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家族になりますっ!  作者: 桜城カズマ
第一章「僕はお前のおにーさんだから」
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第9話「集中するのは得意なんだ」

だいたい2時間くらい経っただろうか。帰ってきた頃には13を指していた短針が、今では15を少し過ぎている。

それくらいの時にはもう誤字脱字等の作業は終わった。

グーっと背伸びをしてから、気持ちよさそうにすやすやと寝ている奏音を起こす。


「おい、奏音。終わったぞ」


「あ、勝さん…おはようございます、どれくらい経ちました?5時間?6時間?」


眠そうにふわぁ、っとあくびをしてから背伸びをし瞼を擦りながら奏音は言った。


「5〜6時間も経ったらもう外は真っ暗だぞ……2時間くらいじゃないかな?」


「そうですか、2時間……2時間、って2時間?!」


先ほどまで意識がぼんやりしていたようだったのに、今では目を見開き普段からは想像もできないような大きな声で驚いている。


「うん?なんかおかしなことを言ったか?」


確かに少し早いかもしれないけれど、別に特段早いというわけではないだろう。


「いやいやいや、嘘ですよね!?渡した小説は確かネットにアップしてるやつの中でも一番最初に書いたやつで、確か10万字くらいはありますよ!?それを2時間以内に読み終えた上に、誤字脱字、文法を直すとか、絶対に無理ですよね!?」


「集中するのは得意なんだ」


「いくら集中することが得意だからといって、これはおかし過ぎです!ちゃんと読んでないんじゃないですか!?」


奏音は声をさらに荒げて言う。


普段からは想像もできない形相から、どれだけ真剣に小説家を目指して物語を紡いでいるのかが伝わってくる。


「そんなことないぞ。ちゃんと読んだ。その証拠にほら――」


僕は小さいテーブルの上に置いていた奏音の小説を手に取りタイトルのページをめくってみせる。


「こんなにびっしり書き込んでやった」


そこには、僕が先ほどしたばかりの誤字脱字等の訂正がされてあった。


「え……!?ちょっ、ちょっと貸してください!」


奏音は僕の手から小説を奪い取ってページをめくる。


「すごい……全部ページこんなにびっしり……確か渡したのは大体100枚分だったはずだし……」


奏音はぶつぶつとそう呟きながらも何度も何度もページを行ったり来たりする。


「どうだ?ちゃんと読んでるだろ?」


「はい……疑ってごめんなさい……」


「いや、そんな頭下げなくてもいいんだって、僕はお前のお兄ちゃんな訳だし、これくらいどうってことないし!」


奏音がとても申し訳なさそうに頭を下げてくるので、僕は慌ててそう言った。


「あの……勝さん、これからもこうしてワタシの手伝い、してもらえませんか?」


「いいよ。あ、あと名前」


「え?」


「だから、僕のこと寝る前くらいまでは『おにーさん』だったのに、今だと『勝さん』になってるのはなんで?」


そう、起きたあたりからか奏音はずっと僕のことを「おにーさん」とは呼ばず、「勝さん」と呼んできていた。


距離感があって少し寂しく感じる。


「それはその……正直、慣れてないんです。ちょっと無理してるってくらいかもしれません」


少し間を置いてから、奏音は言い出しづらそう切り出した。


「無理してる……?」


「はい、だって、いきなり『今日からこの人があなたのおにーさんです』なんて言われてすぐに、それも出会って間もないような人のことを『おにーさん』って呼ぶだなんて難しくないですか?」


言われてから考える。確かに、僕は「姉さん」のことを意識的に呼んでいる。

だからこそ時々「軽音さん」、と呼びそうになる時がある。

もしかしたらそれに近いのかもしれないと納得した。


「多分、ですけど。響佳お姉ちゃんも、そうです」


奏音はまた言いづらそうにして言う。


「そっか……まあそうだよな。仕方のないことだよ。それに、これから家族らしくなっていけばいいだけの話だろ?」


「確かに、考えてみるとそうかもしれないです」


だって僕らは『家族』になったばかりで、お互いの好きなものも嫌いなもの知らないような関係なんだ。

これからゆっくり少しずつ、『家族』になっていけばいいんだ。


「おにーさんっ♪」


「え……??」


なんとなく浸っていたら突然奏音が僕のことを呼んだ。

それもなんというか、猫撫で声というのだろうか、テンションが高いようなトーン。

奏音はいつの間にかベッドに腰掛け、膝をぽんぽん、と叩く。


「……?なに?」


意図が全くわからない。


「わからないんですか?全く、鈍感な人ですね。膝枕してあげようって言いたいんです」


「唐突だな」


「小説をちゃんと読んで添削してくれたことへの感謝の意です。いりませんか?」


「ああいや、せっかくだししてもらうよ」


「わかりました。どうぞ」


僕は頭を奏音のふとももの上へと乗せる。

年下というか、そもそも女の子に膝枕自体されたことないな、と思ったのが悪かったのか、なんとなくドキドキしてきた。


奏音のふとももはとても柔らかく、幸せな気持ちになった。

少ししてから、奏音の手が恐る恐る、という感じで僕の髪に伸ばされる。


そしてゆっくりと優しく撫でられる。


僕は顔を上げて、「なに?」と聞く。


奏音は、「その、なんとなく、撫でたくなってしまって……迷惑、でしたか……?」と撫でる手が止まる。


「いや、そんなことないよ。気持ちいいし。落ち着く」


僕の答えに安心したのかホッと言ってからまた奏音は頭を撫でる。


僕は膝の柔らかさと頭を撫でられ気持ちよくなっていたからか、少しずつ微睡み、やがて眠りに落ちた。

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