まじない
「体もよく動くようになってきたから、今度はまじないを教えるね。」
と、世永は自分の言葉を真似するよう言ってくる。
その言葉は日本語でも、どこかの外国語でも無く、腹のそこから獣が叫ぶような発声の仕方でただ歌うよりも難しかった。
樂「自分のやり方でやっていいか?」
世永「まあ、出来るならね。」
世永は近くにあったお茶を飲む。
俺はその声が出しやすいラップ調で唄ってみる。
すると、その場にいた凶妖がブルブルと体を震わせてパタッと倒れる。
樂「おい!死んだのか!?」
世永「え?出来たの?」
今のは凶妖を森に返すために、ここの記憶を消すまじない。
このまじないの出来事は今でもトラウマ物だ。
それから、凶妖や人の動きを止める物、凶妖を封印する物たくさんのまじないを頭に入れる。
このまじないは言葉でもなければ、目に見えるものでもないから全て頭に叩き込む。
俺は頭の中でそのまじないの楽譜を書くイメージで覚えていった。
体の鍛錬、声のまじないの鍛錬をして、凶妖を1人でも封印出来るようになった。
あれから、数えきれないほどの命を救ってきたが凶妖が行動を辞めることは無い。
俺は世永と眩の頼みで高校に入ることにした。
勉強は全て終わってるのに入らないと慰撫団を辞めさせるとなぜか脅迫され仕方がなく試験を受け、春から団地近くの高台にある高校に通う事になった。
俺は1人中学の卒業式に参加し、あの家に足を向けてみた。
あの帰り道、何も変わらずに後数年過ごせると思っていた帰り道。
父さんと母さんと俺で住んでいた一軒家に着く。
そこには見知らぬ車と幼児のおもちゃが転がっていて、庭には布団が干されている。
生垣の隙間から見える、小さい子供と一緒に遊ぶ父親と母親。
俺もこうやって遊んでもらってたことを思い出す。
俺の居場所ではない事を、表札を見て改めて確認して俺はあの団地に帰る。
「おーい。」
後ろから誰かを呼ぶ声が聞こえる。
俺はここらに知り合いがいる訳が無いから振り返らずにイヤフォンを直す。
「おーい、樂。」
と、俺の真横に自転車がつき知ってる顔が目の前に入ってくる。
虎雅「僕も卒業式だったんだ。」
と、カゴの中のバッグから卒業証書を出す。
俺は話す気分じゃないし、イヤフォンをつけてたので聞いてないフリをした。
虎雅「樂はどこの高校行くの?僕は団地に近い長い坂の上の高校だよ。」
こいつも一緒の高校なのかよ。
まあ、近いからしょうがないのか。
虎雅「樂は今日学年の子と遊びに行くの?僕はこれからみんなでご飯会なんだ。」
こいつはいつも何で返されない会話を延々と続けるんだ?
俺の中で佐伽羅虎雅はイラつく存在になっていた。
虎雅「じゃあ、またね!」
と、言って自転車を駐輪場に止めに行った。
俺はついてこられないように、足早に部屋に戻り世永の屋敷に飛んだ。
世永の時は風だけが吹く安定感だったが、俺のまじないは安定していないのか若干気持ち悪くなる。
「おかえりー。」
眩がまた真っ裸で日光浴をしている。
樂「寒く無いのかよ。」
眩「今日は陽気が良いんだ。こうやって全身で太陽の温もりを感じると生きてるって思えるんだ。」
眩は大の字で目をつぶったまま喋る。
「わぁ!眩さんパンツかタオル掛けてください!」
絢愛が近くにあった眩の脱ぎ散らかした着物を下半身にかける。
眩「2人とも太陽を感じろ。生きてるのが楽しくなる。」
はーい!と絢愛が団服を脱ぎ、下着姿で眩のようにねっ転がる。
この2人の頭のいかれ具合は同等なんだと確信する。
「ちょっと!ここヌーディストビーチじゃ無いよ!?」
しばらくして、世永が後ろの部屋から出てきた。
絢愛「眩さんが生きてるのが楽しくなるって言ってたんで!」
世永「ちょっと、女の子に何させてんだよ。」
眩「やりたいやつは女でも男でもやれば良い。樂は男でもやろうと思わなかったからやらなかっただけだ。」
世永「やるにしても、もう少し格好どうにかならないの…?」
世永がグチグチ言いながら、絢愛に布をかける。
俺は何も脱がなかったがその陽気に包まれたくなってねっ転がった。
この春が来た匂いが好きだ。
この時期に、凛翔と出会った事を思い出す。
そういえばまた桜が咲くのが早くなったな。
と、思った瞬間春風が庭の桜の木を揺らし、満開の桜の花びらを世永が趣味で作った石庭に降り注ぐ。
絢愛「おお…!綺麗!」
眩「やっぱり四季がある世界は最高だな。」
世永「…懐かしい。」
樂「だな。」
俺は世永の言葉に思わず答えてしまった。
あの時もらった花びらは凛翔のアクセサリーケースにしっかりしまってある。
あれは本当に俺のお守りになったから取っておいている。
世永「今年こそは恒久平和が訪れる事を願う。」
眩「俺たちがいればいずれ訪れる。」
絢愛「大丈夫!私たちが力を合わせればなんだって出来る!」
3人は平和を願う。
俺は1人心の中で、3人と一緒に平和が訪れる事を願った。
けれど、願っても叶わないってことはあの時から分かっていた。
やっぱり生きている以上、叶いもしない願いを何度もしてしまうんだなと今理解した。




