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家族になりますっ!  作者: 桜城カズマ
プロローグ「これから仲良くなっていきたいな」
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第7話「今日はカレーかな?」

下へ降りると香ばしいスパイスの匂いがした。

その匂いを嗅いだせいか、僕と奏音のお腹がグーっと鳴く。

僕らはそして二人で「あははっ」と笑った。


「お腹空いてきましたね」


「ああ、匂いからして今日はカレーっぽいよね」


「ワタシ、カレー大好きです」


嬉しそうに奏音は笑う。


親父も僕もカレーは好きだ。

もしかしたら母さんはそれを知って今日はカレーにしたのかもしれない。


リビングに出ると既にテーブルの上にはカレーとスプーンが置いてあった。

そばには福神漬けも置いてある。

そして先程話をしていた位置と同じところに親父たちは座って待っている。


「お、きたか勝……って、もう奏音ちゃんと仲良くなったのか?」


親父が僕の後ろを指して言ってから気がついた。


奏音がなんだか恥ずかしそうに僕の後ろに隠れながら顔をひょこっと出している。

あといつの間にかシャツの端っこを掴まれていた。


「えっと……奏音?」

「あっ、すみません、なんとなく……」

「いや、いいよ、なんか『お兄ちゃん』って感じがするし」

「ずるーい!アタシもお兄ちゃんに甘えたいー!!」


響佳が僕らの側まで寄ってきて奏音がいるのとは逆方向から僕のシャツを掴んでぐわんぐわんとゆする。


「あ、あはは……」


僕は困ってしまって苦笑いをして母さんに助けを求める目線を送る。


「こらこら、お兄ちゃんが困ってるでしょ。それにご飯も冷めちゃうから甘えるのは後になさい?」


「わかった!おにーちゃん!早く食べてねアタシも早く食べ終えるから!!!」


そう言ってから響佳は自分の席に戻る。


「あ、あの、ワタシも甘えたい、です…いいですか?」


奏音はシャツの端をより強くぐっと掴み申し訳なさそうに上目遣いで僕をみてくる。かわいい。


「もちろん、ほら、早く席に着きな?」


「あ、ありがとうございますっ……!!」


奏音はパッと顔を明るくして自分の席についた。


その後僕も席について、みんなで一緒に「いただきます」といってカレーを食べ始める。

久しぶりに親父と僕以外の人と一緒にご飯を食べた気がする。……学校では一人だし。


一口口に運ぶと、一瞬にしてスパイス独特の辛さが口の中に広がる。野菜はとても食べやすいサイズに切り分けれていて、普段親父が作ってくれるような、野菜がでかいとか、甘口くらいの辛さとかはまったく無く、『金城家のカレー』と言った感じがした。


「むがっっ!? ごほっごほっっ!?」


そして、親父が盛大にむせた。


「ちょ、親父っ!?」

「喜彦さんっ!?」


親父は慌てて水が入ったコップを勢いよく飲み干す。それはいい飲みっぷりで、ゴク、ゴク、と心地の良い音を立てた。


「ぷはっ、ちょ、ちょっと辛かったかな……!」


水を飲み干して第一声がそれだった。それを見てから僕は思い出した。そうだった、親父は辛いものが苦手で、我が家でカレーを作るときも辛さは絶対中辛未満なのだ。そう考えると、この辛さでむせるのもわからなくもない。このカレーは少なくとも中辛よりは辛い。

僕は思わず笑いがこみ上げてきて、抑えきれなかった。

最初は僕のそんな様子をキョトンとして見ていた母さんや響佳も笑った。


「ごめんなさい、喜彦さん。私、あなたが辛いものが苦手だなんて知らなかったわ」


笑いが収まってから、母さんは謝った。親父が辛いものを苦手にしているのを知っていてこれを作ったとしたら、本当に好きなのか疑ってしまう。親父は変なところで見栄を張ると言うか、子供っぽいところがあるので、おそらく母さんにダサいところを見られたくなくて、そういうものを避けてきたのだろう。


