使い魔猫ウルタールの暇つぶし日誌
吾輩は猫である。
名前はウルタール、毛並みは見事なキジトラである。
猫と言っても単なる猫では無い。
町内の猫共を統べるボス猫であり、魔導士様を御守りする使い魔猫である。
今宵、夜道を見回っているのは、暇つぶし等では無い……断じて。
主が住まう、町内を夜回りして警備するのが吾輩の役目。
星空が綺麗だにゃ~♪とか、夜風は気持ち良いにゃ~♪とか、浮かれているわけでは無い……断じて。
ん!?
「た……たすけて……」
そう、か細く怯える声が微かに聞こえる。
声は、あの公園からだ。
吾輩は、夜回り中。
当然、見に行かねば!
ほの明るい街灯に照らされるその公園の中へと。
そして茂みに身を潜めて、声のする方へ視線を向ける。
年端も行かない少女が、両手を胸に握りしめ、怯える様に佇んでいる。
そして、その少女の目の前で、威嚇する様に鎌首をもたげて居るのは……ムカデ!?
それも、普通のムカデなんかじゃ無い、吾輩よりも大きな化物ムカデだ。
なんで、こんなのが……なんて考えてる暇もない。
素早く、そのムカデの目の前に躍り出て、少女のに襲い掛かろうとするヤツに、吾輩の伝家の宝刀、猫パンチをお見舞いする。
カリッ!
と音を立て、吾輩の爪が弾かれる。
固い殻だ、爪が通らん……。
已むを得ん、この手は使いたくなかったんだが、背に腹は代えられん……。
ムカデに飛びつき、噛みつく!
ハムハム、ハムハム……いや、別に甘噛みしている分けじゃ無い……断じて。
ムッ、マズイ、巻き付いて来た!
負けじと噛み締める顎に力を込める。
ハムハム……バリッ!
ヤツの固い殻に牙が食い込む……だが、ヤツの締め付けが更にキツク……。
バリッ、グシャッ!
固い殻が砕け、そのまま喰いちぎる。
ムカデは気味の悪い体液を首元から流し、そのまま息絶える。
すると、巨大だったヤツの体が小さく、普通のムカデに。
どうやら、吾輩に退治され元の姿に戻った様だ。
ペッ、ペッ、不味ッ!
口の中にヤツの体液の味が広がる。
そして後ろを向き、後ろ足で、斃した強敵の屍を覆う様に砂を掛け、弔う。
武士の情けってヤツさ。
「有難う猫ちゃん♪」
少女が吾輩を抱き上げ抱きしめる。
フッフッフ♪ 存分に抱き締めるが良い♪ そして、モフるが良い♪
暫くして少女の腕から解放されると、一旦彼女に背を向け歩み、もう一度その無垢な魂に振り返る。
ついて来ると良いよ。
魔導士様なら、きっと迷える君の魂を幽世へと導いてくれるさ。
「にゃー♪」