。
スッと扉が開き、俺らの頭の先に人が立つ気配がする。
「お帰り、世永。皆頭を上げてください。」
落ち着きがある凛とした声の女性がそう言ったので頭をあげる。
目の前には愛芽李が頭と思われる人の手を引いた状態で立っていた。
頭は顔に慰撫団の紋章が描かれた布を貼っていて見えないようにしていた。
この小柄な人が戦って大怪我をした人なのか…。
今まで会ってきた慰撫団の中である1人と同じくらいの重厚なオーラを感じる。
頭は世永との世間話をそこそこに虎雅の頭を触りながら、腰を落とす。
頭を触られていたあいつは驚いた顔をしていた。
きっと布の隙間から傷が見えているんだろう。
頭「君はどこでこの傷を?」
虎雅「去年の夏に土砂崩れにあった時に出来ました。」
頭「あの災害か。ごめんね、助けられなくて。」
世永のように悪くない自分を責める頭。
虎雅「頭のせいではないので謝らないでください。」
頭「あなたの家族も失ったのでしょう?あれは抑えきれなかった私たちのせい。申し訳ない。」
と言って、頭は涙を流す。
俺が入院していた時の地方の土砂災害を話しているんだろう。
あれも凶妖の仕業だったのか。
なんで悪くない頭や世永が謝らないといけないんだ。
悪いのはあの凶妖たちだろ。
頭はあいつの頭をそっと離して愛芽李の手を掴み専用の椅子に座り、話し始めた。
頭「元はね、災害は神の気まぐれで起こったものだからしょうがないものだったのです。
しかし、人はその神を信じなくなり人自身が神と名乗るようになって、この大地、大海、大空を人は支配した。
本当は支配してはいけないものなのにね。
今この時代になって、野生動物は消えたこと知っているかな?」
虎雅「はい、ニュースで何度か見ました。」
鍛錬ばかりでニュースなんか見て来なかった俺は初めてその事を知った。
頭「そう、ニュースでは保護という名目で動物を管理するようになってしまった。この世はどこにいっても動物園状態。人に全て管理されてしまう世の中になってしまった。
ただ少し脳が発達しているからカーストの頂点と勘違いしている人間が、
この世の生き物の自由を奪い生死を管理する。
生命の根本はとても儚くて尊いものなのに、
それを軽視している人間の都合で殺される。
それが凶妖になってしまう理由だよ。
人間の住処を少し荒らしただけで殺されたもの、
人間の娯楽にために生まれてきたもの、
人間に食べられるために生まれてきたもの、
全て凶妖になるきっかけを持っている。
その怨みや痛みを少しだけでも晴らせるように私たちは動いている。
だから虎雅、樂、ご両親や大切な人を亡くされてとても辛い想いをしたのは分かるが凶妖の想いも汲み取ってあげてね。」
虎雅「…はい。」
樂「…。」
俺ら人間が凶妖を生んでしまったのか…?
そんな…、ブーメランな話があるのか…?
頭「凶妖は殺せばもう出てこなくなるが、わたしはその生物も殺したくはないんだ。
だから封印をして臓の館で妖力をとって元の場所で過ごしてもらうようにしている。
これは人間のせいなんだ。だから個人個人が向き合わないといけない。
それをしない人たちが多いから凶妖が災害を起こし人間を喰らい妖力を高める。
悪循環になってしまっているのは分かるかい?」
虎雅「はい。」
父さんが言っていた。
一人一人自然を守るため、人を守るため出来る事をコツコツと積み上げないといけないってこと。
俺の『守るべきもの』って…。
頭「これから虎雅も樂も自分でもそうだけど、周りの人たちにも自然環境を良くするために動いて欲しい。
その小さな努力が見えるときは、中々遠いがみんなで協力すればできることなんだ。
この世が人間で作られたものではないと心で分かった時、
大地、大海、大空を神に返還した時、このしがらみから解放され全ての生き物と共存できるようになると私は考えているんだ。
だからこれから私たちと頑張ろうね。」
虎雅「はい!」
樂「…はい。」
俺はちゃんと凶妖の存在を理解していなかった。
きっと世永や眩は俺に説明しようとしていたんだろうが俺が聞く耳を持たなかった。
俺の理解不足が…、俺の弱さ。
頭の手を愛芽李が取り、部屋を出て行った。
世永「この団体の内容はなんとなく分かったな?」
虎雅「真実を知れて良かったです。」
真実に俺は目を背けていた。
まただ、なんで俺はまた間違いを犯すんだ。
世永「樂は?」
樂「俺は…間違ってた。鍛錬し直してくる。」
俺は世永の家に戻って、人が来ない北側の庭で好きなアーティストの曲をスピーカーを使って爆音でかけ、このむしゃくしゃした感情を晴らすために歌い始める。
父さん母さん、凛翔たち、累と聖歌隊の仲間たちと歌った時の歌声はもう出ない。
今はがらつきがある声で歌うしかない。
何度も願ったが時間は戻らない。
だから今俺が過去を悔やむ時くらいはこの曲でみんな俺を元気つけてくれ。
この魅力のない声だけど、思いは込めている。
この歌詞にあるように俺の大切な仲間に順位付けなんかない。
俺の悲しみや苦しみを無くしてくれとは言わない。
今はみんなの存在を感じられればそれだけでいい。
だから俺はこのアーティストのこの曲を俺の声で歌い、1人自分の心を立て直した。




