命
世永が教えてくれたのは、まずこの本の出現条件。
[自然災害と妖]選ばれた者にしか出現しない。
凶妖と呼ばれる動物の妖怪が自然災害を起こし、人を殺し食う前に一度マーキングをしてその“肉”を自分の物にする。
そして、なにも邪魔されないと分かって時点で食べられる。
妖力が強いものほど、才に恵まれた部位の肉を見つけ好むらしい。
だから、俺は喉を噛まれそいつのエサになる寸前だった。
きっとあの時、父さんが世永に連絡を入れていなければ、俺は凶妖の腹の中で人殺しの血肉として生きることになっていた。
噛まれる者は災害時多数いるが、全員が俺のように本に出会えるわけではない。
この本を作った世永の先祖が、その人の肉体の有能さと本を手に取るきっかけがある者しか出現させていないという。
まあ、体力が無い人間がいきなり体をぶつけて行けと言うのも難しい話だからな。
俺は全ての条件をクリアしていたのにも関わらず、今の今までこの本を手にしていなかった。
そして、俺は世永に人生の選択を迫られる。
世永「どうする?凶妖から人を守るか、凛翔たちの夢を叶えるか。この2つは絶対的に両立するのは無理だ。」
樂「…その凶妖は、凛翔を食ったか?」
世永「ううん。」
樂「…父さんと母さんは?」
世永「食ってない。」
樂「…累は?」
世永「…頭から胸まで食われてた。」
樂「骨は?」
世永「胸部下から足までしか見つかってない。」
累…。
俺はただ苦しくて、骨折で済んだってのに
お前は今凶妖の腹の中なのか。
俺には考えられない痛みだったんだろうな。
ごめんな、俺に出会ってしまったばっかりに、
お前のこと大切な仲間と思ってしまったばっかりに。
樂「凶妖は殺すのか。」
世永「殺したら、全ての魂が行き場のない闇に落ちて永遠に彷徨うことになる。そしたら…」
樂「いい。…やる。」
世永「どっちを?」
樂「人間を殺しにかかる全ての凶妖を俺が封印する。」
これ以上、誰も理不尽に死んでほしくない。
これ以上、悲しみの涙も見たくない。
俺が夢に向かって歩みを進めたとしても、凶妖がいる限り人を食い殺す。
まずは俺たちが普通の生活を送れる基盤を作らないと、娯楽は生まれない。
俺をこの世に産み落としてくれた、父さん母さん。
俺をここまで成長させてくれた父さん母さん。
俺が寂しくないようたくさん遊んでくれたミサコおばさん。
俺がいつまでも追いつけない凛翔、
いつまでも1人で悩みを抱えてた凛翔の父さん。
俺が人を好きにならないようしていたけど、その反抗に知らんぷりして仲良くしてくれた聖歌隊のみんな。
俺のせいで凶妖の血肉になってしまった累。
俺の命、全てここにかける事にした。
みんなの思い描いていた世界には、まだ俺は行けないけど必ず見せてやるから。
今のうちに辛い事は涙に乗せて流しといてくれ。
泣き晴れた時、最高の景色見せてやるから。
世永「…いいんだね。これあの時のおとぎ話の世界観だけれど、この現実で起きてる。
だから自分の命尽きる時、その世界が終わる訳じゃない。全てに終止符を打たないとこの世界はこのまま動き続けるんだ。」
樂「分かってる。この5年、俺の事見て分かってんだろ?どんな事もやる覚悟は出来てる。自分のためではない、死んだいった大切な人たちのために俺はやる。」
世永「俺は生きてるよ。」
樂「は?」
世永「俺の事は大切な人じゃないの?」
樂「…。」
世永…、ごめん。
お前のこと、昔から大切だと思ってたよ。
けど、そう思うほど俺から大切な人は消えるんだ。
大切な人を守るために俺は大切な存在を作らないってもう決めてるんだ。
だから、ごめん。お前を大切だとは思えない。
樂「…知り合いだ。」
世永「えー!?永遠のズッ友なんだからそんな事言わないでよ。」
世永がいつも通りふざけ始める。
多分、俺は世永がいなくなったら本当に人として生きる自信が無くなる。
もう友達も好きと思える人も今後一切作らない。
そうしないと、また失った時俺は空っぽになるから。
だから、最後の友達だった知り合いとしてこれからよろしくな。
世永「ま、俺は樂の事大好きな友達だから、ずーっと一緒にいるよ。」
ぎゅーっと、世永が俺を抱く。
相変わらず気持ち悪い奴だったけど、その呑気さが俺の心を軽くしてくれる。
俺は、この日慰撫団に入団することを決めた。




