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あの日は春にしては少し暑く感じる明け方だった。


「…樂!起きろ!」


眩の声が俺を呼ぶ。


樂「なんだ!?」


眩「島で大地震があった。俺は先に行く。樂は世永と来てくれ。」


と言って、眩は先に島に飛んで行ってしまった。


俺は玄関に向かいながら団服に着替える。

屋敷の中がいつも以上に慌ただしい。

大地震は凶妖の仕業では無いのか、いつも鳴る鐘が鳴っていなかった。だから俺は起きる事が出来なかった。


ブーツを履いて玄関を出ると団員と世永が既に集まっていた。


世永「北塔島で自然の地震が発生。震源地が島付近の海底、津波の恐れあり。脚の者は人を高台に、腕の者は倒壊した建物から救助。あの島には災救の手が届いて無いので、その他の者は簡易避難所を設立。」


「「「はい。」」」


世永「恒久平和のために。」


「「「恒久平和のために。」」」


災獣園の人たちと救護班の人たちが俺らに清めの水をかける。

その水は俺らに触れる前に霧となり柔らかい水になって全身を包み込む。


みんなが北塔島に向かう中、俺は世永に呼び止められる。


世永「樂、俺と来て。」


樂「わかった。」


世永と飛んだのは、北塔島から少し離れた海の上。

世永のまじないの力なのか海の5メートル上に俺はいた。


世永が周りを見て、何かを探している。


樂「何探してんだ?」


世永「眩がここら辺にいるはずなんだ。多分この津波を使って凶妖が動く。震源が海なら海の凶妖が動くはずなんだ。」


世永がそう言って走りだし、俺もついていく。


下の海を見るとどんどん島から離れていっている。

これはこの間あった富士山大災ふじやまたいさいに似ている。


あれで世永の姉、華宮はなのみや 未世麗みせりというかしらが戦いの場に出れないほどの大怪我を覆い、付近の海あり県は5分の3以上津波の飲み込まれ、団員も数名死んだ。


富士の噴火に巻き込まれた絢愛は、飛行機事故で凶妖に腹を噛まれたらしい。

そして、今では写真を見ないと思い出せない大切な人達の記憶を失った。


それほどの力を持った凶妖がこの島の人を食おうとするのが許せない。

なんでここまでして人を襲うんだ。

俺はお前たちを殺してないのに。


がむしゃらに走るが眩が見つからない。


樂「この波が引いている方に凶妖がいるんじゃ無いか!?」


少し遠くにいる世永に声をかける。


世永「そっちいってみよう!」


2人で波が引いている方に走っていくと、海なのに坂が出来ている事に気づく。


樂「なんで…」


世永「樂!離れて!」


世永が俺の体を今いた場所から引き離した瞬間、

俺が元いた場所に海の壁がそり立つ。


その壁は俺らの何十倍もの大きさに膨れ上がる。


その海の壁の中に、人影が見える。


樂「…眩!」


眩がその壁から必死に出ようともがいている。


樂「これは凶妖なのか!?」


世永「海蛇だ…。でも大元が…」


世永はまじないを始めながら、猛スピードで島に向かう波を追いかける。


俺は眩を助けるために必死に腕を伸ばすが、水圧の壁が出来ていて、入れた指が3本折れる。


世永「樂!まずはこの波を止めろ!」


俺は世永に言われた通り、まじないを唱えるがそんなんじゃ時間がかかりすぎる。

ずっと水中にいる眩が死んじまう。


波のスピードは緩む事なく、島に向かう。


俺は人を助けるためにここにいるのに、今この目の前で苦しんでいる眩も助けられない。


悔しい…、自分の力の無さを悔やみ嫌う。


そう思った時、普段以上の早さで脚が運ぶ事に気がつく。


そう、自分を嫌え。

人殺しの自分を嫌うんだ。

また、お前に関わった人間が死ぬ。


俺は波を止めるまじないから、地面を破るまじないに変更し、波の上まで駆け上る。


眩は…、もうもがくのを辞めている。


おい、まだ死んでんじゃねぇぞ。

俺たちがいないと平和は訪れないんだろ。


俺は波の頂点に、自分の足をこれでもかと力を込めて落とす。


すると、その大津波が真っ二つになり俺は落ちる寸前に眩を抱き海の真上に落ちる。


その真っ二つになった海の波は少し力を緩めたがまだ島に向かっている。

世永はそのまま走って止めに行く。


樂「眩!起きろ!」


俺は眩の蘇生をしようとしたが、眩は世永のまじないで体を浮かせていないので俺が抱えていないと海に落ちてしまう。


樂「…待ってくれよ。おい!眩!息しねぇと死んじまうだろうがよ!」


俺は抱えながら、出来るだけの蘇生をするが一向に目を開けてくれない。

俺は眩の左胸を強く殴る事しか出来ない。


世永「樂!眩!屋敷に帰ろう!」


世永が駆け寄り俺と眩を抱きしめて屋敷に飛ぶ。


強い風が吹き、世永の屋敷の石庭に身を投げ出される。


俺と世永で必死に眩の蘇生をするが、全く動きが無い。


世永「…なん、で。なんで1人で…」


世永が心臓マッサージをしながら涙目で呟く。


救護班の人が来て、その場でまた蘇生を始めるが全く眩は起きてくれない。


「…もう」


樂「辞めるな!」


