ワンチャンス
俺の願いは叶ったのだろうか。
目を開けると、白一色であの独特の機械音と消毒や薬品の匂い。
ここは、俺が嫌いな場所。
それか、神様がもう一度俺にチャンスをくれたのか?
『父さん』を死なす事も無いのか?
「樂…?」
懐かしいと思える声が聞こえ、その声がした方に目を落とす。
「起きた…!起きた起きた!」
世永が腫れ上がった目で泣きながら、ナースコールを押し医者を呼ぶ。
パタパタと小走りで走る音が聴こえ、看護師と医者がやってきて晴れやかな笑顔になる。
世永と少し話して俺の体の様子を見た後、医者たちはどこかに行ってしまった。
樂「…ァ。」
なんだ?世永に話しかけようと思っても声が出ない。
世永「右手は骨折してないから書けるよ。」
と、世永はベッドを起こして俺を座らせ、ペンを持たせる。
『なんで声が出ない?』
世永「…あの地震と地滑りで右足、肋骨2本骨折。喉も流れてきた石や物なんかで傷つけられたらしくて声帯がやられたって。」
声帯…?
『声は出せるようになるのか?』
世永「完全に元に戻る事は無いと思う…って、先生は言ってた。」
世永が自分の服をグシャっと力強く掴む。
俺はそのまま聞きたいことを聞いていく。
『みんなは?』
世永「生存者はいるよ。」
なんだ、その言い方は。
『累は?』
世永「…死んだ。」
やめろよ。
『母さんは?』
世永「……死んだ。」
やめろ、そんな嘘。
『父さんは?』
世永「…死、んだ…。」
世永がまた大粒の涙を流し始める。
なんで泣くんだよ。
嘘だろ、冗談だろ、いつもみたいにふざけろよ。
俺は持っていたペンに思いをぶつけ、投げる。
樂「グぅ…、カハッ…!」
俺は声を出して泣く事も出来ないのかよ。
イラつき、悲しみ、虚しさが俺の心の殺しにくる。
俺は頭をかきむしったり、自分の足に怒りをぶつけたりするが治らない。
それを世永はまた泣きながら止める。
その顔を俺に見せるな、涙を見せるな。
そんな事さえ、世永に伝えられない。
俺は折れてない足で、机を蹴飛ばす。
「どうしたんですか!?」
看護師が部屋に入ってくる。
世永「入ってくるな!俺が止めるから!そこの扉閉めて出てけ!」
世永が俺の上に馬乗りになりながら、看護師を追い出す。
世永「樂、ごめん。俺がみんなを守れなかったんだ。ごめん、本当にごめん。樂の気がすむまで俺を殴れ。自分を傷つけるな。」
世永が俺を抱きしめる。
その瞬間俺は怒りを爆発させて、世永の体を殴ったり蹴ったりするがびくともしない。
しばらくして世永が俺に与えてくれた温もりが、最後3人に抱きしめられた事を思い出す。
俺は3人の事を思い出し、体から怒りが消え寂しさと悲しみが押し寄せてきて止めていたはずの涙が止まらない。
世永は俺が泣き止むまでずっと抱きしめていた。
ずっと抱きしめていた世永の着物は、俺の涙と鼻水でぐしょぐしょになっていた。
俺の気持ちが落ち着いた頃、世永は走って売店に行ってしまった。
俺は近くにあった携帯を取り、日にちを確認する。
…一ヶ月、俺は寝ていたらしい。
そりゃ、治るもんもあるわけだ。
なんで、俺が生きてみんなが死んでんだよ。
俺を殺してくれよ、神様。
1人神を恨んでいると腕一杯に駄菓子を買ってきた世永が帰ってきた。
さっきまで泣いていたのが嘘かのように笑顔の世永。
なんでお前は笑ってられるんだ。
なんで友達を失ったのに笑ってられるんだ。
本当にお前は変な奴だ。




