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凛翔

4日後の朝、旅館でつけていたTVが俺の目に飛び込んでくる。


榮「…樂。」


俺はTVに映し出されている風景を知っている。

でもそこには川は無かったはず。


勝貴「が…」


樂「え…なんで…?なに…?え…?」


俺はそのTVに移される光景が信じられなくて、

信じたくも無かった。


俺はそのTVを見たまま、涙が溢れてくる。


父さんと母さんが俺を抱きしめる。

でも…、その温もりでもっと哀しさが増してしまい声を上げて泣いた。


昨日の深夜に降った突然の豪雨が凛翔とおじさんたちがいた地区一帯を川にした。

この旅行に来る前、車で30分の川に凛翔たちと行ったことは覚えている。

けど…、そんな遠くにある川があの家まで襲うのかと現実を受け入れないでいた。


俺の涙が乾き切らないうちに俺は家に帰り、部屋にこもった。


なんでだよ。

俺と凛翔は同じ中学に入って、バスケをするんだよ。

そんで凛翔は初めての彼女が出来て、俺に自慢ばっかりして、呆れられるんだよ。

中学卒業したら、おじさん家に弟子入りして20歳になったら東京に戻って畑をたくさん作るんだよ。

なんでこんな中途半端なところでいなくなるんだよ。


俺は机の下にうずくまり、部屋のエアコンもつけていないのも気づかないまま泣いた。

涙なのか汗なのかわからないけれど、履いていた灰色のスエットは真っ黒になっていた。


[コン、コン…]


弱々しく扉が叩かれて、静かに開く。


勝貴「樂、ご飯。」


父さんが扉の近くにあるエアコンのリモコンをつける。


樂「いらない。」


勝貴「何でだ。」


樂「いらないから、いらない。」


勝貴「理由になってない。まず机の下から出てこい。」


父さんが俺のタンスを開け、服を物色し始める音が聞こえる。


俺は無視してそのまま机の下に膝を抱えてうずくまる。


勝貴「来い。」


父さんは無理やり机の下から俺を引き出す。


樂「嫌だ!」


勝貴「樂!俺を見ろ!」


机の下から強制的に出され、ぐるんと体を父さんがいる方に向けられる。

そして父さんの大きい手が俺の顔を抑えて、無理矢理目をあわせられる。


父さんの目は真っ赤で瞼も腫れていた。

今気づいたが、いつもはピシッと固めた髪の毛なのに今日は固めず寝癖のままだった。


勝貴「俺も凛翔たちの事が心配だ。でも俺たちに出来る事は何もないんだ。」


父さんは目を潤ませながら、俺の目をしっかり見て言う。


勝貴「何も出来ない俺たちは凛翔たちの無事を祈ろう。また戻ってきてくれた時に一番の笑顔で迎えてあげる準備をするんだ。」


樂「…でも、戻ってこなかったら…。」


目線だけ落とした俺の顔を、掴んでいる手がグッと力が入り目を合わせられる。


勝貴「そんな事考えるな。凛翔たちはどんな姿形であれ俺たちの元に戻ってくる。だから俺たちは生きる行為を蔑ろにしてはダメなんだ。」


父さんはそう言うと、俺の服を着替えさせ始める。


エアコンが効いてきて、汗ばんだ背中が寒さを感じる。


勝貴「今は無理に笑えとは言わない。けどな、こうやって塞ぎ込んでご飯も食べずに自分で生きる命を蔑ろにするな。生きているのならしっかり目を開けて現実を受け止めて前に進め。

これからも、もしかしたら今以上に辛い事が起こるかもしれない。

けどな、お前が生きてる限り自分の人生どうにかなるもんだ。だから歩みを止めるな。」


バンバン!っと父さんが俺の肩を叩いて、ここに俺が存在している事を確認させてくれる。


樂「…うん。」


父さんが笑い俺の髪の毛をワシャワシャと撫でて、久しぶりに抱っこをしてリビングに連れて行ってくれる。


すると母さんがSAで買った胡麻豆乳の冷たいうどんに白髪ネギをモリモリにして席に座って待っていた。


俺は『いただきます』だけを言い、無言で涙を流しながら食べた。


凛翔の好きなサラダうどんの秘伝のタレにすり胡麻が入っていた事を、一口食べる度に思い出すからだ。


父さんと母さんはそれを静かに見守って食べ進めていた。


ごめん、俺2人みたいにうまく涙がまだ止められないんだ。

もっと上手く笑顔作れるようになるから、もう少し待ってて。


俺は喉の締め付けに抗いながら、うどんを汁まで飲み完食した。





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