俺は救護班を眩から振り払い、1人蘇生を始める。


俺より強い眩が俺を残して死ぬはずないんだ。

俺が生きていて、なんで仲間が死んでいくんだ。

違うだろ、何でだよ。死んでない。

眩はまだ…、まだ…。


樂「ハァ…!ハァ…!ハァ…!」


俺は1人で5分以上、力いっぱい蘇生をするがまだ眩が目覚めない。


「グッ…アァ…」


聞いたことない唸り声が、後ろから聞こえ救護班の悲鳴が上がる。


俺はその声に心が現実に引き戻される。


後ろを見ると、世永が何かに襲われているのか苦しそうにしている。


樂「何してんだよ…。せ…」


世永「ごごごごめ…、ごめぇぇぇ…」


世永の口から、世永では無い声で謝ろうとしている。


「他我が世永さんを…」


救護班の1人が絶望した声で呟く。

他の人が他の団員を呼びにいくがまだ誰も戻ってきている様子はない。


俺が…、やらないと。

2人も死ぬ。

…でも、このまま放っておいたら眩が…。


眩の顔を見る。

その顔には正気が無く、さっきより青白くなっている。


樂「…ごめん、眩。俺…、生きてる奴助けねぇといけねぇんだ。」


俺は眩に謝り、胸に置いていた手を離した。


ずっと触れていた俺の手が眩の温もりで温まることはなかった。

分かっていたけど、その現実を受け入れられなかった。

でも、まだ意識があって苦しみを抱えてる人を助けないといけないと受け入れた時、眩の冷たい肌が俺の手に伝わってきた。


俺は唸り続ける世永の元に駆け寄り、両肩を掴み揺する。


樂「おい!華宮世永。お前が凶妖化してどうするんだ。俺はお前を殺したく無い。死んでほしく無い。だから、戻ってくれよ。」


俺がそう訴えかけても世永は唸り続け、俺から離れようとする。


樂「逃げるな。俺も眩の死を…、受け入れた。まだこの世界は終わってない。俺らが眩の願いを受け継がなきゃいけないのに、お前がそんなんで慰撫団は支えられないだろ。」


俺は大声で唸り続ける世永の耳元で喋り、抱き寄せる。


樂「…俺、世永がいなくなったらもう生きてけねぇんだ。お願いだ、俺の…、最後の友達が世永なんだ。死ぬなよ。いなくなるなよ。」


俺は世永の首にしがみつき、どんなに世永が暴れても離れないようにする。


世永「ガガァアアアァ…グゥウアアアア…!」


[プシィ…!]


と、俺の頭の後ろで何かが弾ける音がする。


追い風がそれの匂いを俺の鼻に届ける。

なんだ…、血の匂いがする。


世永「ヴヴヴッ!ウウッ…、うぅ…。」


世永の顔を見ると俺を抱き込みながら自分の腕を噛んで血を飲んでいる。

世永は体を震わせながら荒げた呼吸を整え始める。


樂「おい、世永…」


俺が世永に話しかけた途端、世永が俺を骨を折る勢いで抱きしめてくる。


世永「ごめん。ごめん。また俺、樂を悲しませた。これ以上樂が辛い思いをさせないよう努力してきたのに…、眩も死なせてしまった。樂の大切な人たちを守れなくてごめん。」


世永の謝罪の言葉はとても心痛かった。


樂「もう謝るな。今後一切。…痛い。」


世永「あ…、ごめん。」


と言って、世永は俺の体をそっと離す。

…体じゃないんだけどな。



北塔島被害

地震で全ての建物が全壊。

高台に元からいた住人数名、救護した住人合わせて14名が生き残った。

倒壊した建物から人を救出する時間は短すぎたせいで

300人近くいた島人はあの島と一緒に海に飲まれた。


あの島の津波を止めるため、1人で眩は世永の許可無く先に行ってしまった。

俺たち3人で行ってれば眩は死ななかったはずなんだ。

飲まれてもすぐに助けられたはずなんだ。


けど誰よりも人の命を優先にしていた眩だからこそ、俺らより先に島に行ってしまった。


眩の死後、俺は東京の腹方にさせてもらった。


実力はまだ他の腹方には及ばないが、

一霊四魂の一徳を得ていること。

俺の行動をかしらが聞いて、それを感じるらしく、

俺の場合『奇魂くしみたま』を得ているらしい。

あの時、俺が世永を放って凶妖化させていたら腹方を受け継ぐ事は無かったし、世永も死んでいた。

あの時の選択が今に生きている。

保護していた凶妖の数は後少しでクリアする所だったらしく、あの島の被害を最小限にした事で腹方になれた。


世永がかしらにその事を伝えて、頼み込まなかったらきっと俺は腹方にはまだなれていない。


他の団員からコネで腹方になったと陰口で叩かれているが、そう言われても仕方ない。

まだ俺は他の腹方より力が劣ってるし、その1日の出来事の評価でなれただけだ。

十何年も命を張ってきた者に言われたら、俺は言い返す事は出来ない。


だから俺はそいつらにも納得してもらえるような、

眩のような存在にならないといけない。


北塔島大地震から半年、俺はまだ自分が追い求める凛翔のようなリーダーシップ性も、累の様な心優しい部分も、眩の様な安心感も得る事は出来ていないでいた。


それは自分の自我を保つためである自分への嫌悪も原因の1つだろう。


そんな中、世永に昼ごはん中に呼び出された。

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