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家族になりますっ!  作者: 桜城カズマ
第一章「僕はお前のおにーさんだから」
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第12話「辛いことがあったときは、話して、頼っていいんですよ?おにーさん?」

「ごめんなさい……ごめんなさい……」


ワタシはそんな懺悔(ざんげ)の声に起こされた。

勝さんは必死に、許しを乞うように、先ほどまで枕にしていたワタシの太腿(ふともも)に頭をグッと押し付けながら泣いている。


ワタシの太腿は勝さんの涙と鼻水で濡れてしまっていた。

ワタシは不快というより、心配になった。

どうして勝さんは、こんなにも必死に謝っているんだろうか。


「……?どうしたんですか?」


ワタシはそっと頭を撫でながら訊く。


「ああ……そうか……夢か……。いや、なんでもない、大丈夫だよ、奏音」


勝さんは顔をあげてキョロキョロ頭を見渡し、顔の涙と鼻水を拭ってから答える。


「うそ、ですよね。誰がどう見ても普通じゃなかったです。大丈夫そうじゃなかったです」


ワタシが言うと、勝さんは「いやー、あはは……」と誤魔化すように、困ったように頭をぽりぽりとかきながら笑った。


「話なら聞いてあげます。もちろん、話したくないなら別にいいですが。辛いことがあったときは、話して、頼っていいんですよ?おにーさん?」


ワタシは勝さんの頭を撫でながらニコッと笑う。


「ああ……ちょっとだけ、遠い昔の夢を見たんだ……」


勝さんはワタシの横に座って話し始める。


「偶然ですね、ワタシも見ました」


「そうなんだ、不思議だな」


勝さんはぎこちなく少し口角を上げて笑ってみせる。


「……僕にも昔、血の繋がった実の母がいたんだ」


「うん」


ゆっくりと口を開いて勝さんは言葉を紡ぐ。

ワタシはそれを一つ一つ飲み込んでから相槌を打つ。


「母さんは僕のことをいい大学……に通わせようと、小学2年生の頃から僕に勉強することを強いたんだ」


「うん」


「当時の僕は必死に頑張っているつもりだった。だけど僕の成績は一向に上がらなかった。それに母さんは激怒した」


「うん」


「親父は僕のことを庇ってくれたけど、そのせいで離婚することになったんだ……」


「うん」


勝さんはまた泣き出しそうになりながら言う。ワタシはただ相槌を打って、次の言葉を待つ。


「最愛の人と別れることになるなんて、想像するだけでも辛い。それを親父に強いてしまった……それが申し訳なくて、家族が壊れていくのに、その中心にいるのに、何もできなかった自分の無力感が嫌で――」


「うん」


勝さんの夢の話は終わりに見えたけれど、まだ何か話したいことがある様子だった。

ワタシは黙って話し始めるのを待つ。


「――……だけど実はさ、親父たちが離婚してからも僕は頑張ってたんだ。『僕の成績が良くなればきっと復縁してくれる』って信じて」


「うん」


やっぱり、まだ続きがあった。


「けど母さんは……僕が小学六年生中になる頃に……再婚したんだ。別の人と」


「うん」


勝さんは悔しそうに言った。


「僕の今までの努力は無駄だったんだって、そう思った。もう努力しなくていいなって救われたような気もした」


「うん」


「だけど見ちゃったんだよ,知っちゃったんだよ。……親父が、再婚の話を聞いて、泣いてるところを。とても母さんのことを愛していたことを」


「うん」


「僕は僕を助けてくれた人を悲しませてしまった……辛い思いをさせてしまった……僕はそれが何よりも辛かった……」


「うん」


「それから、中学生になったあたりから努力が実って()()()()のか、成績が驚くほど伸びた。一番ではないけれど、かなり上の成績を納めてしまった」


「うん」


「僕は僕を呪ったよ。『どうしてもっと早くに実らなかったんだ』って。『もっと早く実ってれば、親父に辛い思いをさせずに済んだのに』って」


「うん」


勝さんの瞳からぼろぼろと涙が溢れる。


「それでっ……それでっっっ……!!」


ワタシは耐えきれなくなって、勝さんのことをギュッと抱きしめる。

勝さんの表情は見えない。

驚いているだろうか。まだ泣いているだろうか。

ワタシは勝さんを強く抱き締めながら頭を撫でる。


「よく――よーく、頑張りました。あなたの辛さは、努力は、伝わってきました――。勝さん、少なくともあなたが頑張って手に入れた力で、ワタシは救われました」


少しだけ涙が溢れる。


「えっ……?」


耳元で勝さんの驚いた素っ頓狂な声がする。


「ワタシ、初めてだったんです、感想をもらったの。今までネットに上げても感想が来たことなんて、あんなに細かく感想をもらえたことなんて、なかったんです。ワタシはすごく嬉しかった。『ああ、ちゃんと読んでくれてる』って」


「そう……なんだ……僕は……僕の頑張りは、親父じゃなかったけど、君を喜ばせられたんだね……それなら……よかったかもしれない……」


ワタシ達は、二人抱き合って長いこと泣いていた。

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