前進
聖歌隊に入隊して約5年、俺は中学三年生になった。
この5年間は凛翔と俺の夢を叶えるため、必死に1人でやってきた。
父さんと母さんにも、この夢は伝えてある。
そのため中学の勉強は小学校の時に、高校の勉強は今の中学の時に自宅学習をしてある程度頭に入っている。
昔から勉強の要領は分かっていたから、そんなに苦痛ではなかった。
勉強よりも、俺を悩ませたのが歌声。
声は、使う程潰れていく。ある程度の段階で休ませないと使い物にならなくなる。
それが俺の努力の足枷になっていた。
それを悩んでいると、聖歌隊で出会った1つ下のチャーリー 累という子に出会ってから変わった。
累は俺よりずっと小さい頃から、この聖歌隊で歌ってる先輩で俺に良くしてくれる。
俺はあまり人と仲良くなりたいと思えなかったが、累がいたから今聖歌隊のみんなと仲が良くやっていけている。
その累が喉がやられない歌い方を教えてくれたり、歌う姿勢、息の吸い方など全て一から教えてくれたおかげで声変わりもラッキーな事に乗り越えた。
累と俺は正反対の歌い方だったが、それが聞いてくれるみんなが楽しみにしていた。
累は、透き通った声で冬の夜中のような雰囲気の声。
俺は、地声で大半の音は出せるパワフルな声。
2人とも歌い方は違うがソプラノを担当していたので、さらに仲を深めていた。
この頃は、みんなの休憩中に俺たち2人だけで舞台に立たされる事があり、そのお客さんの中に音楽関係の仕事をしていた人がいたらしくて今度将来の事について話したいと言われた。
俺は農業も歌も両方やりたいと思っていたけど、その両立は本当に出来るのか1人悩んでいた。
その時、累が俺の想いを察したのか、
「2年待ってくれたら、音楽やってく仲間見つけてくる。だから、その間樂は好きな事しなよ。」
と、言ってくれた。
それで大人が納得するかは分からなかったが、俺はその一年で農業の実技勉強が出来ると思い、それをお願いした。
俺たち2人の意思が硬いと思ってくれた大人たちは、2年だけ待つと約束してくれた。
それほど、俺たちは期待されていると確信した。
俺は、この春のツアーが終わり次第、来年に向けて農業の事を教えてくれる人を探すつもりだった。
それを学校の先生に言ってみたら、先生の知り合いにそういう人がいるらしく、夏休み空いてる時に顔を見せに行きなさいと言ってくれた。
今俺の人生はいろんな人の支えで動かされている。
これで、凛翔が見たかった景色があと少しで見れる。
俺はそれだけのためにこの5年かけてきた。
たった5年と言われれば、そうなんだろう。
けれど、俺はお前たちが知らないだけの努力はしてきた。だから、この夢を叶えるためにまだ死ねない。
累「明日で最後だな。」
樂「そうだな。累の親は明日来るの?」
明日はツアー最後の日。
歴史ある教会で歌えるらしくて、聖歌隊みんなでワクワクしている。
累「仕事入ったらしくて来れないって。ネットのアーカイブで見るらしい。」
樂「そうか…。俺の親は来るから、ビデオ二台持ちしてもらうよ。」
累「ありがとう。」
少し照れながら累は笑い、お礼を言った。
ホテルのクイーンサイズのベッドに2人で入る。
聖歌隊のみんなペアになり、ホテルに泊まってこの1週間を過ごした。
後は歌って帰るだけ。
俺は父さんたちの連絡をして、累を撮ってもらうよう頼んだ。
累「おやすみ。」
樂「おやすみ。」
電気を消して、2人して同じ布団に潜り込む。
そしてまた俺は過ちを繰り返す。
なんで、肝心な事を忘れてしまうのだろう。
本当に俺が愚か者だ。




