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家族になりますっ!  作者: 桜城カズマ
第一章「僕はお前のおにーさんだから」
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第30話「今日の放課後、校舎裏に来てくれない、かな」

数日の間、ワタシは小説を更新しなかった。

どうしても小説を書く気分にはなれなかったから。

そのせいで、おにーさんとはほとんど話せていない。その上、相談しようと思っていたこともなかなか相談できずにいた。

学校にはきちんと毎日通っているが、当初期待していたような小説に役立つような出来事など一つも起きないし、なんなら学校へ通い聞こえる陰口に何かがすり減っていくのを感じるのみだった。

あふれ出る感情を押し殺し、飲み込み、学校でただただ時間をつぶすだけ。

学校にいるくらいなら、小説を書いている方が有意義なのではないか。

そんな気持ちすらねじ伏せ、今日もワタシは学校へ足を運ぶ。


「ね、ねえ、奏音・・・・・・ちゃん?」


後ろから誰かに声をかけられた気がした。

最初は気のせいだろうと思ったし、気のせいであってほしいと思った。家族以外でワタシに話しかける人間なんていないし、話しかけてきたとしたらそれはワタシを貶めようとする人だろうと思えるからだ。


「奏音ちゃんってば」


もう一度呼ばれたことで、ワタシはちゃんと呼ばれているということをハッキリと認識した。

それも声の主はそれなりに聞き覚えがある。それなりというのも、しばらく聞いてなかったせいですぐには思い出せなかったし、思い出したくもない相手であったからだ。

振り返る。そこには眉にかかる程度にカットされた前髪がよく似合っている、イケメンに部類されるタイプであろう、男の人がいた。石上宗次。それが彼の名であり、ワタシの学校におけるたった一人の友達であり・・・・・・そして最初にワタシの夢を応援してくれて、ワタシが小説を投稿していることを明かしているたった二人のうちの一人でもある。


「え、と・・・・・・なにかな、石上くん」


ワタシは努めて笑顔で接する。なぜ今になって話しかけてきたのだろうか。彼はワタシが小説をネットに投稿していること、投稿している小説をクラスの人たちに教えた張本人だったはず。


「石上くんって・・・・・・前みたいに、さ、『そーじ』って呼んでよ」


石上くんは困ったような笑みを浮かべながら言う。クラスの女の子がイケメンだと噂していたが、なるほど確かにイケメンかもしれない。だが、今でこそクラスでイケメンと囃し立てられる彼であるが、以前まではワタシと同じようにクラスでは目立たない方だった。

どうやらワタシが不登校になっている間にいろいろあったらしい。


「あら、そうだったかしら。もうしばらく会っていなかったから忘れてしまったわ」


ワタシは突き放すように言う。できることならさっさと切り上げたい。ワタシが彼と絡んでいる時点でクラスで何か言われそうだというのに、これ以上一緒にいたくない。


「そ、そっか・・・・・・」


「ええ。話は以上?」


「ああいや、違うんだ。その・・・・・・良ければ今日の放課後、校舎裏に来てくれない、かな」


石上くんは恐る恐る、といった様子で言う。


「いやよ」


「ええっ!? な、なんで・・・・・・ど、どうかお願いだ。来てくれ!」


ワタシの返事に彼は両手で頼み込むように頭を下げてくる。

彼の行動が余計周囲の注目を集めているのが分かった。


「ああ、もう・・・・・・わかったわよ。今日の放課後、校舎裏ね」


「あ、ありがとう!」


彼はワタシが了承するや両手をとってぶんぶんと振って言う。早く離してほしい。


「じゃ、じゃあボクは先行くから!」


石上くんは言いたいことが言えて満足したのか、手を振って遠くへ行ってしまう。

ワタシは学校へ着くなりすぐに石鹸を使って丁寧に洗ってから教室へ入った。

なんだか今日はいつも以上に周囲の目を集めている気がするが、まあそれもそうだろう。石上くんがワタシに自分から話しかけているところを目撃した人が多くいたのだ。クラス中に広まっていてもおかしくはない。

それにしてもどうしたものか。

放課後に校舎裏。という時点でおそらく告白的なモノだろう。ワタシには今まで全く縁もゆかりもなかった、というかこれからもないものだとばかり思っていた。

もちろん、違う可能性だってある。正直そうであってほしい。

だが告白だった場合、丁寧に振らなければクラスでの立場さらに危うくなってしまう。

ただまあ、よく考えたら彼のようなイケメンから告白され、その上フッた時点で危うくなることは確定しているようなものだなと思い直し、ワタシは諦めて持ってきていたライトノベルを開いた。

彼がどういう人間なのか知らない人たちは楽しそうでいいな、なんてちょっとばかし思いながら。


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