「あ、ああ、いいんだよ。こっちこそごめんよ。先に言っておけばよかった」

「そうね、そうかもしれないわ」

「立ち直りが早い……」

「ふふ、冗談よ。ごめんなさいね。カレー、作り直す?」

「いや、いいよ。せっかく作ってくれたんだ。残さず食べるよ、また作ってくれ」

「今度はとびきり辛いのにするわね」

「え、い、いや、それは……」

「ふふふ……」


親父と母さんのそんなやり取りからは、なんとなくお互いへの信頼のようなものが見えた気がした。……単純に母さんの尻に敷かれつつあるだけかもしれないが。


「そういえば、お母さんはお父さん(この人)のどこが好きになったの?」

「えっ!?」「んんっ!?」


一段落つき、再びカレーを食べていると、軽音姉さんが突然そんなことを言い出した。二人は似たような反応をして、それがまた笑いを誘った。


「なんか、若々しいというか、初々しいよね、二人とも」

「それはすごく思うわ。とても。ええ、とても」

「そ、そうかしら……?」

「さぁ……?」


響佳に同意する軽音姉さん、それを不思議に思い顔を見合わせる両親。少しの間不思議そうに見つめ合っていた二人は、お互いに笑い合ってから、話を始めた。


「出会いは……何だったかしらね」

「忘れないでくれよ、(りん)から話しかけてきたんじゃないか」

「あら、そうだったかしら」

「とぼけているな……バツイチ同士、話をしようって。高校以来久しぶりに声をかけてくれたんじゃないか」

『ちょっと待って!?』


初めて僕ら子供組の息がピッタリあった。そんなことより、馴れ初めの話だ。二人は高校時代からの友達だったのか!?」


「ん?なんだ?」

「たぶん、私達が高校時代からの付き合いって事に驚いてるんじゃないかしら?」

「なるほど。まあ、なんだ。俺と鈴は、それなりに仲が良かったんだよ。高校を卒業してからは疎遠になってたとは言え、な」

「そうね、あなたが離婚したって聞いて、すぐに笑ってやろうと思って連絡したの」

「いや違うだろう!?」

「わからないわよ?」

「ぐ……!」


そうして二人が言い合いを始める。小さい頃、僕の産みの母親と親父が言い合っているのを何度も見たけれど、二人のはまたなんだか違うもののような気がした。きっと、高校の時からこんなやり取りをする仲だったのかもしれないと思った。というか、カレーを辛くしたものわざとのように思えてきた。


「それでだ。まあ色々あって、付き合って、俺がプロポーズした」

「その色々が気になるんだけど」

「そうね」「ええ」「そうです」


僕のツッコミに、母さん、軽音姉さん、響佳の三人が同意する。


「えぇー……俺が話すのか?」

「嫌なら私が話すわ」

「脚色するだろうお前は」

「しないわよ。だって私――」「ごちそうさまでした」


母さんが気になるところを話そうとした瞬間、奏音がぱちんと手を合わせて言った。


「あの、おにーさん。ワタシ、先に部屋戻ってますね。じゃあ」


奏音は皿を台所で水につけてから、僕にだけそう言い残して二階に戻っていってしまった。


「奏音、もう部屋に戻っちゃった……」

「仕方ないわよ、いつものことだわ」


響佳と慧音姉さんが、二人して奏音が出ていったドアを見ながら話している。


「いつものことって?」

「あの子、いつもご飯を食べ終わると二階に戻ってなにかしてるのよ。大方、本でも読んでるんでしょうけど……」


母さんがどこか寂しそうに話してくれる。親父と話すときは軽口を少し……いやかなり叩くけれど、子供のこととなると真剣になるらしい。

すっかりなり染を話す空気ではなくなってしまったので、僕は食べ終えた食器を流し台に持っていき、水に浸す。温かい水が手を包み、ほんの少し気持ちがいい。


「いつからああなったんだっけ、奏音」

「どういうこと?」


ポツリとこぼれたような響佳の言葉を、僕は聞き逃さなかった。


「ずっと本を読んでるって言うか。小学生の途中までは、あんな感じじゃなかったんですけど……」


うーん、と響佳は顎に手を当てて、思い出すように頭上を見上げる。


「まあ、そういうところも可愛いとは思うんですけど。やっぱりもっとちゃんと話がしたいって、アタシは思うんですよね」

「そうなんだ……」

「だから、アタシたちの仲を取り持ってくれないかなーとか、期待してたり」

「ちゃっかりしてる」

「えへへ」


一緒に御飯を食べたことで、響佳となんだか少しだけ仲良くなれたような気がして、それがたまらなく嬉しかった。僕らは家族になるんだ。


カレーを食べてから9時を少し過ぎるくらいの時間になってから、僕と親父は家に帰った。


「どうだ?新しい家族は。仲良くやっていけそうか?」


「うん、妹たちはいい子だし、母さんは優しいし。……姉さんとはほとんど話さなかったけど、これから仲良くなっていきたいなって思う」


10時ごろ、二人とも風呂に入ってから、自分の家のリビングで親父と僕はテーブルに麦茶を置いてそんな話を少しした。


別に特別なことではなく、普段から風呂に入ってからは二人で何かを飲みながら話をするのが日課になっている。


時計の針が12時になる頃、僕はベッドに潜り込んだ。



☆ ☆ ☆ ☆



『新しい家族が増えた。


正直まだ慣れないけれど、それは普通のことだと思う。

少し意外だったのは、あの奏音が兄である勝さんにすぐに心を開いたことだった。


あの子は家族とすらどこか距離感を感じる。でも彼にはベッタリだ。

何があったのかすごく不思議に思う。

そして同時に彼に少しばかり期待の念が湧く。


「もしかしたら彼は、私を変えてくれるかもしれない、救ってくれるかもしれない」と。


そんな柄にもないことにそんなふうに思った。

そのことはここに書き綴ってから胸にしまっておくことにする』


「――」


私は『毎日の記録』と書いたノートを閉じて引き出しに入れ、鍵を掛けた。


時計の針は、10の数字を指していた。


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